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浜名湖でシーカヤックを楽しむ 引佐・三ヶ日編その2 浜名湖で夜のシーカヤックを楽しむ
生まれて初めての時間と空間脅威の癒し世界がすぐそこに

夜の浜名湖を、カヌーでいく。というのが今回の体験テーマ。文字通りの水先案内人となって、その世界へ我々の魂を導いてくれたのは、マリンクラブ『トリトン』の熱きオーナー坪井さん。なぜ“魂”としたのか。その理由は、このレポートを読んでいただければおわかりいただけるはず。万葉集の時代、いやそれより太古の昔から、ここには夜光虫が織りなす幽玄の世界があったのだ。その小さなきらめきは、現代人の心の奥底に眠る何かを照らし出す。1度は雨にたたられ断念したが、坪井さんの熱い話と人間性にふれ、ぜひその世界を体験してみたいとサイド『トリトン』を訪れ、だいすき隊は夜の闇にこぎだしたのであった。

それって『涅槃』?

トリトン 浜名湖でシーカヤックを楽しむ

秋の初めの薄暮の中、一路浜名湖湖畔へ向かうワゴン車のフロントガラスを、雨粒がたたきはじめた。「もしかして、雨だとできないのかなあ?」。女性4人、男性1人の今回のだいすき隊の中で、唯一のうら若き独身乙女のNちゃん隊員(かわいいので“ちゃん”づけ)が不安気に聞く。残念ながら、雨天の場合はできないと聞いている。だが、雨は小ぶり。着くまでにはやむかもしれないと淡い期待を抱いて『トリトン』に着いたが、オーナーの坪井さんは、「今夜はちょっと無理かもしれんね」と、浜名湖を覆う漆黒の夜空をみながら言うのだった。

うーん。残念。せめてその世界の魅力だけでもレポートしようと、坪井さんにお話を聞かせていただくことにして、クラブハウスの2階へ。だが、それではすまなかったのである。坪井さんの熱きパッションに、大好き隊は感動し、大いに啓発され、是が非でも体験することを決めた。

トリトンのオーナー 坪井さん

シーカヤックの魅力を熱く語ってくれる『トリトン』オーナーの坪井さん

トリトンは、シーカヤック体験&グッズショップ。初心者から上級者まで、シーカヤックの魅力を堪能させてくれるスポットだ。オーナーの坪井さんは、もと2輪のテストライダー。若い頃はスピードの世界に魅せられ、マリンスポーツも最初は水上スキーやジェットスキーになどを楽しんできた。その坪井さんはシーカヤックを、それらすべてに勝る「いきつくところ」と言う。その魅力を言葉にしてくださいというと、「3時間かかるよ」。「そこをなんとか5分で」と迫ると、「じゃ、結論から言っちゃうね。結論から言ったことはないだけどねえ」。身を乗り出すだいすき隊に、坪井さんが次のように語ってくれたのだった。

「こういうグローバルな現代社会の中で感動を得ている人は、ダメだね。はっきり言って」。

「その心は?」と問うてみれば、「体験すれば、わかる。夜光虫の世界や、星空や、満月の美しさを体験すれば、みんな本当に感動する。体のDNAにインプットされているもの、現代社会の中で失われているというか、忘れられているものが自然に呼び覚まされるんだよね。ここでそれを体験した人は、みんな口々に感動を言葉にしてくれただけどね、中でもうまいことを言うなと思ったのは、『生まれて初めて出会う時間と空間』。あとはね、『天国への階段』だって。その言葉を聞いてから湖に出たら、なんだか不気味さと怖さが体の中からわいてきたっけ。夜の暗闇と静寂に包まれて湖の上にいると、三途の川ってこんな感じかなと思った。今でもそのときの感覚を思い出すと、ちょっと鳥肌が立つねえ」。

「先生、それは、つまり涅槃ってことですか?」とご存知ME隊長。その言葉にどよめく隊員たち。生きて涅槃にいけるのか。「そうかもねえ。とにかくすごい世界だよ」と答えた先生の話は、次第に熱くなっていく。

