プロローグ







 ずるりと。

 帳面を捲る僕の手がぬめった。
 気づけば粗悪な厚手の紙は血で滴り、両手は血まみれだった。
 いや、それだけではない、人肉が燃える臭いが鼻をつき。
 次の瞬間には、腰ほどの深さがある血の池の中に、僕はいた。
 眼はくらみ、火災を告げる鐘のように頭が痛み、ねじりあげられる胃は吐き気をもたらす。


 その記憶は、僕をさいなむ。いつでもだ。呼べば必ず応える、律儀な記憶。
 消そうとしても消せはしない。忘れようとしても、忘れられない。
 まるで牢獄。
 闇に閉じ込められて光を失った咎人のように、僕は地べたに腰をおろし、宙を見上げている。上も下もわからない暗闇のなかで。許されることなど思いもしない、永遠の暗闇の中で。

 記憶と過去は影のように僕に寄り添い、異端の方士のように呪をかけ続ける。
 その呪は僕にふさわしく、そしてそれゆえに、その呪から解放されることはない。
 いやきっと――、解放などされてはいけないのだ。
 それが僕に定められた、適正な罰なのだから。