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楽器の取り扱いについて

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1,楽器と湿気と熱

 バイオリンは木でできています。木というのは湿気が多いと水分を吸収し膨らみますし、さらに熱を加えると力のかかる方向に簡単に変形してしまいます。 また、バイオリンはニカワという水溶性の接着剤で木を張り合わせて作られています。ニカワは50℃ぐらいで溶けはじめますから、バイオリンに4本の弦が張られて強い張力がかかっている状態で、熱や湿気を加えると楽器は容易に変形したり壊れたりします。表板、裏板などのふくらみの変形、それが原因で生じるネックのトラブル(指板が下がる、ネックがそる、ネックが本体から外れる、指板がネックから外れるなど)、表板や裏板が横板からはがれる、駒が動く、そのほかにも思いもかけない不具合の原因になります。

 バイオリンを保護しているニスももちろん熱で溶けてしまいます。新作の楽器のニスほど溶け安いです。ニスのトラブルは100%の再生がほとんど不可能です。

 以上のことよりバイオリン族弦楽器に過度の熱と湿気が加わらないように、常日頃の楽器の管理には十分に気をつけましょう。特に晴れている時のエアコンの利いてない車内での放置は短時間でも大変なことになります。(車は冬でもかなり暑くなります)人間が快適に過ごせる環境での保存がベストになります。

 

 

2,弦の交換について

 楽器の弦は消耗品です。使っているうちに弦の素材が酸化したり手の汗で腐食したりして、本来の弦の振動を失い始め、音質や音量が少しずつ劣化していきます。切れなくても時期を見て交換しましょう。

 交換時期は人にもよりますが通常は半年から1年に1回が適当です。定期的に演奏会や発表会がある方はその前に交換するのがよいきっかけになります。交換は4本まとめてやりましょう。1本でも古い弦が残っていると、ほかの弦にも悪い影響を及ぼします。

 弦を長期間交換しないで“楽器の音の調子がおかしいのです。”と言ってくる人もよくいますが、弦を4本交換するだけで音が見違えるほどよくなることは間違いありません。

 また、弾き終わったときに弦にこびりついている松ヤニも、雑音の原因になります。こまめにふき取りましょう

 交換作業は1本ずつ行ってください。一時に4本の弦をゆるめたり、全部外したりすると、駒や魂柱(バイオリンの中に垂直に立っている柱)の立っている位置がずれたり、外れてしまったりします。バイオリンの駒や魂柱は接着して立っているものではなくて、弦と表板(駒)や表板と裏板(魂柱)に挟まって立っているだけのものです。1度動いてしまうと元に戻すのは大変むずかしいくなります。(3、駒と魂柱を参照)

 また交換時に、上駒(ナット)と駒の弦が通る溝に滑りをよくするもの(鉛筆の芯や、ペッグソープなど)を塗るのもよいでしょう。弦が駒の上の溝で滑りやすくなり弦の張りが各部(糸巻きから上駒、上駒から駒、駒からテールピース)で均一になり、弦が切れにくくなりますし、駒の変形も防いでくれます。 

 

3,駒、魂柱について

 駒はバイオリンの表板と弦に挟まれて表板に垂直に立っているパーツです。駒は弦の振動を直接楽器に伝えるための重要な役目を担っていますが、1番トラブルの多い部分でもあります。

 駒の上側の弦が通る溝の部分では、常時弦が行き来しているため、溝が滑りにくいと、駒が弦に引っ張られて変形したり、傾いてきたりします。こうなると弦の振動が正確に表板に伝わらないですし、そのまま気づかずにいると駒が動いたり、倒れたりします。

 駒が倒れるとその衝撃はすさまじく,表板に大きな傷がついたり重要な部分が割れてしまったりします。もちろん駒も割れてしまいます。

 魂柱はバイオリンの中に表板と裏板に挟まれて、垂直に立っている柱(フルサイズのバイオリンで太さが6ミリぐらいの円柱)です。バイオリンを正面から見て右側に1本だけたっています。右側のF孔から見えるでしょう。この柱も駒と一緒でバイオリンの振動を伝える大変重要な役割をしています。

