162.観戦-Spectating-
1991年6月19日(水)PM:17:27 北広島市栄町銅郷邸一階

 和風様式で趣きのある室内。
 テーブルを囲んで座っている人物。
 腰まである茶色がかった髪の少女、銅郷 杏(アカサト アン)。

 彼女と対面するような形の二人。
 狐の様な耳を持つ、黍 風羅(キビ フウラ)と黍 流貴(キビ ルキ)だ。
 三人共、少し神妙な顔つきになっている。

「報告をまとめると、イーノムの指示で、北海道内を動き回っている何者かがいる、って事でいいのね?」

 確認の意味も込めて、二人に問う銅郷。

「はい。猩々の報告ではそのようです。おそらく、イーノムの目的と関係があるとは思いますが、詳細までは不明のようで」

「そうよね。公には存在しない部隊に潜入している以上、情報を探るだけでも、中々難しいでしょうし」

「現在の所在地も不明な為、追跡して捕らえるのも難しいと思います」

 銅郷と風羅の会話。
 割り込むように流貴は言った。

「そうよね。流貴の言うとおりか。追跡は無理か」

 思案するような表情になった銅郷。

「その動き回っている何者かは、二日前に釧路市か。目的地がわからない以上、追跡は断念ね。それで学園だけども、銀と小鬼をいかせようと思うけど、どうかしら?」

「小鬼は銀になついておりますし、問題ないかと思います」

「私も風羅と同意見ですね」

「それじゃ、私も含めた三人で決定ね!?」

 唖然とする表情になった二人。
 先に言葉の意味を理解し、飲み下したのは風羅。

「お待ち下さい? 杏!?? 本気ですか?」

「ええ、本気よ。私達の目的を遂げる為には、あそこの動きも把握しておく必要があるわ。それに彼女を、イーノムに渡すわけにはいかないでしょ?」

「風羅、杏は一度言い出したら、説得するだけ無駄だって知ってるでしょ?」

「さすが、流貴! わかってるじゃない」

 やれやれといった感じだ。
 風羅は、頭に手を当てている。

「そういえば、鬼と瑠璃星はどうなの?」

「不満に思い始めているようです。今はまだおとなしくしていますが、そもそもの気性があれですので。それに鬼は、古川に手も足も出なかった事を、根に持っているように感じます」

「そう。あの二人の不満解消も兼ねて、もういっその事、年齢的に問題ない面子は、学園に通わせてしまおうかしら?」

「情報収集と、実力や知識の底上げもか兼ねて、それもいいかもしれませんね」

 真面目な表情の風羅。

「あら? 風羅は反対するかなと思ったのに、意外ね?」

「現状、同士達を分散配備し直すだけならば、我々は必要ありません。裏方の大人達の方がうまくやるでしょう。なので反対する必要もないかなと。何度かぶつかったりもしましたが、そうそう正体が露見するとも思えませんし」

「確かにそうね。繋がりを持っていれば、いざと言う時に協力してくれる面子がいるかもしれないか。学園に行きたいかどうかも含めて、皆の意見聞いてみましょう」

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1991年6月19日(水)PM:17:33 中央区特殊能力研究所三階

 多目的トレーニング場で組手をしている二人。
 火を操っているのは近藤 勇実(コンドウ イサミ)。
 三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)は風で火を散らしている。

 二人は少し、近未来的なプロテクトスーツ姿。
 全身を、完全に覆っている。

 ほぼ互角の勝負を続ける二人。
 近藤の両手には、常に炎が纏わりついている。
 その拳を、義彦は風の力を利用して弾いた。

 上から振り下ろされた近藤の左拳。
 紙一重で躱した義彦。
 懐に飛び込んだ。

 彼の左拳が、突如、炎を纏う。
 近藤を吹き飛ばした。
 吹き飛ばされた近藤。
 柱の一つに叩きつけられた。

「ぐっ、さすがに衝撃は完全には無理か。しかし本当、容赦ねぇなぁ? 容赦はいらないとはいったけどよ」

 寝転がっている近藤。
 思わずぼやいた。
 その後で、まるで何事もなく立ち上がる。

「やばいやばい。普通なら今ので、俺の人生終わってたわ」

「どうゆう原理なんだ?」

「俺が知るわけないだろうが」

 二人から少し離れた所。
 微笑んでいる白紙 元魏(シラカミ モトギ)。
 隣には、桐原 悠斗(キリハラ ユウト)。
 彼は、二人の戦いを白熱して見ている。

「やっと来たね。三井君、近藤さん、二人共、今日はこれで終了だね」

 元魏の言葉に反応した近藤と義彦。
 二人は動きを止める。
 そしてヘルメットを脱いだ。

 彼等に近寄ってくる足音。
 二人の視線の先、そこにいるは三人。
 真面目な表情の古川 美咲(フルカワ ミサキ)。
 少し俯いている朝霧 紗那(アサギリ サナ)。
 彼女に車椅子を押されている朝霧 拓真(アサギリ タクマ)。

