◇ 木材の欠点



プラスチックに比べて、木材の長所短所というような話しではなく、
楽器材としてあまり良くない部分の話です。
例えば大きな節があって、穴が開いてしまっていたら、これは嫌ですよね。欠点です。
色んな欠点があります。




・節 。見た通りです。死に節と生き節というのがあって、死に節は押せば取れてしまうようなもの。これは影響大です。
 生き節というのは、見た目は節ですが、周りの材と繋がっていて強度を保てるものです。
 また、節の周りは組織がうねっていますので、少々広範囲に影響してきます。


・入り皮 は、樹皮が入り込んでいて残ってしまったものです。
木材の繊維としてその部分で連続していない事になりますので、場所によっては影響大です。

生き節、死に節



・虫喰い は、木喰い虫に喰われて欠けているものです。多くは樹皮のすぐ下がやられていますが、
ひどいものは貫通穴になってしまいます。
虫喰い


・アオ とは、恐らくはカビの青色の事です。アオが入っていると言われます。
 変色という欠点ですが、長期間湿気があってカビを放置された材の場合、その部分は脆く柔らかくなっている場合がありますが、
 そういうものは仕入れてきませんので素材としてはしっかりしています。 ほとんどは伐採直後の一時的なカビです。
 色は染み込んでいますのでカンナで削る程度では無くなりません。また、表面的なものではないので触っても汚れたりはしません。
アオ


・ヤニツボ とは、松ヤニが溜まっている部分で、そこからどんどんヤニが出てくるのでヤニ壺と呼ばれます。
 また、壺が入っている訳ではありませんが、ヤニの溜まり場が壺っぽくなっているものもあります。
ヤニツボ


・耳 とは、パンの耳と同じで、表面というか端っこに樹皮が付いている、まあ、樹皮は取り除くというか取れちゃいますけど、
 そのすぐ下の表面は砂漠の風紋のようであったり様々です。ツルツルで肌触りの良い材もあります。耳付き材と表現します。
 欠点という意味では、材寸法が足りなかったという判定の場合ですね。削り残しとも言えますので。
 天然素材を売りにしたテーブルやカウンターでは、端部を耳のまま残してあるものが好まれていますね。
 僕の場合、耳付きで作れそうな場合には、ただ面白いから残して入れているだけです。

・巻き、うねり は、特に縦方向の木目が真っ直ぐになっていない材の事です。
作る側としましては、カンナがうまく掛からなかったりして加工が難しい材でもありますし、
やはり均一ではないという意味で嫌われる事があります。
あとから反り易いという評価もありますが、しっかり乾燥させていればそんな事もないです。
また、ここでいう巻きやうねりは、繊維が大きくとぐろを巻いていたり、途中でくの字に曲がっているようなものの事で、
全体的に細かく波打っている材は、欠点ではなく杢(もく)と言いまして、次項目で説明します。
耳、巻き、うねり


・杢 は欠点ではありません。逆にキレイな模様の事を「杢目(もくめ)」と呼びます。
板目柾目の木目と同じ発音ですが、杢とも言いまして、虎やヒョウ柄になって見えるものを虎杢(トラモク)とか言います。

もともと松の木では用途的にみても、杢が出たとはあまり聞かないのですが、結構キレイなものもありますよ。
表面を平らに仕上げているのに、光が当たると風紋のようなキレイな模様が浮き出て見えて面白いです。
思わず触って撫でてみて、本当に平らなのかと疑うほどに見える材があります。
ギターやウクレレなどでは多くの人がキレイな杢を求めて材選びをしていますね。
人が作り出す事の出来ない、希少価値のある材として非常に高価なものになります。
また、楽器としては音が柔らかくなる傾向にあるという話しもあります。
杢


・白太について
丸太を輪切りにしてみると、中心側が赤く、外周側に白い部分がありまして、その外側に薄い樹皮が付いています。
中心側を心材(しんざい)、赤身(あかみ)などと呼び、
外側を辺材(へんざい)、白太(しらた)と呼びます。
輸入材の濃色の材も同様です。黒檀や紫檀は特に心材の部分が使われますが、白太はやはり白っぽく明るい色なんですよ。

