バックナンバー タイトル

バックナンバー
連載
ヤイユーカラパーク VOL38 2001.11.8
ヤイユーカラ バックナンバーへ戻る
おもな内容へ戻る
おもな内容

新刊・旧刊

『父さんのからだを返して―父親を骨格標本にされたエスキモーの少年』
       ケン・ハーパー/鈴木主税・小田切勝子 訳) (早川書房/2001,8)

1897年、有名な北極探検家ロバート・ピアリーがニューヨークに連れてきた6人の北極エスキモーのうち最年少(7才)の少年ミニックが、1918年に亡くなるまでのドキュメント。地味な語り口であるにもかかわらず、その内容は衝撃的である。

到着直後に帰国した一人を除くミニック以外の4人は、ニューヨークのアメリカ自然史博物館に幽閉状態の中で病死してしまい、その身体は研究者の研究素材とされ、ミニックの父親の骨は陳列標本とされる。残された少年がアメリカで暮らし、一時は故郷へ帰ったものの再び戻ったアメリカで死んでいくまでの、アイデンティティ喪失の物語は、あまりにも哀しく、悲惨である。

かつてアイヌの遺骨がどのように扱われ、研究されてきたかを知る者は、特に痛みを覚えずに読み進むことはできないだろう。ミニックが返還を求め続けた「父さんのからだ」は、彼にとってはイヌイットとしてのアイデンティティと人間としての誇りに他ならない。そしてそれが故郷に帰ることができたのは、ミニックの死後、1993年のことだった。時代が『旧土法』と重なることにも、重たいものを感じる。