217.憎悪-Animosity-
1991年7月12日(金)PM:20:04 留萌市寿町

 ティーシャツにジーパン姿。
 一人ぶらぶら歩くアラシレマ・シスポルエナゼム。
 児童センターの前を通り過ぎた。
 時間が時間なので、児童がいる気配は全くない。

 顔を左側に向ける。
 郵便局や何処かの寺らしきもの。
 彼の視界に入ってきた。

 さして興味も沸かない。
 彼はそのまま歩き続けた。
 そういえば、昼食べてから食事してないな。
 今更ながらに思い出すアラシレマ。

 腹部を摩り始めた。
 食事の出来そうな場所か獲物を探す。
 適当に角を何度か曲がった。
 学校らしきものを見つける。

 帰宅途中なのだろう、校門には女子生徒達。
 黒のスカートに、半袖白のブラウス。
 灰色のベストらしきものに胸元には赤のリボン。
 校舎の中には男子生徒が何人か見えた。
 ズボンは黒、白のシャツのようだ。

 その中で、一人で歩いている物憂げな表情。
 眼鏡の女子生徒に狙いを定める。
 近くを通りかかった彼女。
 匂いを鼻に刻みつけた。

 気付かれない様に注意。
 距離を置いて後を追い始めるアラシレマ。
 黒髪のポニーテール、小柄で線も細い。
 普段なら餌としては不適格なはず。
 なのに、彼は何故かその少女を選んだ。

 五分程も歩いた。
 彼女は自宅らしき一軒家の前で立ち止まる。
 何故かすぐに中には中に入らない。
 心無し彼女は震えていると感じる。
 それでも意を決した彼女。
 家の中に入っていった。

 音も無く屋根に飛んだアラシレマ。
 微かに何か重いものが壁に当たる音が聞こえた。
 さして気にする事もない。
 屋根の上を歩き、反対側に下りた。

 そこで見つけた半開きの窓。
 律儀に静かに開けて中にはいる。
 音のしたと思しき部屋に向かう。

 部屋に到着したアラシレマ。
 そこにいたのは三人。
 三十前後の美人という部類に入る着物姿の女性。
 四十前後と思われる角刈りの屈強な男性。
 それと頭から血を流して倒れている先程の少女。
 側にはレンズがはずれ、フレームがひしゃげている眼鏡。

 相手が反応し叫ぶ。
 その前に、着物姿の女性の腹部に一撃。
 彼女は壁に叩きつけられ呻いて崩れた。

 一瞬唖然としていた男性。
 唾を飛ばしながらアラシレマに殴りかかってくる。
 彼のパンチをあっさりと掴んだアラシレマ。
 そのまま拳をぐしゃりと握りつぶした。

 叫び声を上げる男性。
 顎に、強烈な一撃を見舞う。
 吹き飛ばされ、意識を刈り取られた男性。
 テーブルに叩きつけられた。

≪無音空間(ノイズレススペース)≫

「さーて、こーれでこーの家の中の音は外には一切聞こえなーいよ」

 アラシレマは、徐々に狼になっていく。
 四つの赤い眼に黒い体毛。
 少女は頭から血を流している。
 少し驚いただけで叫び声すら上げなかった。

「おー? あんがーい冷静なーんだねー?」

「あなたは一体?」

 少しだけ震える声で問う少女。
 彼女の言葉を無視して近づいていくアラシレマ。
 彼女は意外にも、逃げる素振りは見せなかった。
 まるで諦めたようにアラシレマを見ているだけだ。

