2. 『笑わない出会い』
「やっと……着いた……」
山深い学院から幹線街道に出るまで徒歩2時間。乗り合い馬車に揺られて7時間、また宿場町の停留所から宿までさらに歩いて1時間。合計10時間を越える長旅の末にアッシアとその生徒たちが最初の宿に着いたのは、既に日も落ち、夕食の時間を僅かに過ぎた頃だった。
「じゃあ……チェックインしてくるから……しばらくロビーで待ってろ」
そう言い残すと、アッシアは生徒たちを残して、よたよたとした足取りでフロントへと向かって行った。その後ろをすたすたと黒猫が着いて行く。疲労教師の背負った小山が揺れて蛇行しながら、やがて常緑樹の観葉植物の葉に隠れた。そんな小山の行く末を見守る気力も無く、3人の生徒たちはへたり、と薄っぺらな赤い絨毯の上に座りこんだ。
「もうダメ……馬車に揺られっぱなしだったせいでお尻が痛くて痛くて……」
「はやくベッドで休みたいですぅ」
「生きてるんだな……人間の生命力ってすごいな……」
未だ大きく肩で呼吸するパットに、リーンが胡乱な目つきで視線を向ける。
「なんていうか……まるで何週間も無人島でサバイバルしたような物言いね……」
「ああ、俺にとってはまさにサバイバルだったよ、あれは……」
従兄から返って来た返事を、さらに従妹が返した。
「サバイバルって、荷物引きずってきただけじゃない」
「もう俺の腕は乳酸菌でいっぱい。感覚がもう無い。いつ壊死してもおかしくないんじゃないかってぐらい。だから俺の両腕にとってサバイバル。ついでに背中と腰も痛い」
「そんな短文で重ねて言われても」
「長い文章を喋る気力がもう無い。地獄のロードですっかり磨耗してしまった俺の精神力」
「これ、明日もあるんですよねぇ」
最後にぽつりと言ったのは、ヴェーヌだった。
「そう……か、明日……も」「あるんだった……」
双子の兄妹は割台詞に言って、それまでの軽口をぴたりと止めて虚ろな表情でそれぞれに俯いて沈黙してしまった。急にその濃度を増した負のオーラに驚きそして耐えかねて、ヴェーヌ少女は慌てて取り繕う。捻って身を乗り出したため、ずり、と彼女が背負った荷物が揺れた。
「あ、でも、今は休むことだけかんがえましょー。明日のことを今なやんでも、しかたがないわけですし。せっかくのお宿なんですから、楽しまないと」
「そうよねっ、せっかくの旅行なんですもの」
ぱっと顔をあげたのは、リーンだった。
「まあ、もう夕食の時間を過ぎちゃっているから、きちんとした夕食にありつけるかどうかもわからないんだけどな」
そう皮肉げに言うパットを、リーンが睨みつける。
「あんたねー、人がせっかくから元気を出そうと努力してるってのに、どーしてそーいうこと言うの?」
「俺はあくまでも事実を述べてみただけだぜ。空の期待をするよりいいんじゃないか?」
「っていうか、から元気なんですね……」
ヴェーヌ少女はやや脱力して呟いた。
■□■
肩に食い込む帯が痛い。これだけ重い荷物を長時間もっていたのだから、すりむけていてもおかしくない。それとは別に背中と腰と腿とふくらはぎと足の裏とついでに腕と……とにかく全身が痛い。ひたすら痛い。
しかしあとほんの少しでこの苦痛から解放される。美味しいものを食べて暖かい湯につかって柔らかいベッドで眠ることができる ――。
アッシアの今の気分は、マラソン大会に強制的に出場させられた学生の、ゴール間際のそれとほぼ同じだった。
まるで酔漢のような覚束ない足取りで、しかし着実にゴールへとアッシアは近づいていく。荷物だけをエントランスにおいてこようとは思わなかった。何故なら背中に背負った荷物を一度置いてしまったら、今日のうちはもう二度と持ち上げられない自信があったからだ。位置エネルギィの問題だ、とアッシアは疲労で正常に働いていない脳で思う。そうこうしているうちに、アッシアはフロントにまで辿りついた。
