| 206.円筒-Cylindrical- |
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1991年7月8日(月)PM:20:26 中央区精霊学園札幌校第一学生寮男子棟一階一○一号 「例えば炎纏五号丸(ホノオマトイゴゴウマル)で言えば、吹雪は属性が水なので相性が最悪。茉祐子は霊力を行使出来ないから、ただの刀としてしか使えないってところかな」 「私が使おうとすると、反発してしまうそうです。級が上がる程、その反発力も凄く、命に関わる事にもなりかねないと聞きました」 銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)の言葉に、驚きの竹原 茉祐子(タケハラ マユコ)。 「ところで、二人は何故その格好なんだ?」 三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)の疑問系の言葉。 勝ち誇ったような顔になる吹雪。 しかし、彼にはその顔の意味がまったくわからない。 少しして、茉祐子も吹雪に便乗した。 ヘヘーンと言う感じで義彦を見る。 「この為なんですよ」 二人で玄関から紙袋を持ってくる。 義彦は、紙袋を注意深く見た。 自分の制服が入っているのと同じものだと気付く。 その間に、着替え始めた二人。 茉祐子は自分の制服の夏用。 吹雪は自分の制服の冬用だ。 ティーシャツとブルマーはそのまま。 そこで合点がいった義彦。 「上からそのまま着る為か」 「おにぃ、正解ですよー」 「兄様同盟として、まずは義彦兄様に見てもらおうかと思ったんです」 「いや、なんだよ? その同盟? そもそもいつの間に仲良しになってんだよ?」 「そんな事はいいじゃないですか?」 「見て見ておにぃ!」 制服姿になった二人。 義彦の前でくるくる回ってみた。 更にポーズを取ってみたりしている。 それでもポーズを取った時。 二人とも若干恥ずかしそうにしていた。 「地味かとも思ったけど、似合ってるな。セーラー服っていうのも悪くない」 「えへへ。可愛いでしょ!」 「義彦兄様にまた褒められました!」 嬉しそうに顔を見合わせて、吹雪と茉祐子ははにかんだ。 ----------------------------------------- 1991年7月8日(月)PM:20:37 中央区精霊学園札幌校第一学生寮男子棟四階四○一号 「ゆーと君、みてみてー!!」 スカートの裾を少し持ち上げた中里 愛菜(ナカサト マナ)。 その場でくるくると一回転する。 桐原 悠斗(キリハラ ユウト)はベッドに腰掛けていた。 嬉しそうな彼女に微笑んでいる。 同居人の雪乃下 嚇(ユキノシタ カク)。 姉の雪乃下 巫(ユキノシタ ミコ)に連れられて出かけた。 ここにはいないのだ。 意図したわけではない。 だが、偶然二人だけの空間なわけだ。 「紺の襟に白い上着、紺スカート。在り来たりな色で地味なのかなって思ったけど、スカーフ? リボン? 良くわからないけど、それがアクセントになっていいね。僕は可愛いと思うよ」 「ほんと? ほんと? 褒められた! 嬉しいな!」 ベッドに座っている悠斗。 満面の笑みで、その隣に腰を落ち着けた愛菜。 「男女とも夏冬それぞれの色合いは、基本的には同じなんだね」 「うん、そうみたい」 立ち上がった愛菜は、制服姿の悠斗を見つめる。 「ゆーと君もあの・あのね。うんとね。似合ってるよ」 再び悠斗の隣に座り、そう言った愛菜。 彼女は赤らんでる顔を隠すように少し俯いた。 「ありがと。でもセーラー服ってどんな構造なんだろ?」 何気に呟いた悠斗。 愛菜は少し俯いたままで答える。 「前開きだよ。スカーフで見えないけど、ファスナーがあるんだよ。ゆーと君、ぬが・・ぬがし・・」 「ぬがし?」 「な・・何でもないよぅ」 脱がしてみる? 冗談でそう言いたかった愛菜。 だが、恥ずかしくて結局言う事は出来ない。 一度あげた顔をまた俯かせる。 悠斗は、彼女の行動に、首を傾げるだけだった。 ----------------------------------------- 1991年7月8日(月)PM:21:34 中央区精霊学園札幌校第四学生寮女子棟四階四○二号 学園の制服姿の少女二人。 