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06年12月執筆

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2006年春より、各携帯電話会社が一斉に、子ども向け携帯電話を発売した。
その搭載機能は、まず目玉としてGPS機能(衛星利用測位システム)。これを子どもに持たせることで、親はインターネットや電子メールなどを通じて常に子どもの現在位置を把握することができる。他にも、防犯ブザーや、トラブルが起こった際に警備員を発信現場まで急行させることのできるものもあるらしい。

 しかし、この子ども向け携帯をめぐって、学校や保護者の間で論争も巻き起こっているという。
一見便利で、子どもの安全を守るには頼もしい味方にも思えるが、所詮は携帯電話であり、ビジネス目的の会社が作り出した機械である。当然電話やメール機能も付いているし、アニメなどのゲームもしっかりくっついている。それを学校に持ち込むことになれば、子ども達がそれで所を選ばず遊ぶのは目に見えているわけで、学校で議論になるのは当然の事だ。
 しかし、これによってもっと着目しなければならないのは、「子どもが学校で携帯のゲームで遊ぶから勉強の邪魔になる」という事ではない。もっと根の深い、大きな問題が潜んでいる。

 本来、子ども達を守るべき者は、親であり、その身近な大人達である。
それはこれから先、ロボットの警備員や、『不審者捕獲全自動装置』みたいものが道路の至るところに普及したとしても、絶対に忘れてはならない。人間には、自分より小さくてかわいいものを見つけたら、抱き寄せて守ろうとする本能があり(例えば犬や猫を見かけたら、特別嫌いな人でないかぎり、腕に乗せて頭を撫でようとするように)、危険を感じれば、それを直感的に察知して俊敏に行動するように体が作られている。

 しかし、そういった本能が、どんどん人間から無くなっていっているような気がしてならない。もっと言えば、「子どもを守る」ということを、機械を第一の手段として考えてしまった時点で、それは、ある大切なものを放棄してしまうことにつながらないか・・・というのが、私の危惧していることである。
 確かに、子どもを狙った犯罪はここ数年目に見えて増加しているようにも感じる。
ただ、そう急激に治安が悪くなったといえるか・・・というと、何年も多くの子ども達と地域の中で接して、治安もそこそこと言われている所に住んでいる私は、どうも引っかかるのだ。
 
まず子どもを狙った犯罪者というのは、ずっと昔から決して少ない人数ではなく必ず存在する。私が小学生の頃から(あるいはそれよりも以前から)どこの学校にも、
「あそこに変なオジサンが出るんだよ」等の話はいくらでもあったし、また、現代の精密な情報過多時代ゆえに、あたかも事件が多く発生しているように感じてしまうことも考慮しなくてはならないだろう。

 もっと根本的なことをいえば、「安全」があれば「危険」もあって当然なのである。それは、
どこへ行っても同じことだ。問題は、何が安全で、何が危険なのかを読み取る能力である。日本人は島国気質ゆえ、「自分だけは大丈夫」と考えてしまう所がある。しかし、それは大きな間違いであり、人間として大地を踏みしめて生きている以上、いつ何が起きるかわからないのが当たり前なのである。



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 あくまでも、子ども向き携帯電話などは、子どもの安全のための1つのオプションと考えるべきである。
 私が一番恐れているのは、子ども向き携帯電話を子どもに持たせることで、
「これで子どもの居場所はいつでもわかるし、自分は何もしなくても大丈夫だ」
と考える傾向が親や学校にできてしまうのではないかということだ。
 これは、とんでもない話である。

 大人が自分の目で子どもを守る目が鈍くなるゆえに、さらに子どもが犯罪に巻き込まれる可能性は高くなるし、子ども自身だって、
「自分はこの携帯を持ってるから安心だ」なんて思い込んでしまえば、自分で危機を察知することなどできなくなってしまうだろう。また、教育者の立場であるべき者がますます、子どもに社交性を学ばせる機会を怠ったら、社会性のない大人や、人間関係を築くのが下手な大人を今にも増して生み出すきっかけにもなりかねないのだ。

 また、子どもは驚くほど小さい頃から、大人の目線を嗅ぎつける能力を持っている。いつでも居場所を監視されている子どもの立場に立って考えてみるといい。とても落ち着いていられるものではない。子どもを守るどころか、多くの新たな問題を発生させる要因になりかねない。
(現に、子ども向き携帯を学校に持ち込むかどうかでトラブルが起こっているのだから)

 しかし、少し目を向ければ今は、他にも子どもを守るための手段は現行のものでも
たくさんあるのである。

 例えば、PTAの保護者などが下校時刻にいつも行っている、自転車の防犯パトロール。
これは最も効果的な方法だ。特に子どもを狙う犯罪者は精神的に虚弱で臆病なことが多いため、他人が目を光らせる所で犯行を起こす可能性は極めて低い。

