本心を言わないお婆、遠慮するふりをするお婆、物事をズバリ言うお婆、自分勝手なお婆
自分では何もしないで、やって貰って文句を言う。最悪なお婆の物語。嫁姑の永遠の大スペクタクル巨編。
「お婆の取扱説明書」
(1)
誰でも若い頃は、「かわいいお婆ちゃんになりたい。」と思っていたはず。
「私は姑で苦労したから、息子の嫁には同じ苦労はさせたくないの。」と殊勝な心を持っていたはずの昔の嫁さん達、その気持ちをどこに置いてきたのか、寄る年並みで忘れたのか?
いや、そんな気持ちは最初から持ち合わせていなかったに違いないな。
洗濯物を干しながら、食事の準備をしながら、日々思ってしまう。
おばさん達の気持ちがどこにあるのか分からない。法要の事にしたってどうすればいいか分からないから尋ねると、
尋ね方が悪いのか、真意が見えない。日本にいて日本語が通じないところに住んでいた事を嫁いで20年目で知った
鶴子は、自己防衛に、徹するようになって、そんな自分も許せずに日々悶々としていた。
今時は、「汚い」と言うと精神的虐待だとかで、老人虐待するつもりはなくても虐待した事になってしまう世の中だし、
毎日暮らしているうちには、喧嘩もするし、意見だって食い違う。
だから、同居していない兄弟には、しのごの、六の七のと言ってほしくない。
どうせ言うなら、自分の親なんだから「お母さん、お兄さん達の言う事聞きなさいね。」と親の説得をして欲しいものだ。
鶴子の友人の、亀代の所の義母が亡くなった時に、叔母様から「今時、孫ちゃん達と暮らせて、見取ってもらって幸せだったわね。」「ありがとうね。」と言われたそうでだ。「ありがとうね。」と言う人をお婆とは呼べない。やっぱり叔母様だわ。
介護にも疲れ、葬式やその後の行事に振り回され、半分切れてた鶴子は小学校の頃からの友達の亀代と久しぶりに牛タンを食べに出かけた。
「ねェ、ねェ、鶴子のところの叔母様たちに、ありがとうって感謝されたでしょう?あんなに爺さんの面倒見たんだし。」と亀代が話してきた。
「何言ってるの?あの辺は嫁が見るのは当然だと思っているからありがとうの‘あ’の字も出るわけないよ。」
「うそォ!」
「それに、叔母様なんてもんじゃないわよ。汚婆で十分だわよ。」
「でも、汚婆は良いかも。汚ギャルみたいで。」「精神的老人虐待で訴えられたりしてね。」
「それでも良いわよ。逆に嫁虐待で人権問題にしてやるから。」
と強気に話をするものの、なかなか太刀打ちできる相手ではない。
久し振りに、ビールを飲みながら愚痴を聞いてもらって憂さを晴らそうと思うが、出かけてきた時くらい家の事は思い出したくもないので、「この牛タン薄くなったよね。」
「BSE問題で輸入禁止になってから大変だよね。」
「好きな牛タンも食べられなくなったら、何を生きがいに生きていけば良いの?」
「ほんとだよね。ビールに牛タンは止められません!」
などと、取り留めのない話しをして楽しんだ。
義父が亡くなったことを知らずに、「温泉にでも行かない?」とメールが来たので、義父の訃報を告げると、彼女は早速お悔やみに来てくれたのっだった。
「でもさぁ、鶴子のところって婆さんたくさんいるんだね。威圧感がすごかったよ。怖かったもの。」
近所に義父の姉と妹が連れあいを亡くし住んでいる。
義母の、実家も弟も近くだし、そのおば達と義父の従姉妹も来ていた。
「玄関を入ると、婆さん達が、キリストの最後の晩餐の絵のように並んでいるんだもの。」
「あれは、最後の晩餐じゃなくて、最後の婆さんだね。アハハハ。」
「そうだ。そうだ。その通り。最後まで残るのは誰だ!なんてね。」
「今日は、楽しむんだから婆さん達の話しはしないようにしようと思っていたのに・・・」
「良いじゃん。酒のつまみだよ!」
やっぱり、お婆の呪縛からは逃れられないのか?話しは振り出しに戻るのであった。
(2)
四十九日も終わり、鶴子の姑のウメは、ウメの妹の松子の家に行った。
松子は、「鶴子さんも大変だからゆっくり休んで。」とウメを泊まりに来るようにと誘うのだが
「よそに泊まるのは心配だ。」
「松子は私が紙パンツつかってるの知らないし・・・」
ウメは、脳梗塞で倒れてから不安症で尿漏れパットと紙パンツは離せなくなっていた。
そんなウメを見て鶴子は「だめか、自信つくか、一晩泊まって見ればいいでしょう。泊まれればこれからも姉妹で温泉に行ったりできて楽しいよ。」と進めて一日分の薬と下着を準備して送り出した。
あんなに心配していたから泊まらないで帰って来るかもしれないと思いながら。
それなのにウメは、松子の家に泊まったきり帰ってこない。
一晩泊まってから、松子は「帰るって言うまで泊めておくから。」と薬を取りに来てくれたのだった。
「婆さんまだ帰ってこないのか?」
「暢気だなぁ」と義父方の伯母、熊子が言う。
「当たり日(月命日)なのに暢気だなぁ。」
その言葉にカチンときた鶴子は敵意剥き出しに言った。
「あたり日って何かしなくちゃいけないんですか?」
「そんな事ないけど・・・」「御精進上げて・・・・」
(だったら、ぎゃぁ、ぎゃぁ、騒ぐなよ。何をしなければいけないって事もないんだから・・)
(あなた達、義姉妹のご機嫌伺いながら暮らすよりは楽しいでしょうよ。)と心の中でつぶやいた。
そして、「あぁヤダヤダ、私も、鬼嫁の域に達してるな。」と鶴子は伯母の家を後にしてひとり言を言った。
自分が出来る範囲で一生懸命頑張っているのに、これ以上何をしてほしいの?
して欲しい事があるならはっきり言ってくれれば対処も出来るのに面と向かって言わない伯母達。
うるさい外野の言葉に、鶴子の心はすり切れていた。
「どうせ嫁がどんなに頑張って尽くそうと非難はされても誉められる事はないンだから、適当に付き合えばいいのよ。」
「遣って文句を言われるのなら、遣らないで非難されるほうが、納得いくと思わない?」
「嫁は、いつでも辞められるんだからね。」
「嫁は、義両親の面倒を見る義務はないの!。」
「実子が、面倒見ればいいの!。」
「嫁は、相続の権利がないんだから。権利のある人の義務よ!。」と鶴子の友達の亀代は割り切った
それでいて適切なアドバイスをしてくれるのだった。
だからと言って、実際そう言う風に出来るかどうかは別にして、心強い味方がいてくれることに感謝しつつ
子供達の弁当作り、店の仕入れ、店番、家事全般、子供の学校の事、義母の病院の付き添い、
自分の病院通いの、日々の暮らしをあまり苦にしないでこなすことが出来ていた。
ウメが帰ってきたのは二週間経ってからだった。
( 3 )
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