いらっしゃいませ、とざっぱりした格好の男が頭を下げてきた。が、アッシアがあがりきった息のために答えることができずにいると、フロントの男は営業用のねっとりとした微笑を浮かべて、ご苦労さまですご予約ですか、と聞いてきた。アッシアは黙って頷いた。
「サインをお願いします」
差し出された白い紙にアッシアがサインをすると、キーを手渡しながら、フロントの男が言ってきた。
「お部屋は3階です。それでお客様、大変申し訳ありませんが、お荷物はご自分で運んでいただくようお願いします。何分只今は夜間のため従業員が少なくなっておりまして、あいすいません。もっとお早いお着きでしたら、お部屋のご案内もさせていただくことができたのですが」
荷物を運んでもらうことを特に期待していたわけではなかったが、アッシアの中でこの宿への評価が20点下がった。あとで宿のサービスを問うアンケート用紙を捜そうと思いながら、彼は黙って頷いた。
そして置いて来た生徒たちを迎えに行こうと、アッシアが背に負った小山ごと身体をぐうるりと反転させてフロントに背を向けると、先程からずっと後ろをついてきた黒猫と、もうひとつ、紅い人影が彼の視界に映った。
その人物の印象を一言で言えば、紅だった。そういえばこの人は赤い色が好きなのだったな、と頭の片隅で確認しながら、今までひん曲がっていた自分の背筋と腰が自動的にしゃんと伸びるのをアッシアは感じた。
彼女はゆったりとした赤のワンピースを着て胸元を細い銀鎖で飾り、耳には紅玉の控えめなピアスをつけていた。そして肩にかかった樺色の髪を、細い手首に金鎖を巻いた白い手で後ろに流すと、少し釣り目の茶色の目に微笑みを浮かべた。やや特徴的な形のよい鼻の下、桜色の唇が、言葉を発すために開かれる。
「こんばんは、アッシア教師。偶然ですね。」
「エ、エッ、エマ教師!こ、こんばんは。ぐ、偶然ですね。ほ、本当に。」
憧れのエマ教師とのまったくの偶然の出会いにまともに口も利けず、アッシアはオウム返しになんとか言葉を返した。
アッシアはわざわざ思い出すまでもないエマ教師の情報を、すでに忘我の状態になりつつある思考で確認する。エマ=フロックハート。アッシアと同じ学院教師で、『紅の魔女』の異名をとる強力な魔術士。そして何より、とても美しく聡明で優しく、とにかくとにかくとにかく素晴らしい女性。
そしてアッシアは急に自分の格好が気になった。自分の頭に手をやる。相変わらずくしゃくしゃなのをなんとか撫で付けようとして諦める。黒縁の眼鏡に手をやる。どうやらずれて傾いている。曇ってもいる。慌てて服で拭いて、かけなおした。汗まみれの服も気になってぺたぺた触ってみたが、それは仕方が無いので諦める。急に背中に毛布を詰め込まれたような暑さを感じて、少しでも涼を取るために着ていたシャツの袖を大きくまくった。
そんな挙動不審な同僚教師に、――少なくとも表面上は――気にした様子も見せず、エマ教師は淡々と世間話を始めた。
「私は、ミティアの王立凡学校に生徒たちを連れて行く途中で、ここに宿をとっているんです。セドゥルスは優れた教育機関ではありますが、やはりその中だけで学んでいては生徒たちの世間が狭くなりますでしょう? ですから、私の教室の上級生を、年に一度、ミティア王立凡学校に研修に連れて行くことにしているんです。先方にも、外部からの刺激はとても喜ばれるんですよ」
「はあ、そうですか、とてもうつくし……いや、それは素晴らしい考え方だと思います」
