| 207.意地-Backbone- |
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1991年7月8日(月)PM:20:22 中央区精霊学園札幌校白紙霊園一階 不様に吹き飛ばされて転がった。 整った顔立ちのグレーの髪の男。 再び立ち上がる。 両腕に螺旋状の灰色の妖力が渦巻き始めた。 先端が鋭利な刃物状になっている。 人の腕ぐらいならば容易に切断出来そうだ。 グレーの髪の男、冬鬼眼 白(トウキガン ハク)。 相対する相手との想像以上の実力差に、唇を噛むしかない。 それでも、戦闘を続けるのは半ば意地だ。 右手を前に、左手を少し後ろに引いて、いつでも動けるように構える。 相対している古川 美咲(フルカワ ミサキ)。 涼しい顔で彼を見ていた。 特に構えらしい構えはしてない。 だが、手刀状の両手は、薄い紫に覆われている。 微かに、ほんの微かにとても薄い色。 これはそれだけ魔力が集中しているという事だ。 彼女はここまでの十分程の間。 その場から一切動く事なく白の攻撃をいなしていた。 古川の背後の黄緑色の髪の毛の楓柳 瑠璃(カエデヤナギ ルリ)。 猫のようにしなやかに腰を落としている。 前のめりに左手を床につけていた。 彼女の五本の指には、短剣状に妖力が纏わり付いている。 最初の五分程は、彼女は傍観者だった。 しかし、余りにも軽くあしらわれる白。 ついに参戦を決意したのだ。 二人は本気で古川に攻撃を繰り出している。 しかし、いまだに一撃を入れる事も出来ない。 掠らせる事すらも叶ってない状況だ。 ふいに口を開いた古川。 「高等部二年の冬鬼眼だったな? 何処かで感じた妖気だと思ったが、いつぞやに戦った仮面の四人の一人か」 正体を看破された白。 だが、気にする素振りはない。 「だったらなんだ? とっ捕まえて拷問にでも掛けるか?」 「いや、そんな事はしないさ。何者であろうが、学園の生徒だ。それに今のところ、具体的にお前達を捕まえる罪状はない」 瑠璃は、二人のやり取りに口を挟まない。 「そもそも私は警察ではないしな」 「ほざけ! 次こそ一撃当ててやる」 同時に古川に攻撃を仕掛ける白と瑠璃。 しかし、攻撃は手刀で悉く弾かれていく。 何度も吹き飛ばされいく二人。 それでもめげずに古川に挑む。 二十分経過した。 道場には、汗だくで疲れ果てて、倒れ、肩で息をしている二人。 まるで何事もなかったかのように、涼しい顔をしている古川。 「お前達は異能とはなにか? 妖力とは何か? まったく理解してない。二人は素質はあると思うがな。その気があるなら妖力の使い方について、先生を紹介してやるがね」 肩で息をして、返事をする気力すらない二人。 忌々しく古川に視線を向けただけだ。 古川も攻撃はしたが、威力を調節していた。 なので二人は怪我らしい怪我はしていない。 しかし、それが逆に二人には非常に悔しかった。 座って二人を見ている古川。 しばらくして立ち上がった二人。 白と瑠璃の目だけは衰えない。 やる気だけは充分のようだ。 再び構え、妖力による武器を纏う。 「やれやれ。やる気だけは充分のようだな。最後ぐらいは本気で相手をしようか」 その言葉の後の古川の動き。 二人は捉える事は出来なかった。 腹部への軽い衝撃。 その後、数秒して仰向けに倒れている事に気付く。 事実を咀嚼した二人。 腹部に攻撃された。 その結果は理解出来る。 しかし、過程がわからない。 古川がどのような動作で攻撃にまで至ったか。 そこを理解出来ないでいる。 衝撃はあったものの、腹部に痛みが走る事はない。 その為、威力については手加減されていた。 何故吹き飛ばれたのかさえわからない。 余りに衝撃的の現実。 二人は立ち上がる気力さえも殺がれている。 もしもこれが実戦なら間違いなく死んでいた。 その事だけは考えるまでもない。 「ファビオ」 古川の声に、道場の壁に寄りかかっていた男が動いた。 薄い褐色の肌に、焦茶の髪のファビオ・ベナビデス・クルスだ。 普段はスーツを着ている彼。 だが、今日は紺のジャージ姿だった。 「やっと終わりましたか」 「あぁ、それでファビオ。それぞれの部屋は?」 「冬鬼眼さんは、第二男子棟の三○二。楓柳さんが第三の女子棟、四○五です」 「それじゃ、悪いが冬鬼眼をよろしくな」 「畏まりました」 ファビオの肩に担がれる白。 