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ヤイユーカラパーク 連載 食いものノート親父料理教室

VOL442003 06 216

レシピ 10

我々は『土に生まれ、土を食べる』者である…。レシピbXで簡単に触れておいたので、諸君にもおぼろなイメージはできるだろう。今日は、そこの所をもう少ししつこくやる。ヒトはなぜ食べるのか、我々の食行動の核心に迫る大切なポイントである。


まず初めに、「土」を正しく理解しなければならない。


土とは、「地球の外殻を構成する土石の総称。岩石が分解して粉末となったもの」。というのが広辞苑の解釈だが、今日のテーマの「土」は石ころを金槌で叩きつぶしたような物質のことではない。それはただの「石の粉末」にすぎない。

広辞苑の解釈を正しく理解するためには、「岩石が分解して…」という部分に留意する必要がある。岩石が細菌、酵母、地衣類などの微生物によって「分解」されるシステムは、海に誕生した生命が、陸上に進出した四億年前も、現在も、変わらぬ自然の営みである。そうして分解された「岩石の粉末」と、地衣類やその死骸で構成されたわずかばかりの「土」。そこにまた新たな植物が芽生え、その植物を食べて動物が栄える。

…「母なる大地」、そして「祖母なる海」の由来である。


「土」は生きている…。


海水の組成は、生体元素の組成に一番よく似ている。しかし、我々は海水をそのまま飲むわけにはいかない。一方、土の主要元素は、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウムで、人体の主要元素とも共通している。そこで我々は、植物を介して身体に必要な元素を「土」から取り込むという手の込んだ方法を用いて生きている。まさに、その目的のために我々は食べる。それは他の動物も同じだから、食物連鎖を遡ってみれば、たとえ肉食をしていたとしても結局は「土」を食べて生きていることに変わりない。

自然食(=マクロビオティック)に興味を持つと,「身土不二」という言葉に出会う。もとは仏教用語だが、マクロビオティックでは、「互いに異なる二つのものに見える身体と土は、実は同じ物質でできている」。とか、「すべての生命現象は環境や風土の産物なので、その土地で、その季節にできるものを食べなさい」と言われる。我々の「生きた細胞」を形成しているひとつひとつの原子には「生命」がない。それは土と同じである。つまり我々とは、土の情欲によって、地上に「いのちの花」を咲かせているだけの存在である。

マクロビオティックには全体食という食べ方もある。「大根は白い部分ばかりでなく、葉っぱや皮、ひげ根まで含めた『全体』があって、はじめて大根としての『生命』が完成されている。よって、一物全体、そのすべてを食べきることで我々の生命のバランスも保たれる」。これは桜沢如一が提唱する食養法の基本作法にある「全体食」の大雑把なイメージである。魚であれば頭から尻尾の先まですべて食べられる小魚に限る。肉食でこれをやるのは至難の技だから、マクロビオティックでは玄米、雑穀を主食とする菜食が基本になる。牛タン料理もオックステール・シチューも旨いけれど、牛の全体食なんて考えるのもおぞましい。

レシピ 11

少しチャチャをいれてしまったが、マクロビオティックはもともとひとつの思想から出発しているので、現象面だけを見てトンチンカンな反応をしていてもつまらない。…ノーベル生理学・医学賞を受賞したアレキシス・カレル博士は『人間―この未知なるもの』の中で、化学技術や機械の発達による大量生産や、資本主義経済の下での貿易などで提供される食物の不自然さ、不完全さ、を指摘した上で、「生命の無いものから、生命が生じる原理を探求するためには、マクロビオティックが必要になる」と語っている。現在では「自然食の食事法」を指す言葉として定着しているマクロビオティックも、その本来の意味は「巨視的生命観」(英語はマクロバイオティック)である。


これまで、「生命の起源と進化の解明」は地上の岩石や化石の検証、研究が中心だった。そこに、宇宙からの視点を組み入れた「アストロバイオロジー」をNASAが提唱している。マクロビオティックとの関係はないのだが、宇宙の秩序の中に位置づけられた地球や銀河の在りようが、身体の中の細胞や原子の在りようとよく似ているのが面白い。


以下は拙者の仮説、又は妄想。


*「土」が「生命」を抱えこんで『全体として生きている』のと同じように、地球も、地球上のあらゆる生命を抱えこんで『全体として生きている』のではないのか…。

*宇宙における地球は、我々の身体における原子のような存在であり、銀河系は細胞。そして、全宇宙は「大生命」あるいは「宇宙生命体」とでも呼ぶようなもの…。

*これを事実と仮定すれば、地球も、人体と同じようにミクロとマクロを結ぶひとつの「現象」として存在していることになる。色不異空、空不異色…。


もちろん、こんな「非科学的」なことをアストロバイオロジーは探求しない。それは拙者の中に子どものころから蠢いている「ある不思議な感覚」。こうして書いてみれば突拍子もない話だ。だがしかし、「ガイア」が根底に思い描くイメージはここにある。

「実習をまじめにやる」と予告しておいたのに、またぞろ怪しげな方向に流れてきた。退屈している神様をひとり連れてきて、大鍋で煮込んでかき混ぜてやれば「新興宗教」でもなんでも作れそうな気分だ…。さっそく実習に移ろう。

