あいの風


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 万葉集には大伴家持が越中国守として在任していた5年間に詠んだ223首が掲載されています。
 その中の一首に、
”あゆの風 いたく吹くらし 奈呉の海人の釣する小舟漕ぎ隠る見ゆ”
があります。
あゆのかぜが強く吹いているらしい。釣りをする小舟が波間に見え隠れしているのが見える」という意味です。
「あゆの風」は新湊では「あいの風」、能登では「あえの風」などと呼ばれています。
  ところで関口武著「風の事典」では「あいの風」は「日本海航路の上りの船が、
順風として利用する春〜夏の中くらいの強さの風を意味する」といわれています。
一方、同じ「風の事典」で伏木には「あいの風」を「11〜3月の風、風波高し」というのもあります。
確かに大伴家持が住んでいた国司館跡に建てられた旧伏木測候所にある伏木アメダス観測所の
データを調べてみると冬季を中心に、やや強い北東風が吹くことがあります。
下の図は伏木でやや強い北東風が吹いた2007年2月25日12時から26日8時にかけての
伏木の気温と風向、および比較のための富山の気温を表したものです。
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 平均風速が7m/sを超える(下図)北東の風が吹き始めた19時以降、富山の気温は
低下するのに伏木では下がらず、特に午前2時から午前4時にかけて富山より気温が
4℃以上高い状態になっていました。そして風向が変わった午前5時以降、気温は
急速に低下しました。
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昔の人は、この冬季のあいの風を「風は強いが冬にしては暖かい」、
と感じていたのではないでしょうか。

富山・石川の、あいの風
 「風の事典」関口武著には富山・石川県内の風の名前とそれに対応する風向・地点名が
多数掲載されています。また、一部には吹く季節、風の強弱なども記述されています。
同種の名前の風を拾いだして、各地点の風向を富山・石川の地図上にプロットしてみると、
風向にばらつきの見られることがあります。
風向にまとまりがあっても、実際の頻度からは考えにくい風向の地点も見られます。
そこで、富山県及び石川県沿岸の13か所のアメダス地点の風データを、
季節ごとに強風(7m/s以上、弱風(1m/s〜4m/s)に分けて調べ
「風の事典」にある風の名前の風向と比較・調整を行いました。
(資料:”アメダス観測資料(バイナリー形式・圧縮版)1976-2000年”を使用)
その結果、風の名前と風の強弱・風向・季節・地域の関係をまとめることができました。
ここでは、あいの風について表にしました。
風の名前風の強弱風向季節地域備考
あいのかぜ 富山 北東秋〜冬県西部-
北北東〜北東春〜夏県東部海風
石川 北東-珠洲周辺他地点では北西〜西
北東-全域-

--------富山県--------
強いアイは主風向が北東で、秋から冬にかけて県西部で多く吹く。
弱いアイは主風向が北北東〜北東で、春から夏にかけて県東部で多く吹く。
--------石川県--------
強いアイは珠洲周辺では主風向が北東、他地点では北西〜北である。
弱いアイは主風向が北東で、各地で吹く。

富山・石川県沿岸の「あいの風(風の事典)」、「弱いあいの風」、「強いあいの風」の分布を
地図上に表示してみました。
富山県・石川県沿岸各地の「あいの風」の風向(風の事典)

pic_07.jpgアメダスデータより調整した「弱いあいの風」の地点と風向

pic_08.jpg アメダスデータより調整した「強いあいの風」の地点と風向