ところで、樹木の生長の仕方ですが、
樹皮の下の細胞が生きていて、外側へどんどん太くなるように生長していき、年輪が形成されていきます。
寒いとじっくりと生長する為、細胞がぎゅっと密に詰まり、暖かいと細胞が膨らんで生長するという具合です。
なので、四季のはっきりとした日本で育った材は、年輪がはっきりしています。
気候が一年中変わらなければ年輪は見えません。たぶん(笑)。

で、樹皮のすぐ下が一番活発な細胞です。生きています。
白太もまだ生きていますが、数年経つと死んでしまいます。
細胞が死ぬと、そこへ防虫防腐効果のある樹液が溜まり、色が濃くなるのです。これが心材です。
また、白太よりも細胞が縮んで詰まるようです。

じゃあ、木材の中心を使うのが一番良いかというと、
大きな樹木に生長するまでの事を考えますと、実は種から芽が出て数年が一番生長が早いのです。
森の中で早く高い所まで到達しなければ光を得る事が出来ずに枯れてしまうからです。
こうして他の樹木と肩を並べる高さまで到達すると、生長は穏やかになります。
樹木の種類によって変わりますが、松の幹が20mくらいに達し、一人前になるまでに百年。
で、それ以後は上には伸びず、全体的に活動が穏やかになるので、均一で目の詰まった年輪を形成していきます。
ここからが一番の良材という事になるのですね。
なので、樹齢二百年という材を、中心側百年分は成長期の粗い材、その外側がオイシイところ、
白太は有効な樹液も少なく、まだ生きている細胞なので比較的柔らかく、なるべくなら避けるべきところです。

という訳で、白太も一応は欠点の部類としていますが、
一番オイシイところはこの白太に近い部分ですし、色の濃淡や流れ方を楽しめる部分でもありますので、
少々入っている状態で完成するのが僕は好きですねぇ。
白太


・割れについて
まず、乾燥時に割れますし、割れを避けて作りますので、作り終わってから割れてくる事はほとんど無いと思いますが、
急激に極端な乾燥をすれば割れる事があります。
完成品を裸のまま車に積んで走ると、1時間程度で表面があちこち割れてくる事があります。
ただし、薪割りのような感じではなく、クモの巣状に細かい線が入る小割れです。
また湿気を吸うと材が膨らんで、小割れは見えなくなってしまいます。
木材とはそういうものなのですね。
楽器の機能的に支障をきたす割れであればその材は使いませんし、
そのような割れは荒割の際に避けるか、あるいは胴のくり抜いてしまう部分に来るように木取りします。
あとで割れてきた場合、使っていてどうしても気になる割れは、同じ材の薄片と膠を使った補修も出来ますが、
制作中に小割れを発見しても、基本的に補修はしません。
補修という欠点よりも割れという欠点の方がマシだと僕は思うからです。
きっと木の都合で割れたい事があったのです。
ちくしょー割れてやるーパキ。みたいな(笑)。ね。

木材の乾燥という事だけに特化した書物があります。
一冊の辞書のような厚い本が出来上がるくらいです。
乾燥方法はそれくらい難しい事なのです。
その道何十年だろうと、木に従うしかないのですね。

樹皮の付いた原木を購入してきた場合、
荒割して表面をちょっと乾かしたらラップを巻いたりもします。
無駄な抵抗かもしれませんね。
専門家に笑われるのは嫌ですけど、木に笑われるのは仕方無いのです。


小割れの周りを彫刻すると、細かい部分が取れてしまう事がありますが、ゴメンナサイ。



そして、これらの欠点がたくさん入っている材でも作りましたが、どうでしょうか。
プラスチックには無い天然素材の面白さ、一品一様に違うから面白いのです。
こういう所で生きている森を感じる事が出来るような気がしませんか?

色味具合

逆に、こういう具合の材を下さいというのもなかなか難しいものです。
なるべく上記欠点の少ない材を在庫していますもので。



よじ登る。。

とりあえず戻ってみる。