205.特性-Characteristic-
1991年7月8日(月)PM:12:22 白石区ドラゴンフライ技術研究所地下二階

 座して待つ形藁 伝二(ナリワラ デンジ)は、目を瞑っている。
 まるで精神統一でもしているかのようだ。
 身動き一つしない。

 しばらくして開けられた扉。
 そこに現れたのはアラシレマ・シスポルエナゼム。
 先程とは色合いの違うスーツを着ている。

「いやーまいったよー。【白王鬼】っぽいのにそーぐーしちゃったー」

「二匹の式神はどうなった?」

「ごめーんちゃいなー。殺しそこねーまーしーた」

 アラシレマの言葉に、青筋を立てる形藁。

「そーんなにおこらーないでーよ。二度と喋れなーいだろーし、手足もうごかせなーいとおもーうよ。なーにせ、こいつで手足や口の中を蹂躙しちゃったーしーねー」

≪酸毒腐粘液(アシッドポイズンミューカス)≫

 アラシレマの言葉に呼応して現れた粘液。
 まるで意志でもあるかのようだ。
 アラシレマの周囲を華麗に乱舞する。

「生きた屍状態にしたという事か。そう言えばかつての世界で、城一つをそれで満たした事があったような。あの惨状は儂でさえゾッとしたわ」

「そーだったねー。あーれは中々にー楽しかったーなー」

「それで【白王鬼】っぽいのとは戦ったのか?」

「うーん、二回もばーらばらにされちゃったー。なーにをしたのーかわかーんないんだーけどー、突然動きが捕捉でーきなくなーちゃった。その理由がわーからなーいと勝つのきーびしーかもねー」

 アラシレマの言葉。
 思案げな顔になる形藁。

「アラシレマ、もう一つ仕事だ。刑務所に向かい大暴れついでに、我々との関係を知っている者達を皆殺しにして来い。危険な為、最重要区画に収監されている奴らを可能ならば仲間に引き入れるのも忘れずにな」

「わかったー。けど大暴れしていーのー?」

「構わない。むしろ大暴れしてくれた方が都合が良い」

「わかったーよ。それじゃ準備出来たらいってくーるね。火災には言ってあーるのー?」

「あぁ」

「わーかったーよー」

-----------------------------------------

1991年7月8日(月)PM:13:46 中央区精霊学園札幌校中等部一階

 男子用の制服を纏っている二体のマネキン。
 左の夏服は、半袖の白い上着に紺のズボン。
 紺色の詰襟の学ラン。
 夏服と同じに見える紺のズボンが冬服になる。

 担当のアップスタイルの黒髪の女性。
 彼女に夏服を渡された桐原 悠斗(キリハラ ユウト)。
 案内されるがままに移動し、着替えを始めた。

 着替え終わるとアップスタイルの黒髪の女性を呼ぶ。
 問題なさそうである事を伝える。
 更に冬服の学ランも念の為確認。
 カスタマイズについての説明を受け終わる。
 河村 正嗣(カワムラ マサツグ)と錨 乱瑚(イカリ ランゴ)の元へ戻った。

 案内してくれた女性から、紙袋を受け取る悠斗。
 少し離れたところで待機していた山中 惠理香(ヤマナカ エリカ)。
 彼女が歩いて来た。
 その手にも紙袋が握られている。
 しかし、悠斗からはその中身は見る事は出来なかった。

「うちのクラスは悠斗君で最後だから。私は先に二年一組に終わった事伝えて来るわね。いくつか説明と渡すものもあるから、三人は教室に戻って自習しててね」

 そう言ってウインクした惠理香。
 一人先に体育館を出て行く。
 彼女の行動に、若干思考停止した三人。
 少し遅れてから教室に戻る為、歩き出すのだった。

-----------------------------------------

1991年7月8日(月)PM:13:55 中央区精霊学園札幌校中等部三階

 生徒全員の机の横。
 かなりサイズの大きい紙袋が置かれている。
 ちょっとだけおかしな光景だ。

 そんな中、教壇に立っている惠理香。
 教壇の上にもいくつかの資料と、紙袋が鎮座している。
 資料の束の一つを、惠理香が配り始めた。

「説明は受けたと思うけど、制服のカスタマイズについての資料だそうよ。注意点とかいろいろ書いてるから。カスタマイズするつもりなら読んで置いてね」

 銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)は、資料を読み始めた。
 興味がなさそうに机に資料を置いたリーヤ・ブルゥ・エルフィディキア。
 それでも、女子生徒の大半は、やはりカスタマイズに興味があるようだ。
 資料をパラパラ捲ったり、じっくり見たりし始めるのが大半だった。