バッションが服を着たような方
トリトン 坪井さん

「私もね、若いときはテストライダーをやっていたくらいで、スピードやマテリアルな世界が好きだった。ジェットスキーや水上スキーを始めたのもその流れ。最初に追い求めたのは、エンジンのパフォーマンスだとか、速さだとか。シーカヤックをやって価値観が180度がらりと変わってしまった。シーカヤックに乗っているときに感じる夜の風や星のまたたきに、うんとひかれた。そういうものはね、自然の中で、人間が歩くのと同じくらいの速さで、しかもワンパターンな行動をしているときじゃないと感じられないし見えないものじゃないかと思うんだよ。シーカヤックは、歩くよりは速いがジョギングより遅い。だから思考がはたらくし、心が開くんだね。若い頃、なぜオートバイやったかというと、究極のレースの世界に入って行って、その中でだんだんその危険というリスクの中に存在する無の世界に魅せられていった。何かを感じるというよりも、思考もなにもかもすべてを遮断した、本能的な感覚だけの世界が魅力だったんだね。今は自然の中で心を開放して、心がよろこぶのが気持ちいい。本当に感動できるものは、山や海、自然の中に入って行けばいくらでもある。人が演出したものが与える感動は、春の野山で草花をみたり、雪の中を歩いたりして得るそれとは比べ物にならないと私は思うわけ。それを教えようと今まで一生懸命やってきたけど、最近はナンセンスとわかった。わかる人はわかればいいやと。そうなってきたねえ。今までやみくもに宣伝しきたけど、さすがにつかれてきたもんで、最近は私とあった人にしか語らんようにしてる」。

「今、ここであまり語り過ぎて、実際の体験と感動が半減してもいけないので、あまり言わないようにしておこう」と坪井さん。だが、口調、手振り、言葉のはしばしに、パッション溢れる話は1時間に及んだのだった。

スケジュールを組み直し、必ずや再度突撃するから夜のシーカヤックを体験させてほしいという申し入れに、「いつでも待ってるよ」と笑顔でこたえてくれた坪井さんに見送られての帰りの車中、Nちゃん隊員が言う。「シーカヤックに乗っていないのに、まるで体験したかのような達成感と爽快感があるのはなぜ?」まったくその通り。

                   絶好のポイント
トリトン 
着がえて準備完了
トリトン 坪井さん トリトン
手際よく準備を進めてくれる 静かな湖。これでも波がある方なのだとか

日付はかわって、1週間後、再びだいすき隊は、トリトンにいた。「よくきたねえ」と笑顔の先生(この日は坪井さんではなく先生)の指南で、いよいよ“涅槃”に出発だ。

オールから水がつたい落ちて服は濡れてしまうので、まずは更衣室でお着替え。そのあと、先生の指導でパドリング(オールのこぎ方)の練習だが、これがいたって簡単。肩幅より少し広く間隔をあけてパドルの柄をもち、柄の先のブレードが垂直になるように水中にいれて後ろへ。ブレードが横になったあたりで水から出し、今度は反対側をかく。右手はしっかり柄を固定して握り、左手は手の中を柄が回転するようにルーズに持ち、右をかいた後に右手首を手前にかえすと、自然に左のブレードが垂直になる。教えてくれたのはこれだけだ。

トリトン シーカヤック 出航準備

パドリングの練習

「カヤックの技術は奥深いものがあるが、私が教えたいのは、そういうことではない。教えたいのは、自然から何かを感じ取るということ。カヤックは媒体だよね。素晴らしい媒体。まずはツーリングを楽しんで、感動してもらうことが大事。基本的なことを教えたらあとは安全に楽しんでもらうのを助けることが重要だと思っているから」と先生。

だが、小学生の課外授業などでは、子供たちはすぐに速さの競争をするそうだ。「子供はやみくもに体力があるからね。それもいいかもしれないけど、彼らに私の言っていることがわかるまでにはあと40年くらいかかるだろうね」。

