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2004.03.30 |
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『金の風に乗って』 戸塚 美波子 (札幌テレビ放送株式会社/2003,12,20)
札幌テレビ放送が1973から5年毎に創立記念事業として刊行してきた、アイヌからの聞取り(『エカシとフチ』『ヘンケとアハチ』など)の第6集になる。といってもこれは、優れた詩人として知られる戸塚美波子が"聞取った"ことを書き記したものではなく、逝った家族のことを思い出し、思い起こしながら綴られたひとつの家族史である。
それは「今は静かに眠っているであろう肉親たちを呼び戻し向かい合う作業」といい「十年、二十年という歳月、開かれることのなかった母のアルバム、兄たちのアルバムを意を決して開き、この七ヶ月あまり、涙する日々が続きました」(あとがき)と書いているように、彼女にとって我が魂を削るような作業だったろうと思う。アイヌであるが故に、貧しいが故に、障害を持つが故に辛く、苦しかった家族それぞれの過ぎた日々を、「それでも楽しく明るく頑張った姿を、私自身が見て感じて共有したことを書こうと思い至りました」と吹っ切ることで完成した本書は、単にひとつの家族の物語であることを越えて、同時代を生きたアイヌのドキュメンタリーとして、普遍性を獲得したといえる。
アイヌの"ヤイサマ"は、個人がその想いを即興で歌い、消えていくものでありながら、優れたヤイサマは、それを聞いた人びとによって歌い継がれ、後世に残されてきた。彼女が綴った"ヤイサマ"によって、彼女の兄たちや母は甦り、いま、私たちを力づけてくれるようだ。
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