まともにまわっていない頭で、アッシアは返答した。もはや彼の視界には紅の女教師以外は入っていない。そしてアッシアの視界を独占する女教師は、にこやかな表情のまま世間話を続ける。
「本当は、いろいろな大陸各国の学校を回らせてあげたいと思うのですが、なにぶん経費の問題もありますからね。一番近いミティアの王都が限界です」
「いや、まったくです、生徒を連れて遠出をしたいという思いは、僕にもありますから。不便なものです」
「……アッシア教師は?」
「は?」
「どうして、この宿にいらっしゃったのですか? 行き先はやミティア王都?」
微笑に苦笑を織り交ぜつつ、エマ教師が言った。一方のアッシアは、少し困った顔も愛らしいなどとくだらないことを考えていたから、慌てて現実世界へと駆け戻った。
「え、ええっと、僕は、ミティア王都ではなく、その北にある森の中の遺跡へ、フィ、フィールドワークに行く途中でこの宿に立ち寄ったんです。ぼ、僕は古代学が専門ですから、実地研修となると遺跡に出向いて調査することになるわけです。もちろん、生徒たちも同行しています」
「王都の北の森にそんなものがあるのですか。それは知りませんでした」
「こ、古代学はマイナーな分野ですからね、エマ教師がご存知無いのも当然だと思いますが……ミティア王都の北の遺跡はずっと昔に調査されたきりなんですけど、最近新しく遺物が発見されまして。そこで、さらに何か無いかと今回出向くことになったんです。……その、ちょうどいいことに手頃な場所にありますし」
「それは興味深いですね。いえ、私の知人も古代学をやっているものですから、少し興味があるのです」
「そうですか、それでは今度是非、ご、ご一緒に」
ごくり、とアッシアは唾を飲み込んだ。
「……お、お話しでもどうですか。ゆっくりと」
ええ是非、と答えたエマ教師はすでにアッシアの方を見ていなかった。どうやら完全に社交辞令だと捉えられたらしい。もちろん、アッシアとて8割方そのつもりで、ほんの2割だけ期待を込めてみただけなのだが。
「エマ先生」
エマ教師を呼ぶその声は突然だった。少なくとも、やや忘我の境地にいたアッシアには突然に感じられた。まさか無意識のうちに自分が発声したわけではあるまい、とアッシアは自分を落ち着かせた。
声の主を探るべくアッシアがエマ教師から注意を外すと、赤い教師のすぐ後ろに褐色の肌の少女が立っていることに気が付いた。どうやらエマ教師は、さっきから彼女の気配に気を取られていたらしい。どうしたの、と親しげな口調でエマ教師は褐色の少女に問い掛けた。問い掛けられた褐色の少女は、アッシアを示して
「……こちらの方は……どなたですか?」
と言った。エマ教師は、ああ、初めてかしら、などと言いながら、右手でアッシアを指し示す。
「紹介するわね、こちらアッシア=ウィーズ教師。セドゥルスで唯一、古代学を専門になさっている方よ」
エマ教師の紹介に、よろしく、とアッシアが頭を下げた。
「フロックハート教室4号生の、ヴァルヴァーラ=ズボォーチカです」
と、褐色の少女の方も軽く頭を下げる。が、少女は視線をアッシアから外さなかった。
観察されているような気がして、アッシアは居心地の悪さを感じながら、紹介されたやけに名前が長い少女を見返す。真っ直ぐで短めの黒い髪に、すっと通った鼻梁。この大陸では珍しい、褐色の肌。紫にも見える黒い瞳からは、無表情な冷たい印象が受け取れた。考えてみれば、彼女は先程から一度も笑っていない。アッシアはずっと無意味に笑いつづけているというのにだ。
そう思い至ってアッシアが心中渋いものを感じていると、褐色の少女が、すっとアッシアの足元にいた黒猫を指差し、猫、と言った。指差されたクロさんは、顔をあげて少女を見た。