 駒も魂柱も通常簡単に動く部分ではありませんが、表板に接着剤で付いているわけではないので、楽器をぶつけた衝撃や弦を外した時に動いたり倒れたりすることはよくあります。

 駒が変形したり、傾いてきたと気づいた時、また弦の溝が深くなって滑りが悪くなった時、楽器に衝撃を与えてしまった時などは早めに専門店(専門の技術者がいる)に行って直してもらいましょう。

 また、気がつかないうちにトラブルを生じている時もありますから,大きなトラブルになる前に定期的な点検は必要です。

 音の調子が悪くなってきた時には、先ず弦を4本新しいものに交換することと毛替えをしましょう。劣化した弦や毛の状態で、駒や魂柱を動かしたり交換したりして音の状態をよくしようとするには無理があります。 

 

4,糸巻き

 いろんな原因で調子の悪くなるところです。主なるところを以下の表にまとめました。参考にして下さい。

症状

原因

対処法

固くて動きにくい、あるいは動かない。

回転摩擦が強すぎる。

滑りをよくする専用のクスリ(コンポジション、ペッグソープなど)を塗る。

湿気を含んで木が膨らんでいる。

楽器を適度に乾燥させる。

弦を糸巻きに巻いていく時、糸ぐらの壁まで巻きすぎて糸巻きが動かなくなる。

弦を少し切るか、反対方向に少し巻いてから、戻していく。

糸巻きがちゃんと止まらず戻ってくる。

糸巻きがちゃんと調整されていない。

専門の技術者に相談する。

長年使っているうちに、木とぶつかっている部分だけが、すり減る、あるいは縮む。

専門の技術者に相談する。

弦を張っても抜けてくる。

弦が短すぎる、巻きがたりない。

ちゃんとした長さの弦を使う。

糸巻きにある弦通しの穴が太すぎて、すぐぬける。

専門の技術者に相談する。

 

5,指板

 指板も消耗品になります。指が常時弦を押さえる場所ですから、長時間使っているうちに、表面に弦で押さえた溝ができたり、波うってきたりします。そうなるとちゃんと音程がとれなくなったり、音に濁りが入ったりします。日々少しずつの変化なのでわかりにくくはありますが、そんな感じがしたときは弦を左右に動かして指板をよく見たり、なぞってみると分かります。また、ピチカートではじいてみても、濁音が入るのでわかると思います。この場合、指板の表面を削り直す作業をすれば回復します。指板が薄い場合は交換になります。いずれにしても専門の技術者にまかせましょう。

 

6,ニスについて

 ニスの重要な役目に楽器を保護する役目があります。外気の変化や衝撃などを緩和してくれる大事なものです。

 使っているうちに手がよく当たる部分のニスがはげてきたりします。木地が露出してしまうと手から汗などの水分が直接はいりこんだりして非常に楽器によくありません。汗等で木が腐食してしまうとその部分の交換が必要になる場合があります。大変な作業になります。そうなるまえに、早めに専門の技術者に相談しましょう。

 またニスには楽器を引き立ててくれる美しさがあります。松ヤニの粉や汗、ほこりなどが付着したり、衝撃で傷がついたりするとせっかくの美しさが台無しになってしまいますし、楽器の振動に影響が及ぶことにもなります。日頃使い終わったあとにクリーニングクロスなどできれいに汚れを落とすことは大切なことです。それでも汚れが目立つときは専門店でクリーニングしてもらいましょう。

 楽器が美しいと気持ちがよいですし、美しい音がでるものです

 

