| 214.識別-Identification- |
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1991年7月12日(金)PM:14:41 中央区精霊学園札幌校中等部六階 「たぶん一年一組の皆さん始めましてかな? 情報処理について、ようは君達の目の前にある箱について専門で教えるファビオ・ベナビデス・クルスです」 そこで一礼したファビオ。 焦茶の髪に薄い褐色の肌。 琥珀色の優しい眼差し。 温和で温厚そうな雰囲気を醸し出している。 「妹が二人いてね。三年一組にビビアナが、小等部二年一組にセセリアがいるので、もし接点があれば仲良くしてくれな」 彼が髪を掻き上げた時に、左手の甲に傷跡が見えた。 「さて、授業をするわけなんだが、まずはそれぞれの席の目の前にある箱について説明しないとね。もしかしたら知ってる人もいるかもしれないけど」 教室内には、計三十個。 パーソナルコンピューターが並んでいる。 略称としてはパソコンもしくはPC。 そう呼ばれるのが一般的だ。 桐原 悠斗(キリハラ ユウト)達生徒。 一人一台、目の前にPCがあるという事になる。 ファビオはまずは基本構造を説明。 次にマウスやキーボードの使い方。 操作方法ついて説明し始める。 基本的な使い方の話しが終わった。 更に説明が続いている。 「ちなみにここのはちょっと特殊で、個々の利用者を識別するシステムを利用している。逆に言えば利用者が判別されなければ使用出来ないって事ね。魔術や魔法の技術と現代の機械や電子計算の技術を融合させているんだよ。専門的な話しになるから詳しく知りたければ、そっち系の道に進む必要があるけどね」 悠斗は、彼の話しを聞きながら細部を見る。 PCの左側に存在するコード。 妙な文様の刻まれているリストバンド。 二つの存在に気付いた。 「PCの左側に、コードで繋がれているリストバンドがあると思うんだけど、それが利用者の識別の為の装置ね。まずはリストバンドを左手首に装着してくれ」 ファビオの指示に従う。 リストバンドを装着する生徒達。 彼は全員がリストバンドを装着した事を確認。 その上で、電源を入れる指示をだした。 電源を押下した後は、自動的に立ち上がっていくPC。 「さて、厳密にはここにあるPCはワークステーションの部類になるんだけど、別に情報処理について専門的に教えていく授業ではないので、細かい用語の違いについてはそんなに気にしなくていいよ」 生徒達の間を歩き始めた。 そのまま説明を続けるファビオ。 興味深そうにマウスを握っている生徒。 逆に少しおっかなびっくりな表情の生徒もいる。 Element Eyes Information Systemと表示された。 白背景に黒文字のシンプルな画面。 「それじゃいろいろとカタカナで項目が書かれていると思うけど、その中のエレメントアイズトータルランキングというのをマウスボタンの左でクリックしてね。もし画面にそんな項目ないとかあったら教えてくれ」 ファビオの指示通りにカーソルを移動させる。 マウスの左ボタンでクリックした悠斗。 次の画面に表示が変わった。 ワールドランキング。 ジャパンランキング。 サッポロスクールランキング。 アザーカントリーランキング。 アザースクールランキング。 五つの項目が出てきた。 一度教壇の教師専用PCの前に戻ったファビオ。 椅子に深く座る。 「表示されているそのままなんだが、ワールドランキングは精霊庁EETRに登録されている全員のランキング。ジャパンランキングは日本のランキング。サッポロスクールランキングは、当学園のみの生徒のランキングだね。次のアザーカントリーランキングは画面を進めると、国名が出てくる。その国名を選択すると選択した国の登録者のランキングになるよ。アメリカならアメリカだけ、イギリスならイギリスだけという感じかな。最後のアザースクールランキングだけど、クリックすると世界各国の精霊学園の名前が表示される。後は学園の名前を選ぶとその学園だけのランキング表示というわけ。それじゃまずはジャパンランキングを左クリックしようか。もし違う画面を表示しているなら、左上のリターンという表示を左クリックすれば戻れるから」 余計な操作はしなかった。 話しを聞いていた悠斗。 ジャパンランキングをクリックする。 画面が変わり、一位から二十位までが表示された。 姓名を確認していく悠斗。 その中で彼が知っている名前。 