トリトン シーカヤック 出航準備

トリトン シーカヤック 出航準備

軽トラにカヌーを積む。映画『稲村ジェーン』のよう

5分ほどでレクチャーを終えると、軽トラにカヤックを積み、出発地点に向かう。いつもならトリトンの前からスタートするが、この日も雨は降らなかったものの曇天。少しばかり波があるので、ドしろうとの我々を気づかって、より波風のない場所から出発することにしてくれたのだ。ちなみに、ここはシーカヤックのスポットとして理想的な場所だそうだ。浜名湖の中でもトリトンの周辺の奥浜名湖ががいちばんだとか。「岸から200〜300メートルまでほとんど波がないので、ここでは冬もカヤックを楽しむ人が多い。着いた出発点は、小さな半島とつぶて島と呼ばれる小さな島の内側で湾になっている。水面はわずかに揺れる程度でビロードのよう。それでもこの日は波がある方なのだそうだ。

館山寺の方にいくと、ガラリと環境が変わって、風が強い日は、かなりパワーがあるカヌーイストでも、30分こいでも1メートルも進まないことがあるそうだ。「疲れて風に振り回されて静かなところに戻る。それでまた挑戦するけど、なかなか進まない。でもね、風って息をしてるんだよ。必ずスッと息を吸うようなときがある。その瞬間にはスススと進むんだよね」。“風の息”という表現が実に詩的だ。

素晴らしくほのか!
カヌーを岸辺に運ぶ。 この真ん中のくぼみにお尻を乗せるのだ 先生の艇

シーカヤック ティーチング
いざ出発。
舳先に座った私の足元
パドルワークがそろってきれい

渡されたライフジャケットを身につけ、いよいよカヌーに乗り込む。先生が用意してくれたのは、2人乗りのカヌー。「先生とNちゃんが乗ったら?」と隊長。「そうね。Nちゃんはこわがりだから先生と一緒がいいね」と私。しかし、大人の配慮がわからないNちゃん隊員は「私、隊長と乗る」。結局、私とS隊員、Nちゃん隊員と隊長という組み合わせとなった。

それぞれの艇に近づくと、お尻を乗せるくぼみというのがけっこう小さい。最近ぶくぶく太っている私が入るかどうか不安だったが、座ってみるとぴったりフィット。乗り込むときに少し揺れたが、乗ってしまえばよほどのことがないかぎり、ひっくりかえることはないそうだ。カヌーは幅が拾い方が安定しているように思えるが、荒天で波が高いときなどは、幅か広い方が影響を受けやすく沈(チン)しやすい。細い方が波頭の上にのっても自分の体重と技術で艇をコントロールできるので安全なのだ。カヤックの世界は日進月歩。素材の軽さも耐久性も、艇の安定性や操作性も、今のものは素晴らしくよくなっているそうだ。

さて、最初はうまくこげるか、ちゃんと進むか心配しただいすきドしろうと隊だったが、やってみるとこれが簡単快適。パドルを動かせば、すいすいと進む。「こりゃーいいわあ」

「いやー、気持ちいい」「最高だね」「ビールがほしいなあ」。だいすき隊の感嘆の声が、夜のしじまに響く。「簡単にこげるね」とS隊員が言うと、「そりゃそうだ。小学生でもできるんだから」と先生。背すじをのばした乗り姿が美しい。その横に、Nちゃんを前に、隊長が後ろに乗った艇。パドルワークの息がしっていて、これもまたなかなか美しい。

すいすい進むのでS隊員もご機嫌

2人乗りの場合、後ろに座る人が操作の主導権を握る。撮影をする私はパドルを持たず、動力と操作はすべて後ろのS隊員にまかせたが、一人でこいでいるのに、しっかりとスピードが出る。

夜の湖は静かだ。耳には、水をかく音しかはいってこない。夜の黒と、湖の黒。その間の闇を音もなく進むと、なんだか、違う時空に迷いこんだような気になってくる。これが涅槃なのか・・・。静寂がとけこんだ闇に身をまかせていると、あっという間に小さな半島の近くに着いた。

「ここで、水の中に手首をまで入れて揺らしてごらん」と先生。

こんなふうに手をいれて動かすとキラキラと煌めく

やってみると、青白い光が手のまわりできらきらときらめくではないか!これが夜光虫か!