「猫。連れて歩かれているんですか?」
「え? ああ、この猫は教室で飼っている猫で、うん、この旅にも連れているんだよ。クロさん、っていう名前なんだ」
アッシアの返答に、そうですか、とやはり無感情に褐色の少女は言った。どうやら世間話のつもりらしかった。
そしてまた降りてきた沈黙を跳ね除けるかのように、エマ教師が口を開いた。
「それでは私はこれで失礼します。アッシア教師。ごきげんよう」
軽く会釈すると、エマ教師は予定以上の長居だったとばかりにくるりと体の向きを変えて去っていった。名前の長い褐色の少女もそれに続く。
「お、おやすみなさい、エマ教師!」
アッシアの声に、紅の女教師はちらりと振り返り、眼だけで会釈して、また去っていく。
そうして一人取り残されたアッシアは、ひらひらと揺れる、去っていくエマ教師の赤いスカートの裾を、しばらくぼんやりと眺めていた。
■□■
リーンはふぅぅ、と長く息を吐いて、全身の筋肉を弛緩させた。少しでも多く休みたいと彼女は思った。恐らく今日よりも厳しい道のりになるだろう明日のために。疲れのために勝手に降りてくるまぶたのために、かろうじてしか残っていない彼女の視界には、今日の泊まる宿の内装が映っていた。
高級でも安宿でもない、ありふれた宿。
薄っぺらい赤の絨毯はしかし丁寧に掃除され、壁のカンテラの魔術灯が、やや黄ばんでしまった白い壁紙が張られた壁を照らしている。奥のほうにいくつかテーブルセットがある。安くも高くもなさそうな薄緑の壺も飾られていた。
ちょうどそこまで見たとき、その飾り台の陰から人影が現れた。
綺麗な女性だとリーンは思った。肩口へと落としたようなストレートヘア。肩のすぐ上で切り揃えられたブロンドと、銀の耳飾とが歩くたびに揺れた。意志の強そうな眉と黒い瞳が印象的だった。
その美人は真っ直ぐこちらに歩いてきて、リーンの前、より正確には荷物置き場と化してしまっているエントラスロビーの一角の前でぴたりと止まった。そして美人はきょろきょろと辺りを見回しながら、特に誰に向けてというでもなく、ただ言ってきた。
「あなた……ウィーズ教室の生徒よね?」
「えっ?」
反射的に、リーンの口から声が出た。旅の恥は掻き捨てとばかりに疲労にまかせてエントランスロビーの床に座り込んでいたのだが、こんなところで知り合いに出会うとは思ってもみなかった。記憶を検索してみれば、確かにこの美人には見覚えがある。羞恥と同時に、リーンの思考も鮮明になりつつあった。
そのリーンが口を開こうとしたそのとき、彼女の背後に当たる位置に座っていた赤毛の少年が立ち上がった。パットだ。
「リーザさんじゃないですかっ。いやあ、相変わらずお美しい。フロックハート教室の貴方が、今日はまたどうしてこんなところに?」
パットが揉み手でもしそうな勢いで答えた。リーザと呼ばれた美人は、ありがとう、と微笑みを作ってみせた。
「エマ先生と一緒にミティアの王都に向かう途中よ。それよりも、レクシア=ペルーナデは何処にいるの? 一緒なんでしょ?」
いや、彼女は後発組みで、と答えるパット。なんだか会話から置いてけぼりになってしまったリーンは、同じように疲労してぐったりと椅子に座るヴェーヌに、立ち膝でにじりよると、そっと耳打ちをした。
(あのリーザさんって人はね、エマ教師のところの6号生で、優秀な魔術師だって言われている人なの。ちょっとした有名人)
(ゆうしゅうな、まじゅつし?)眠そうな目で、ヴェーヌが囁き返す。
(そーそー。生徒なのに、『星舞』って渾名があってね。魔術の威力だけだったら、下手な教師ぐらい凌いじゃうって人なの。頭も良くてね。試験の成績だって、ずっとトップクラスなのよ)
(すごいですねぇ)
