166.会合-Assembly-
1991年6月20日(木)PM:16:58 中央区特殊能力研究所付属病院五階七号室

 楽しそうに会話をしている三人。
 一人はベッドの上にいる蘆菜 摩埜(アシナ マヤ)。
 残りの二人は椅子に座っている。
 竹原 茉祐子(タケハラ マユコ)と土御門 鬼湯(ツチミカド キユ)だ。

 摩埜の隣、窓側のベッドの上。
 仔狼がだらけている。
 は全体が白い毛で覆われており、部分的に紺色の毛だ。

 摩埜を挟んで反対側。
 そこのベッドに見える鳥が眠っている。
 白鶺鴒に似ていた。
 但し、色合いと大きさを考えなければだ。

 四日前の事件の時。
 摩埜の体には、複数の捻挫や打撲があった。
 どちらも軽度だったのが救いだ。

 茉祐子は、病院に手伝いに来ている。
 その傍ら、摩埜の見舞いにも来ていた。

 茉祐子は医療従事者でも何でも無い。
 その為、人手が足りない時の雑用をする位。
 実際にはそんなに仕事がある訳ではない。

 時間がある時は摩埜の話し相手になっている。
 手が空いている人がいれば、手伝ったりもしていた。
 その際に、色々と教えてもらってもいる。

「三井さんという方は、見た目恐いのに、本当は優しいって事なんですか?」

「うん、そうだよ。私も初めて会った時の印象と、今感じている印象は凄い真逆かもしれないな」

「印象が真逆って凄いですね。どんな人なのか、一度ちゃんとお話ししてみたいです」

「それじゃ今度連連れて来るね」

「お願いします」

「でもあれで案外、繊細な所もあったりするんだよね」

 独り言のように呟いた茉祐子。

「義彦様が繊細? 新たなる一面を聞いてる気がします」

「あ、もしかして私ってば、声に出してた?」

「はい、声に出しておりました」

「私にも聞こえていたよ」

 二人の言葉に赤面した茉祐子。

「照れちゃって茉祐子ちゃん、かわいいなぁ」

「私もかわいいと認識します」

「鬼湯ちゃんから見る、三井さんはどうなの?」

 話しの矛先を変えるような摩埜の質問。
 少し思案する素振りを見せた鬼湯。

「見た目恐いというのも、本当は優しいというのも否定はしません。計算高いように見えて、実は何も考えてなさそうです。それに冷静そうに見えて、実はかなりの直情的なのかもしれません。でも私達にとっては、頼れる兄のように感じている部分もあります。姉の鬼那が、一番そう思ってるかもしれませんね」

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1991年6月21日(金)PM:15:21 中央区特殊能力研究所付属病院四階七号室

 病室内のベッドには男三人。
 一人の女性が椅子に座っていた。

 一番窓側のベッド。
 両足を、ギブスで固定されいてる紫藤 薫(シドウ カオル)。
 彼は自由に動かせる両手で、週刊誌を読んでいる。

 紫藤の隣のベッド。
 椅子代わりに座っている相模 健二(サガミ ケンジ)。
 キャストパズルで遊んでいた。
 しかし、悪戦苦闘しているようである。

 椅子に座っている女性は、阿賀沢 迪(アガサワ ユズル)。
 言葉を交わしているのは相模 健一(サガミ ケンイチ)。

「迪、休みの日に悪いな」

「いいのよ。気にしない。それじゃ洗濯しとくからね」

「あぁ、菓子ありがとな。後で美味しく頂くよ」

 迪が帰る事に気付いた健二。
 キャストパズルに向けていた頭を上げた。
 顔を迪に向ける。

「迪さん、菓子あんがとねー!」

「健二君もお大事にね」

 健一や健二と違って、自由に動けない紫藤。
 彼は迪が自分の視界に入ってから、声を掛ける。

「阿賀沢さん、ほとんど面識もないのに、頂いてしまって申し訳ありません」

「紫藤さん、お気になさらないで下さいね。お口に合えばいいのですけど」

 そこで迪は、一度振り返った。

「健一、また来るから」

 一人病室を出て行った迪。

「健一さんに、あんな美人な恋人がいたなんて知りませんでした」

「兄貴にはもったいねぇけどな。でもあれで迪さん、怒らせたら超恐いんだぜ」

「健二は一度、本気で怒らせて、こてんぱんにされた事があるからな」

「兄貴、さらっと黒歴史暴露するんじゃねぇ!?」

「そ・そうなんですか? お・お強いんですね」

「殴り合ったら勝てる気しないからな」

 健一は、遠くの空を見るかのような顔だ。

「そういや、紫藤君」

「何ですか?」

「おまえ、由香ちゃんの事どう思ってるの?」

 突然の健二の質問。
 彼は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になった。

「たまに、由香ちゃんに熱い視線送ってたりしてたじゃねぇか?」

「えっ? あっ? はっ!? いや、そんな視線送ってませんよ?」

「本当かぁ? 本当なのかなぁ? そうは思えないけどねぇ?」

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1991年6月21日(金)PM:15:48 中央区特殊能力研究所五階