実習の手引き その6

ガイアコロッケを食べた人はいないだろう。…当然である。拙者がたったいま思いつきで名付けた。お惣菜の芋コロッケとは違い、フレンチの巨匠が手がけ、すこし気取ってナイフをいれると、からりと揚がった衣の中からとろりとした物体があふれ出てくる、あれ、である。世人はクリームコロッケなどと呼んでいるが、皿に盛られたその姿、艶かしいその実体はまさにガイア世界のものである。初めて料理を作るのに、難し過ぎやしないかという心配は無用である。拙者に作れるのであるから諸君にも必ず作れる。それに、ガイアコロッケは作るのがとても楽しい。その上、とても美味しい。

では始めよう。はじめにひとつ断っておく。これを作るにはホイッパー(泡立て器)が必要である。家に無ければ買ってほしい。「親父料理術」はいずれデザート作りまで進む。その時にも必ず必要になる。高いものではない。サイズはいろいろあるが、先端が握りこぶしぐらいの大きさのものを選べば使いやすい。死ぬまで使える(…念のため)。

材料

自信がついたら倍量を作って冷凍しておくと重宝する。

鶏胸肉約100グラム(蒸すか、薄く切って湯がいて、粗くみじん切りしておく)
タマネギ約半分(みじん切り)
小麦粉35グラム(大手メーカーのものはすべて輸入品、ポストハーベストは表示されていない。生協などで道産品を買おう)
マーガリン30グラム
牛 乳250cc(小麦粉を炒めはじめたら弱火で温めておく)
卵 黄1個(半分で十分だが、入れないとまとまらない。四倍量まで1個でOK
適宜(目安は小さじ半分弱、最後に味を見て好みで決めればよい)

作り方

  • フライパンを強火で熱してから油をひき、油が十分に熱くなったらタマネギを入れる。全体に火が通るぐらいさっと炒めて、鶏肉も加えて塩コショウで味をつけておく。

  • 2リットルぐらい入る鍋を弱火にかけてマーガリンを入れる。とけたら小麦粉を入れ、たえず木ベラでかき混ぜながら炒める(焦がさないように白く仕上げるのがコツ)。

  • そのまま炒め続けて約10分経ったら(タイマーを使うと気が楽)、温めておいた牛乳を一気に加えてホイッパーで素早くかき混ぜる。

  • さて、ここからが楽しい。火力を少しだけ強くしてかき混ぜていると鍋の中に次第にミルク色の銀河が現れてくる。それをまた、宇宙を創造中の神様になったつもりでゆっくりとかき混ぜていれば、5分もしないうちにしっかりしたクリーム状になる。

  • そこに@を加えて再びかき混ぜながら水分を飛ばす(火力はそのまま)。時々ホイッパーを持ち上げて硬さを見る。ぽとぽと垂れるようではまとまらない。ホイッパーを振って「ぼっとん」と固まって落ちてくるぐらいまで続ける(初めは少し硬目に仕上げることをお勧めする。様子が分かれば好みの柔らかさで止められる)。

  • ほど良い硬さになったら、塩を加えて少し薄めに味を付ける。

  • 最後に卵黄を加えて混ぜ合わせ、バットなどの平らなものにならして十分に冷ます。


それを切り分けて、空気に触れた面を外側にして包むようにしてまとめる。手にオイル

をつけても良い。(万一、柔らか過ぎてまとまらない時は、再び火にかけて水分を飛ばす。その場合はとても焦げやすいので気をつける。鍋を一度洗って温め、十分に油を引いて、できればレンジで温めてから入れると良い)。形は小さな俵型が一般的だが、柔らかいと置いた時に平べったくなる。(冷蔵庫でよく冷やしておけば多少は防げる)。そこに小麦粉をまぶし、水に溶いた小麦粉を手でまんべんなく塗り、パン粉をつけて揚げればガイアコロッケの出来上がりである。

揚げ物は油の温度が微妙に作用する。残りの溶き小麦粉を箸でたらしてみて、鍋底に着

いた瞬間に浮き上がるぐらいが丁度いい。沈んだままなら温度が低すぎてからりと揚がらない。反対に、沈まないで油の表面でチリチリするようなら、温度が高すぎて中に火が通らないうちに焦げてしまう。

今回は鶏肉を入れたので「チキンコロッケ」としよう。これにはマッシュルームや、好みの香草を加えてもいい。キッチンほうれん草の人気メニューでもあった。これに少しだけ手を加えてアレンジすれば、カニを入れてカニコロッケ、エビを入れればエビコロッケ、豚を入れれば…?なども作れる。あとは好きに工夫して楽しんでくれたまえ。


遠離一切顛倒夢想、究境涅槃。ボーディ! スヴァーハー!(次号に続く)

追伸!約一年かけてやっと料理らしい実習に入れた。一人暮らしの方でも作れるように材料を少人数に限定したが、倍量ぐらいまとめて作った方が仕事はしやすい。実際に作ってみて、ご意見、ご感想を『森』にお寄せいただければ次回からの参考にしたい。