(そー、すごいのよ。なんて言っても、実力があって頭も良くて、その上あの顔にあのスタイルでしょ? 何にも悩みなんてないみたいなんだけど、そうでもないのよこれが。なんでも学院に入って六年間、試験では戦闘実技以外でレクシアさんに勝ったことがないらしくて。それで、レクシアさんを目の敵にしてるのよ)
(はあ、そうなんですか)
(そーなのよ。才能に恵まれてて頭が良くて美人なくせに、心が狭いのよ。もっと才能に恵まれてるわけでもなし頭も顔も十人並みの凡人の気持ちも理解して欲しいわよねー。あ、言ってて自分でちょっと悲しくなってきたかも……)
(リーンさんはぁ、美人ですよぉ)
(んー、素早いフォローありがとうヴェーヌちゃん)
リーンとヴェーヌがこそこそとそんな会話をしている間に、パットは説明を終えたようだった。すると、他人からどう見えるか計算しつくされているだろう微笑を浮かべて、リーザが礼を言う。
「ありがとう、丁寧に教えてくれて。えっと……」
「パット=コーンウェルです。パットと呼び捨てにして貰っても構いません。」
「そう。ありがとう、パット」
差し出されたパットの右手を、リーザが握り返そうとした瞬間、宿の奥のテーブルセットの方から、突然女性の声があがった。
「あらぁ、今度はリーザ先輩狙いなの? パット君」
控えめに言っても友好的な響きがないその声は、パット達の握手を止めるのには充分な冷たさを持っていた。
ぺたぺたと安物のスリッパの音をさせながら、その女性は、こちらの方へと向かってきた。栗色の髪に大きな目という愛嬌のある顔立ちなのだが、今の彼女からはそういった柔らかな類の雰囲気は感じ取れなかった。このひとも見覚えがあるとリーンは思った。その女性は軽く手をあげると、
「ハァイ、パット君。お久しぶり」
「や、やあアリス。ひさし……」
「ミティア王都行きはリーザ先輩だけじゃなくて、フロックハート教室の4号生以上が対象だから私もいるのよね。驚いた? まあ私もこんなところで貴方に会って驚いたけど」
「う、うん、聞いてくれアリス、実は ―― 」
「そして知らなかった?私とマリアルは教室が違うけれど友達同士だってこと」
ぺたり。アリスと呼びかけられた少女のスリッパの音が止んで、彼女――アリスはパットの前に立った。
「誤解なんだよアリス、話し合おう。その、――」
ぱあん、と音がパットの言葉を阻んだ。彼の顔が右に捩れ、彼の体も同じ方向にやや泳いだ。いきなりパットの左頬をアリスがひっぱたいたのだ。傍観していただけのリーンには、それを止める暇もなかった。もしあっても、止めなかったかも知れないが。
「さよなら。最低男さん」
アリスはくるりと身体を反転させると、そのままぱたぱたと駆けて行ってしまった。リーザも何の挨拶なのか軽く手を挙げて少し顔を顰めて見せると、そのままアリスを追って行ってしまった。
(今の、どういうことなのかしらね? ねえねえどう思う? ヴェーヌちゃん)
「わたしに聞かれてもわかりませんリーンさんー。それに、もう耳打ちする意味はあまりないとおもうんですけどー」
そう言ってヴェーヌがパットを見やると、赤毛の少年はへたへたとその場に座り込んでしまっている。
「……厄日だ」
「あんなこと言っているけど、私の予想ではきっと身からでた錆よ。まあそのへんは」
と言いながら、リーンは視線を上げた。
「直接本人に聞きましょうよ。荷物を置いたあとにね」
リーンの視線の先、今まで何をしていたのか、黒縁眼鏡の教師と彼が背負う山が、えっちらおっちらとこちらに向かってきているのが見えた。
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