「はいはい。見るのは後にしてね。次はこれよ」

 紙袋を持ち上げた惠理香。
 乱瑚に渡したのはフェルトの台布に、校章と学年章。
 渡すものは全員同じはずなのに、何故か一人一人順番に渡していく。
 彼女は歩きながら、夏服、冬服それぞれの男女で異なる校章。
 それと学年章の装着の方法を説明していった。

-----------------------------------------

1991年7月8日(月)PM:14:02 中央区精霊学園札幌校白紙霊園一階

 十字の墓の前に佇むファーミア・メルトクスル。
 台座の部分には、名前が記されている。
 団長のアグワット・カンタルス=メルダーが最初。
 次はアリアット・カンタルス=メルダー。
 その他、死してしまった者達の名前だ。

 俯いている彼女の瞳。
 後悔や怒り、その他にも様々な感情が浮かんでいる。
 複雑に、感情が絡み合っていた。

「無念だよな。こんな結果になってしまったなんて」

 屈んだファーミアの目から零れる涙。

「私はいまだに怒りで心が爆発しそうだよ。生き残った他のメンバーもたぶん同じだろうと思う。表には出さないようにしているようだけどな。でもさ、私はいいとしても、あいつ等はまだ若い。学園で生活するようになって、この復讐に巻き込むべきなのか少しわからなくなっている気持ちも出始めているんだよな」

 彼女は右手の指で、アグワットの名前をなぞる。

「巻き込まないようにするのは、簡単だと思う。でも頭ごなしにそうしたら、あいつ等の心にはいつまでも燻り続ける気もするんだよね。どうしたらいいんだろうな?」

 アリアットの名前をなぞっている。
 少しだけ寂しそうに、ファーミアは口を歪めた。

-----------------------------------------

1991年7月8日(月)PM:20:14 中央区精霊学園札幌校第一学生寮男子棟一階一○一号

 上半身裸の三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。
 彼の包帯を交換する二人。
 交換している竹原 茉祐子(タケハラ マユコ)と銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)。
 何故か学園指定のティーシャツとブルマー姿だ。

 時折触れる柔らかい感触。
 微妙に顔を赤らめている義彦。
 若干視線の置き場に困っている。
 それでも、彼は大人しくしていた。

「おにぃ、終わったよー」

「義彦兄様、こちらも終わりました」

「二人ともありがとな」

 赤らんでいる義彦。
 ばれないように無表情を装っている。
 彼は順番に二人の頭に手を置いて優しく撫でた。

「おにぃ、何で赤くなってるの?」

「え? いや。そんな事はないぞ」

 義彦の気持ちを知ってか知らずか、ストレートに聞く茉祐子。

「赤くなるなんて可愛いです」

 吹雪の言葉に狼狽する義彦。
 予想に反して、それ以上追及される事はなかった。

「それにしても、中々塞がりませんね」

「本当だよね」

「たぶん、これがあの刀の特性なんじゃないかと俺は思っている」

「あの刀?」

「俺にこの傷をつけた奴が持ってた刀の事だ。おそらく霊装器だろうな」

「レイソウキ? なにぃ?」

「簡単に言うと、霊力を増幅したり出来る武器防具の事ですね。あそこにある義彦兄様の刀、炎纏五号でしたっけ? 火の霊装器ですよね? 確か」

「そうだ。炎纏五号丸(ホノオマトイゴゴウマル)な。霊装器、魔装器、妖装器ってあってな。それぞれ四級から一級までのランクがある。炎纏五号丸(ホノオマトイゴゴウマル)は二級霊装器。級が上がる程、強力なんだけど。使い勝手だったり相性だったりもあるからな」

「ふーん? そうなんだ」

 興味が沸いたようだ。
 茉祐子は炎纏五号丸(ホノオマトイゴゴウマル)をじっと見つめ始めた。