 更にその後ろにも三人いた。
 堤 火伊那(ツツミ カイナ)は緊張した面持ち。
 申し訳無さそうな友星 中(トモボシ アタル)。
 駒方 星絵(コマガタ ホシエ)は、何処か苦しそうだ。

「あの後、きちんとお話ししてなかったと思いますので、この場を設けさせて頂きました。ほら三人は前に」

 拓真の指示により前にでた三人。
 彼等の視界に収まるように前に出る。
 義彦と近藤も、既に悠斗の近くにいた。

 中を中心に、左が火伊那、右が星絵だ。
 三人共緊張した面持ち。
 その中でも、星絵が一番辛そう。

「桐原さん、三井さん、近藤さん、白紙さん、いろいろとご迷惑をお掛けしました。申し訳ありません」

 中心の中が頭を下げた。
 その言葉に連動したようだ。
 火伊那と星絵も頭を下げる。

 彼等のその行動に、驚きの表情の悠斗。
 義彦は無反応で無表情。
 近藤は、何か言いたそうだ。
 終始微笑んでいる元魏。
 反応は四者四様だった。

「許して頂けるとは思っておりません。本当はもっとはやくにするべきだった事なのは、重々承知しております。その点も含めまして申し訳ありませんでした」

 真摯な声の火伊那。
 微かに声が震えている。

「申し訳ありませんでした。一歩間違えれば、取り返しのつかない事態になっていたと思います。義彦さん、許して下さいとは申しません。もしお怒りがあるようでしたら、私を好きなだけ殴って頂いても構いません」

 明らかに震えている星絵の声。
 その中には、幾許かの後悔も混じっていた。
 更に、深々と頭を下げた三人。

「別に気にしてない」

 一番最初に反応を返したのは義彦。

「俺は今もこうして生きている。だからいいんじゃないか?」

「はい、ありがとうございます」

 義彦は星絵に視線を向けていた。

「・・・義彦が特に何も無いなら、俺から言う事はねぇよ」

 若干不満そうな近藤。
 腕を組んで、三人を順番に見た。
 やっと状況を把握した悠斗。
 微笑みながら、三人に視線を向ける。

「僕も気にしてませんよ」

「元魏は何かないのか?」

 古川は、顔を悠斗から元魏に向けた。

「ありませんね。仲直りが一番いいと思いますよ」

 微笑んだままの元魏。
 火伊那、中、星絵の順番に視線を向ける。

「許して頂けると言う事でしょうか?」

 頭を下げたままの中の言葉だ。

「許すも何もないだろ。場合によっては今後、協力する事もあるだろうし。近藤さんは何か言い足そうだけどな」

「義彦、お前がそれでいいなら、いいって言ってるだろ?」

 吐き捨てるように言った近藤。

「近藤は直情型で根に持つからな。まあたぶんそのうち忘れるだろうけど」

「所長、随分酷い言い様じゃないか?」

「とりあえず、三人共、いい加減頭を上げたらどうだ?」

 義彦の言葉に少し躊躇する三人。
 頭を上げた中。
 火伊那、星絵も、順番に頭を上げた。

「正直、一触即発になるかもしれないと、元魏も連れてきたし、私も来たのだが、その必要はなかったようだな」

 安堵したような古川。
 心の底から微笑んでいる。
 突然、中に視線を向けた近藤。

「友星だったか? 前は元魏に邪魔されたから、組手の続きでもどうだ?」

「おいおい、腹いせに、ぶちのめすつもりじゃないだろうな?」

 古川の言葉に、顔を顰めた近藤。

「そんな事するかよ? なんなら所長が判定してくれ」

「それはいいが? 友星はどうする?」

「そうですね。折角ですしお願いします」

「おし、あっちでやるぞ」

 奥に歩き始めた近藤。
 続くように歩き出す古川と中。

「どうせだから、他の皆も組手してみたらどうかな?」

「僕は怪我人なので、やめておきます」

 元魏の提案に、辞退の旨を伝えた悠斗。

「そうだね。悠斗君はまだ無理か。それじゃ私が審判で、三井君と星絵さん、堤さん、紗那さんの三人でどうかな?」

「俺は別に構わないが?」

「お願いします」

 元魏に突然振られた四人。
 そっけない義彦とやる気の紗那。
 火伊那はおろおろしている。

「三人なら勝てるかなぁ?」

 満更ではない瞳の星絵。

「それじゃ決まりだね。始める前にスーツ着てもらわないと」

 プロテクトスーツを着用した中が戻ってきた。
 近藤と組手を始める。
 悠斗と元魏は、まずは二人を観戦し始めた。

 しかし、観戦者は他にもいた。
 一部ガラス張りの窓になっている四階部分。
 そこいるのは黒金 早兎(クロガネ サウ)と一人の少女。
 少女はただただ、興味深そうに微笑んでいた。