十四位の古川 美咲(フルカワ ミサキ)だけ。 後は聞いた事のない名前だらけだった。 隣の通名を見ていく。 十三位の【冬の聖光母】。 引っ掛かりを覚えた。 しかし、悠斗は自身の引っ掛かり。 それが正しいのか判断出来なかった。 「ウィンター・ツリーか」 囁くような悠斗の声。 誰の耳にも届かなかった。 「たぶん十四位の古川理事長以外は、知らない名前ばかりだと思う。それじゃ左上のリターンをクリックして一つ前の画面に戻ったら、次はサッポロスクールランキングを選んでみようか」 自分の引っ掛かり。 ひとまず考えるのをやめた悠斗。 ファビオの指示通りに操作していく。 表示された精霊学園札幌校のランキング。 知っている名前ばかりだ。 一位の三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。 通名【黒風の野獣】を見てくすりと笑う悠斗。 「さて項目について説明しようか。順位はまぁそのまま。姓名は精霊庁に登録した時の姓名だね。通名は自分で申請する事も出来るけど、ほとんどは精霊庁の事件記録等で姓名意外で最も多く記載されている名称。名前を押して詳細画面を出すと、他の呼称も見る事が出来るよ。例えば古川理事長だと、一番有名な通名は【殺戮の言霊乙女】だけど、他にも【言撃の魔術師】や【言霊破壊兵器】、【言葉大砲】なんてのもあるね」 彼の言った古川の通名に苦笑する生徒達。 「魔力霊力妖力は、健康診断の時に計測した数値。戦闘力はその合計。それで次の活動力なんだけど、これは実際に事件に関わって解決に貢献したりすると、その内容によってポイントが付与される事になる。そのポイントの合計。総合力は戦闘力と活動力の総計。ちなみにここの魔力霊力妖力は健康診断時の数値だから、この数値だけで強者と判断するのはやめた方がいいよ。活動力にも0以外の数値が表示されてる生徒は、ある程度場数を踏んでるだろうけどね」 ファビオの話しが途切れた。 そこで挙手した黒髪黒目の柚百合 有菜(ユズユリ アリナ)。 ツインテールには黒い小さなリボンをしている。 「柚百合さん、質問かな?」 「はい。質問があります」 彼女はその場で立ち上がった。 「何かな?」 柔らかい笑顔で彼女を見つめるファビオ。 柚百合も真っ直ぐ彼を見ている。 「通名が日本語と英語の方が別々にいます。これは何か理由があるのでしょうか?」 「そうだねぇ。考えられる事としては二つ。一つは登録した時に自分で通名を決めた可能性。二つ目は学園入学前から他国で活動していたから。たぶん二位のアイラさん、十九位のエレアノーラさん、二十位のクラリッサさんの事を言ってると思うんだけど、活動力にポイントが入ってる事から、元々他国で活動していたんじゃないかな? 本人に聞かないと断言は出来ないけども。こんな回答でいいかな?」 「はい、ありがとうございます」 回答に満足したようで、着席した柚百合。 彼女とファビオの遣り取りを聞いていた悠斗。 気になる事が三つあった。 一つは十三位に名前を連ねている銅郷 杏(アカサト アン)。 一位の義彦、三位の銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)。 六位の瀬賀澤 万里江(セガサワ マリエ)は何となく強いだろう。 それは感じている。 しかし、彼女にはそれらしい素振りを見た事がなかった。 もう一つは十位の形藁 楓(ナリワラ カエデ)。 十四位の形藁 勲(ナリワラ イサム)。 十八位の形藁 樹(ナリワラ イツキ)の三人だ。 苗字が同じだけで全く関係無いのかもしれない。 それでもこの苗字には思うところがあった。 三つ目は他の二つ程気になるわけではない。 ただ吹雪や瀬賀澤、銅郷は妖力も持っている。 その事を知っただけだ。 「このランキングはリアルタイムまではいかないけど、ある程度定期的に最新の情報を受け取っているから、そのうち順位が変わる可能性もあるかもね」 立ち上がり、再び生徒達の間を歩き出したファビオ。 「ただの雑談だから覚える必要はないけど、PCの黎明期には世界最初の汎用電子式コンピュータと呼ばれる事が多いアメリカが開発したENIACやABC、イギリスのColossusとかドイツのZ3。他にもEDVACやEDSAC、Harvard MarkTとかね。それらの開発がなければ俺達が使えるようなPCというのは存在しなかったかもしれないよ」 時に様々な雑談を挟んでいくファビオ。 ランキング以外の項目も説明していくのだった。 |