 浮かない表情の古川 美咲(フルカワ ミサキ)。
 手元の手紙に目を通している。
 手紙は達筆な日本語で文字が書かれていた。

 差出人は聖イギリス教会の大司教。
 キリスト教関連に関する知識を余り持ち得ない古川。
 彼女でも、大司教というのはかなり高位の役職なのはわかる。

 そんな面倒くさそうな相手が訪問する予定なのだ。
 だから、浮かない表情になるのも当然だ。
 扉からノックの音が二回。
 古川は表情と気持ちを引き締める。

「古川所長、イギリスから来訪されたお客様、お連れしました」

 緊張気味の園崎(ソノザキ) リーザ。
 そのの声も、普段のおちゃらけたものではない。
 紅緋色の髪をポニーテルにしている褐色の肌の園崎。
 彼女に連れられて入ってきたのは四名。

 四名とも扉のすぐ前で立ち止まった。
 各々が手に持っている紙袋を、足元に置く。
 古川も立ち上がる。
 彼女達と向かい合わせの位置へ歩いていく。

 歩みを止めた古川。
 膝まである金髪に、色白紫眼の人物。
 一歩前に出て来る。  スカートの裾の部分を少し摘んで、軽く会釈をした。
 彼女は薄い水色を基調とした修道服。

「古川所長、こちらからのお願いに、時間を割いて下さってありがとうなのですよ。ワタクシがお手紙差し上げました大司教、アイラ・セシル・ブリザードですのよ」

「失礼ながら、大司教と聞いてもっと年配の人物を想定してました」

 古川の言葉に、微笑を返すアイラ。

「大司教とは言いましても、ワタクシは賜ってから日の浅い身ですのよ。お飾りのようなものですわ。アナタ達も自己紹介を良しなに」

 堅苦しく違和感はある。
 だが、それなりに日本語は話せるようだ。
 アイラの左、赤髪サイドテールの褐色肌。
 縁無眼鏡の女性が一歩前に出る。
 彼女はタイトなミニスカート。
 黒のレディススーツを着こなしている。
 両手を前に、軽く会釈した。

「オルガ・アレシア・マクタガート、補佐をしております」

 彼女が一歩後ろに下がった。
 次にアイラの右が一歩前に出る。
 肩まである金髪で、色白青眼の少女。
 服装は青色を基調とした修道服だ。

「エレアノーラ・ティッタリントンです」

 最後に、一番右の少女が一歩前に出て会釈。
 彼女も青色を基調とした修道服を着ていた。
 髪の長さが腰まである。
 その点を除けば、エレアノーラと瓜二つだ。

「クラリッサ・ティッタリントンと申します。見てもわかるとは思いますが、エレアノーラとは双子の姉妹です」

「丁寧な自己紹介傷み入ります。ご存知かとは思いますが、学園の理事長を務める古川 美咲(フルカワ ミサキ)と申します」

 古川は更に園崎に視線を向けた。

「ご挨拶はしたとは思いますが、彼女は園崎(ソノザキ) リーザ。今回の案内をまかせております」

 古川の言葉に、会釈した園崎。

「よろしければソファにお座り下さい」

 古川の言葉に、各々が足元に置いた紙袋を手に持った。
 オルガ、アイラ、エレアノーラ、クラリッサの並びでソファーに座る。
 四人が座ったのを確認した古川。
 アイラと迎え合わせになるように、古川もソファに座った。

 園崎は、五人分の紅茶を淹れ始めた。
 彼女が紅茶を淹れ終わるのを待たない。
 古川は、差し障りの無い会話で切り出した。

「北海道はどうですか?」

「はじめてなのですけども、食べ物がおいしいですわね。数日小樽を観光いたしましたが、いろいろと楽しめましたですのよ」

 四人の中でアイラが会話の口火を切る。
 彼女は心底嬉しそうな表情だ。

「そうですか。それはよかった」

 紅茶を淹れ終わった園崎。
 ティーカップを順番に配膳してゆく。
 最後に古川の目の前に置いた彼女。
 古川の左後ろ側に立った。
 そこでアイラが予想外の事を口にする。

「リーザちゃんも座ればいいですよ」

「アークビ・・アイラ、それはどうかと?」

 アイラを見るオルガは厳しい眼差しだった。