古川にお姫様抱っこされる瑠璃。 二人のショックが大きすぎるようだ。 抵抗する素振りすら見せなかった。 ----------------------------------------- 1991年7月8日(月)PM:22:42 中央区札幌駅前通 活気に満ちているかのように、すれ違う人々。 スーツ姿の男達の群れ。 合同コンパなのか男女が入り乱れているグループ。 二十歳過ぎの男女の組はカップルなのだろう。 通称ススキノと呼ばれる歓楽街。 今日も様々な人々で溢れている。 黒髪で鋭い目付きの男。 彼と腕を組んで歩く二十歳前半と思しき女。 二人もそんな中の一組だった。 女の方は少しほろ酔いのようで、顔に赤みが差している。 男の話しに相槌を打つ彼女は、いい笑顔だ。 そんな二人が突然その場から消えた。 周囲には他にも人がいるのにも関わらずだ。 怪訝な表情になる者もいる。 だが、ほとんどの人間は興味すら抱かなかった。 全ての都会の人々がそうだとは言わない。 しかし、他人に無関心なのは、田舎よりも都会の方が多いだろう。 それぞれでメリットとデメリットがある。 なので、一概にどちらがいいのかは判断し難い事だ。 それでも動く人もいれば、動かない人もいる。 男は大胆にもその場で跳躍。 ビルの屋上へ飛んだのだ。 普通の人間にはそんな跳躍力があるわけがない。 しかし、彼は普通の人間ではなかった。 屋上では、女は男にお姫様抱っこされている。 彼女はほろ酔いの影響もあるだろう。 瞬時に周囲の光景が突然変わった。 その事に対処出来ないでいる。 まさか男が跳躍したなどとは思わない。 だから、当然といえば当然の反応だろう。 彼女を降ろし、向かい合う二人。 視線を交差させている。 その後に、男は彼女の首に顔を近付けて行く。 女は何故か陶酔でもしているかのようだ。 うっとりとした眼差しになっていた。 男が彼女の首に、舌を這わせる。 ビクンと微かに彼女が震えた。 口を大きく開いた男には、二本の牙が見えた。 彼女の首に突き刺さり、血が滲み出る。 しかし、彼女は叫び声一つ上げる事もない。 男に体を預けたままだ。 上気していく彼女の顔。 まるで快感に身を委ねているかのようだ。 己の体を悶えさせる。 血を吸われている。 にも関わらず、抵抗する事のない女。 徐々に血の気が失せていく。 その間も男は容赦なく血を吸い続けている。 後に残ったのは躯。 ほんの数分前まで生命活動を続けていた。 抱き締めていた女の亡骸。 屋上に放置した男。 人通りのほとんどない路地側。 屋上ぎりぎりに立つ。 飛び降りた彼。 そのまま夜の闇に消えていった。 ----------------------------------------- 1991年7月8日(月)PM:23:11 中央区精霊学園札幌校第二学生寮女子棟三階三○四号 ベッドに寝転がっているココア色の髪の少女。 髪を解いて、迷彩柄のパジャマを着ている仁奈菜 仁奈(ニナナ ニナ)。 視線をもう一人の少女に向けた。 凌霄花 朱音(ノウゼンカズラ アカネ)。 彼女はティーシャツにパンティー姿のままだ。 椅子に座って、鏡を見ながら髪を梳かしている。 「仁奈さん、そんなに見られると何か恥ずかしいです」 「あ、ごめんなさい」 「そんな、謝らないで下さいよ。私なんかこうゆうの嬉しいんですよ」 そう言うと、微笑んだ朱音。 「私は、私達三姉妹は黄鬼族と紅鬼族の混血。余り覚えてませんけど、それでも扱いが酷かったのだけは覚えてます。混血というだけで、同族からの扱いが何故酷くなるのかは私にはわかりません」 「うん」 慰めの言葉すら浮かばない仁奈。 相槌を打つだけしか出来ない。 「でも仁奈さんや伊唖さんに莉良さん、玲菜さんや学園の皆は、混血だとわかっていても私達を差別なく扱ってくれます。それが凄く嬉しい」 「そうだね。私達も小さい頃は、物みたいな扱いだった記憶がある。あんまり覚えてないんだけどね。でも、姉様だけは違った。行き場を失った私達を保護してくれて一生懸命育ててくれた。朱音ちゃんや朱菜ちゃん、朱乃ちゃんと知り合えて良かった。友達であり、妹みたいな」 心底嬉しそうに微笑する仁奈。 その笑顔をみて、朱音も嬉しそうに微笑む。 「私も、お姉さんみたいな友達が出来て嬉しいです」 |