 また、市役所や学校が配布している「子ども110番の家」などの看板。これを設置して、いつでも子どもを保護できる場所が点在し、活用できれば非常に有効だ。
 しかし・・・残念ながら、現段階ではそれらの手段は有効に活用されているとは言い難い状況である。「子ども向き携帯を持たせるかどうか」ということを議論する前に、やれるべきことは多々あるはずなのだ。

 子どもと一緒に遊んだことがある方ならわかるだろう。できれば、鬼ごっこか、
かくれんぼが良い。子どもと大人では、目線があまりにも違うのだ。
 子どもは自由に遊んだり、行動している時、大人が思いもかけない場所、スペースを見つけて、動いたり、隠れたりする。公園の草木のブラインドになっている所や、道端の看板の陰など、
「こんな所にこんな場所があるのか」と驚かされることが多い。

 そこで、である。先ほど挙げた自転車の防犯パトロールである。
昼過ぎに街中を歩くと頻繁に目にするが、実に見当違いの場所をさ迷っている自転車を見かけることが多い。人がたくさん歩いている通りや、指定の通学路だけを見回っても、はっきり行って効果がない。
 
見回るのなら、学校から、子どもの居住地までの間のルートの、死角のなりうる狭い路地、またそのルートの途中の(あるいはやや外れた位置の)公園や駐車場などのすみっこなどである。
(ただし実際には、防犯パトロールの印をつけた自転車に乗ったままプライベートに出かけることもあるため、大きな道を通っているからといって全て間違っているわけではないという点を付け加えておく)

 また、そのパトロールをしている人が、実際に子どもが危険な状況に遭っている所に遭遇した時、いかなる対応をするのだろうか。仮に、子どもが誘拐される寸前、或いは、明らかに不審者のような人間を目の前にした時だったりしたら・・・素人の人間が、とっさに子どもを救うような俊敏な行動を取れるとは思えない。
 さらに、夜遅くまで公園で遊んでいる子ども達に「早く帰りなさい」と声をかけたとしても、子どもが素直に言う事を聞くとも限らない。ただでさえ見知らぬ大人には警戒心が強い上に、防犯パトロールの意義を子ども達がきちんと知っていなければなんの意味もないのである。


 
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「子ども110番」「子どもの避難所」の看板に関しても言及の余地がある。さいたま市では、この看板は、市役所、又は小学校で無料配布している。他の地域は私にはわからないが、おそらくほとんど同じだろう。
 ピアノ広場「柳音~やなぎおん~」でも、この「子ども110番」の看板を設置しているが、これは本来、子どもを安心して保護できるきちんとした環境を持っていなければならないはずだ。つまり、それなりの重要な責任を担っている証のはずである。この看板が市役所や小学校で手に入るのは、それほど世間では知られてはいないが、これは簡単に誰にでも手に入る。近くの役所や小学校に行って、くださいと言えばくれるのだ。
 しかし、実際に看板を掲げて、実際に何か起こった時にいかなる役割を担うのか、実際に子どもが駆け込んできたらどのような対応をするのか・・・実はなんの指導も行われていないのである。
 それに、子ども110番に適切な場所と人間がいる場所かどうか、行政が看板を掲げている所を見て周って確認する必要もある。極端な例を挙げれば、犯罪組織の人間が市役所に行って入手し、(窓口では嘘をついて)、普通の家の塀に「子ども110番」の看板を掲げることだって簡単にできてしまうのだ。
 
 しかし最も重要なことは、学校や行政が協力して、子ども110番の看板設置場所を把握し、それを子ども達に伝えることである。
 そういった事や、パトロールする場所に関する事まで、警察などと連帯して指導していくことをやっていく必要があるのではないか。少なくとも私は、学校がそのような部分まで指導しているという話を聞いたことがない。
(私は個人的に、防犯パトロールは子どもの保護者にやらせることではなく、もっと専門の人間がやるべきだと思っているが・・・。国がそうさせなくてはいけない。保護者にそこまで負担をかけさせてはいけない)


 私は何も、アメリカのように、学校の正門に拳銃を持った警官を常時立たせろなどと言っているわけではない。携帯電話の事で言い争う前に、やれるべきことがたくさんあり、子どもに携帯電話を持たせることによる、いっそうの危機管理能力の低下を危惧しているのだ。

 数ヶ月前に、小学生高学年の女の子3人が新宿に遊びに行って、見知らぬ男に猥褻行為を受けるという事件があった。詳細まではわかりかねるので勝手な断言はできないが、小学生の女の子だけで新宿に遊びに行かせるという点は、首をかしげざるをえない。

 まずは、何が正しいのか、何が安全なのか、何が危険なのか、大人がしっかり子ども達に伝える必要がある。ただし、何でもかんでも「危ないからダメ」と押し付けるのは良くない。
まずは大人が、冷静な判断力を養い、子どもと接することだ。そうすれば、子どもも正しい人の見分け方、自分自身の安全を考えて行動できるようになる。

 
 「子ども向き携帯電話」が必要なのかどうか・・・議論するのはそれからだ。



注釈:このコラム掲載後、さいたま市の一部小学校では、子ども110番のネットワークをはじめ、対応策が進んでいます。

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