「今夜は素晴らしくほのか。ワビサビの世界だ」と、先生。表現が、本当に詩的なのだ。

夜光虫は刺激を受けると発光するプランクトン。同じところを何度も揺らすと、刺激に慣れてしまってあまり光らなくなる。それからしばらくは、より美しく、よりたくさん光る夜光虫のショーを求めて、湖上を彷徨。最もよく光ったのは、つぶて島の島影だった。ここではパドルを入れるだけで、光が四方八方に散るのだ

夜光虫 発見

夜光虫に感動する隊長とNちゃん隊員

空とつながった闇の中で、微小な命を光らせる生物。はかなく細い光だが、そこには人間なんかよりもはるかに逞しい生命力が宿っているように感じる。はるか時を超えた太古の昔から、淘汰もされず無用な進化もせず、同じ営みを続けているのだから。ちいさな湖の片隅で、地球の悠久を知る。だいすき隊は無言で夜光虫を通じて地球と戯れたのであった。

 

明日からまたがんばろっと!

「そろそろ引き返えそうか」と先生が言う。気がつくと、30分の予定のカヤック体験が1時間近くに。涅槃にときは流れないかのようだ。

つぶて島から、向かいの半島の方にいったん渡り、そこから岸に帰るのだが、島と半島のあいだは、船の通り道になっているので、きちんと左右を確認しながらわたる。気がつけば、目は闇にかなり慣れていた。ちなみに。湖の中でカヌーは、最優先艇。一般の道路でいえばいわば歩行者で、他の船はこちらをよけて通らないとういけないのだそうだ。

帰りもすいすいとカヌーは進む。せっかくなので私もこがしてもらったが、まったく力がいらない。これはほんとに快適だと思っていると、何か水面できらめく物体が目についた。夜光虫の青白い光ではなく、銀色が湖面を左から右へとよこぎっていく。目をこらすと、S隊員が先生が乗り込むときに渡してくれたハンドライトで湖面を照らすと、その光に反応して追い立てられるように小魚がはねているのだった。「おもしろいー!」と叫んだのは、隊長だ。隊長も早速真似をして、ライトで湖面を照らし始める。すると、飛ぶわ飛ぶわ。ライトを動かした方向に、何十匹という小魚がピョンピョン飛び跳ねるからおもしろい。ときには、ザボンと音をたてて、20〜30センチの魚も飛び跳ねる。大コーフンする私たちに「あれはボラ。カヌーのうしろがら前にジャンプされたこともあるよ」と先生。「そのボラって、食べられるんですか」と、隊長はお約束を忘れない。と、一匹の小魚が艇の中に飛び込んできた。この小魚はから揚げなどにすればおいしそうだ。と,さらに次の瞬間、岸辺で、ザバザバッとものすごく大きな音がして、一瞬大きな白波がたったではないか。「ギャーッ、なんだ?!いまのは!」4人がほぼ同時に叫ぶ。どうやら、何百匹の小魚の大群が一斉に向きをかえたらしい。

「湖が鳴ったね。」。先生の表現は、味がある。

岸に着いて、カヌーを車に乗せたり靴をはいたりしながら、しばらく4人はこの夜の感動を語りあった。

「夜光虫は、なんだか雅びな感じでした。涅槃の世界、とまではいかなかったけど、魂があらわれるね」と隊長。

「今日は思ったよりよかった。カヌーをこぐとどんどん加速していく。それがたのしかった。そのときに顔にあたる風がなんとも気持ちいいね!と、とんまく山の野草の世界には何も感動しなかったS隊員もいやされたよう。そしてNちゃん隊員は、「夜光虫もよかったけど、最後のザバザバがびっくり。すごくたのしかった。なぜか明日からまたがんばろうって思える」とのことであった。

シーカヤック 片付け

そこへ、軽トラにカヌーを縛りつけ終わった先生がやってきて「どうだった」。みんなが口々に感動を伝えると、先生はこう言ったのである。

「あのね、カヌーに乗っていやされたり、感動する人はね、心がやさしく豊かな人。そして、疲れてる人なんだよね」。「そのとおり!」と、爆笑しつつだいすき隊は深く納得。「疲れている人は、みんなおいでって言いたいよねえ」。

シーカヤックツーリングは年中体験できるが、夜光虫のショーをみたいなら、6月から10月くらいがベスト。自然が、癒しの特別キャンペーンをしてくれている。

シーカヤック 夜光虫ツーリング 最高!


マリンクラブトリトン

【問い合わせ】 053-526-7071
【URL】 http://www13.plala.or.jp/triton-m/