黒髪ロングヘアーの朝霧 紗那(アサギリ サナ)。 色白青眼金髪のエレアノーラ・ティッタリントンだ。 部屋の隅には、巨大な片刃の剣が立て掛けてある。 「セーラー服ですか? はじめて着ました」 「そうなんだ?」 少しだけ背の高いエレアノーラ。 紗那は優しく微笑んだ。 姿見に、様々な角度で自分を映らせる紗那。 高等部である紗那と、中等部であるエレアノーラ。 色も含めてまったく同じ制服。 「たぶん小等部も同じ制服なんだろうね」 「そうなのですか?」 紗那の言葉に首を傾げるエレアノーラ。 「たぶんね。だって高等部の私と、中等部のエレアノーラの制服が同じなんだもん。小等部だけ違うってのもへんじゃないかな?」 「言われてみればそうかもしれません」 そこで何故か溜息を零したエレアノーラ。 「どうしたの?」 「あ、いえ。アイラが制服に感銘を受けて、また不思議な服を自作するのではないかと思いまして」 憂鬱な表情になるエレアノーラ。 紗那には何故憂鬱になるのかがわからない。 「自作するだけならいいんじゃないの?」 「はい、自作するだけなら問題ないのです。でも自作すると誰かに着せたくなるそうでして。私とクラリッサが間違いなくその毒牙に掛かるのではないかと」 紗那には彼女が嫌がる理由がいまいちわからなかった。 「着るぐらいなら構わないんじゃないかな?」 「普通の服装ならばそうですね。でも、アイラの自作する服はどうにも恥ずかしい格好といいましょうか何といいましょうか。あれはたぶん、実際に体験しないとわからないかと思います」 「そうなの? うーん? 言葉だけだとわからないかも? もしアイラさんが、自作するようだったら私にも見せてね」 「それはかまいませんが、そうなれば間違いなく着る事になりますよ? その時になって後悔しても知りませんから」 至極真面目な顔のエレアノーラ。 少しだけ躊躇した紗那。 しかし、結局彼女は、自分の言葉を取り止める事はしなかった。 ----------------------------------------- 1991年7月8日(月)PM:23:22 白石区癒白花医院三階 「まさか試作段階のこれを使うことになるなんてな」 「やむを得まいさな」 二つの円筒状のカプセルを見つめる二人。 カプセルの中は、紫の液体で満たされている。 傷だらけの藤原 柚華(フジワラ ユズカ)と藤原 柚季(フジワラ ユズキ)。 二人が目を閉じて、全裸で浮かんでいた。 唇も爛れている。 少しだけ開いている口。 中から時折、空気が泡となって吐き出されている。 「咽頭もダメージが酷すぎて、普通に食事する事も呼吸する事もままならぬのじゃからな。それにじゃ、毒素を抜く為には必要な処置じゃったのじゃろう」 「そうだけどね。十年前親父を蝕んだ毒素の研究が、こんなところで役に立つとは思わなかったけど」 白髪白眼の白衣の男が視線を向けた先。 カプセルの手前にある操作用のパネル。 OやN等のアルファベットや数値が表示されている。 「剣がいなきゃ、二人が回復するまで魔力を維持出来ないだろうけどね。人間発電機ならぬ人間発魔機って感じだな」 「おいおい、狛。酷い言い様じゃないか」 そこに現れた無表情の白髪の男。 白絶季 剣(ハクゼツキ ツルギ)は白衣の男を少しだけ見下ろしている。 「時婆さんも笑いやがって」 「お前さんが【白王鬼】として恐れられているんだと思うと可笑しくてのぅ」 彼女の声を無視した剣。 カプセルの中の二人を見つめる。 「それで容態はどうなんだ?」 「今は一応安定しているけど、魔子の腐食化が酷くてね。二・三日が山場かな? それさえ越えれば、早くても数週間はかかると思うけど、ある程度は回復すると思うよ。後は山場を乗り越えられるかも、完治出来るかも二人の生命力と回復力次第かな?」 「そうか」 「悪いけど、それまで魔力の補充はよろしくね。俺や婆さん、郁達じゃ一日持つかも怪しいからね」 「あぁ、わかってる。こいつらを連れて来たのは俺だ。だから俺が出来る事は何でもするつもりだしな」 三人は無言のままだ。 しばらく傷だらけの少女二人を見つめていた。 |