7,あご当てと肩当てについて

 今ではバイオリンやビオラを演奏するにあたってあご当ても肩当ても大変重要なものになってます。ほとんどの楽器にあご当てがついていますし、ほとんどの方が肩当てを使います。両方とも身体に触れるものですから、どちらか、あるいは両方に不都合を感じている人もいます。は専門店に相談しましょう。今ではいろんな種類のものがあります。今までの苦労や苦痛が解決するかも。

 ただ、両方とも楽器に装着しなければならず、特にあご当ては外れないようにねじ金具で締め付けるわけですから、楽器にとっては負担になります。また、種類によって取り付ける場所に違いがあり、楽器に負荷のかかる場所が違うわけですから、楽器の振動にはどうしても影響してきます。神経質に考えてもしょうがないのですが,あご当ても肩当ても音にわりと影響を与えるものです。

 

8,松ヤニについて

 大きく分けて柔らかめの松ヤニと、固めの松ヤニがあります。

 柔らかめの松ヤニは、毛の弦に対する引っかかりがよいです。迫力のある音がほしいときはこっちの方がよいでしょう。また強い引っかかりを必要とする弦の太い楽器、チェロやコンバスなどはこちらの方がよいでしょう。ただ気温が高くなるとべたべたしてきて、引っかかりが強くなりすぎる場合があります。この場合毛と弦の吸いつき感がなくなってしまい、毛が弦にはじかれてしまいちゃんとした音は出なくなります。

 固めの松ヤニはさらっとしていて弓の毛と弦に吸いつき感があり、毛と弦が擦れあう雑音もあまり出ません。雑音のないきれいな音が好きな人はこちらの方がよいでしょう。また、楽器の上に落ちた粉もさらっとしていてふき取りやすいです。 ただチェロやコンバスなど太い弦の楽器には合わないでしょう。

 以上、基本的な情報として書きましたが,両極端に分かれているわけではありませんので自分でちょうど良いものを選んで使いましょう。専門店である程度の情報は聞けると思います。

 

9,弓と毛の交換について

 弓も木でできています。1,で述べたことが弓にもいえます。特に毛を張りっぱなしにしておくと、ちゃんとついていた弓のスティックのそりがなくなってきたり、異常なそりがついたりします。そうすると弓が持っている本来の機能がなくなってしまい非常に使いづらくなります。使い終わったら必ず毛がスティックにさわるぐらいまで毛をゆるめましょう。最近ケースを開けると毛を張りっぱなしにしている方がよく目に付きます。

 弓の毛は張るときに、毛と弓のスティックが平行になる以上には張らないでください。張りすぎると木の弱い部分(先の方)で折れてしまったりします。

 毛も湿気の影響で伸びたり縮んだりします。気がつかないで弾いているうちに毛が乾燥して短くなりスティックが逆ぞりしていることもありますので注意してください。

 毛には弦に振動を与える重要な役目があります。そのために適度に松ヤニを付けなければなりません。毛に油分がつくと松ヤニがつかなくなり、その部分だけ弦が引っかからなくなります。むやみに手で触ったりしないように注意してください。また、もしそうなった時は毛の交換になります。

 普通の人で半年から1年使うと毛が摩耗して松ヤニを付けても弦が引っかかりが少なくなります。その時が毛の交換の時期です。弦の交換と違って一般の人には難しい作業ですので、技術者(専門店)に任せましょう。

 弦の交換と毛の交換で楽器の音の状態は見違える程良くなります。演奏会や発表会などの1〜2週間前は絶好の交換時期です。

 最後に、しばらく使わないで楽器ケースをあけると、毛がばさっと切れている時があります。洋服など長期保存で気がつくと虫に食われてしまう時があるように 、毛も虫に食われているのです。もちろん毛替えが必要ですが、ケースの中にいる虫も追い払わなければ同じことを繰り返します。長さ1〜2ミリぐらいの幼虫です。目ではなかなか見つかりませんが、ケースを虫干ししてしばらく殺虫剤を入れておきましょう。