 構わず近づくアラシレマ。
 彼女の灰色のベストを爪で引き裂く。
 リボン諸共ブラウスを破る。
 それでも彼女は抵抗する事はなかった。

 貧相な胸が露出している。
 色白の肌には薄く赤い線が二本入っていた。
 アラシレマの爪で皮膚が少し傷付いたのだ。

「騒がなーいんだね? ならこれでどうかな?」

 彼女の太腿を、彼は爪が刺さらない様に手で押さえる。
 その上で、器用に鋭い歯を使う。
 パンティーだけを引き裂いた。
 彼女は諦めの境地で抵抗する事もない。

「これから何をされるのかわかってるつもりです。でも相手が違うのと早いか遅いかの違いでしょう。だから私は抵抗はしません」

そう言うと袖から腕を引き抜く。
 自分から引き裂かれたブラウスとブラジャーを脱いだ。

「へー? おもしろーいね。君」

 面白そうに狼顔で笑うアラシレマ。
 服に隠れていた彼女の体は、痣だらけだった。

「親にひーごろからなぐらーれてたーってことーかな?」

「はい。最近は母がいる目の前で全裸にされて触られたりしてました。母も楽しそうに見学していましたし。いずれ私は犯されていたでしょう」

「だーかーらー、僕におーかさーれそーでも諦めてーるってこーと?」

「はい。誰にも話せなかったのに、なんで話してるんでしょうね。全く見知らぬ相手。それも今から私を犯そうとしている相手なのに」

 女は意識を失ったままだ。
 男も意識を取り戻したが、痛みで呻いてる。
 少女を見ながら、アラシレマはどうするか迷っていた。
 相手が抵抗して泣き叫ぶ。
 だからこそ、意味があると考えているからだ。

「ねぇ? 君なーまえーは?」

 今の状態、普通なら羞恥で恥ずかしいはずだ。
 だが、諦めの境地の彼女は無表情。

「名前? 雅です」

 彼女の太腿から手を離した。
 覆い被さる様に押さえるのを雅の手に変えたアラシレマ。
 雅の耳元に口を近づけて何度か舐める。
 その上で、静かな声で呟いた。

「あの二人が憎いか? 不様に泣き叫ぶ姿を見てみたいか?」

 先程のおちゃらけたものとは違う。
 ぞっとするような心の底に響く声。
 何を言われたか一瞬わからなかった雅。
 しかし、彼の言葉を咀嚼すると静かに明瞭に答えた。

「私は、自殺せずにいたのは、たぶんあの二人への憎悪があるから。いつかこの憎悪をぶつけたかったからかもしれません」

 徐々に感情が高ぶって来ているようだ。
 声に感情がこもりはじめる。

「もし今すぐ見れるなら見てみたいです」

「そーかー。じゃぁ、君をおかーすのはやーめた。こーのままじゃー、泣き叫んでくーれなさそーだしーね。あ、ちーなみーにさっきも言ったけーど、僕の魔術でーこの中での音は、たーとえーどーんな轟音でーも外にはきーこえなーいよ」

 雅を拘束から解き放ったアラシレマ。
 呻いてる男の左手に、突如噛み付いた。
 叫ぶ男の声を無視して噛み砕き、咀嚼していく。
 雅は無表情にその光景を見ていた。
 徐々に狂ったような微笑に変わっていく。

 男が直ぐに死ぬ事のないようにする。
 彼は時間を掛けてゆっくりと噛み砕いていった。
 時には出血を止める為に傷口を焼く。
 凍らせたりもした。
 無駄に熱心なアラシレマ。
 雅はその光景を、心の底から楽しそうに見つめていた。

「雅ちゃーん。きーみもなーかなかいーかれてるーんじゃないの? ふつーの人間なーら、涙ながしーて吐いてるとおーもうよー」

 それでも嬉しそうな雅。
 彼女のそんな顔を見ているアラシレマ。
 不思議と楽しくなってきている。

 意識を失っている女の腹部。
 足の爪をたてて押した。
 痛みに覚醒した女。
 アラシレマの姿を見ると叫び声を上げる。

 無視して着物を肌蹴させた。
 更に右手の小指を噛み千切る。
 傷口は火で焼いて差し上げた。

 強姦しながら彼女を咀嚼するアラシレマ。
 長く苦しむようにした。
 出血多量にならないようにもする。
 傷口を無理やり塞ぐ事も忘れない。

 悪鬼に魂を売り渡した。
 そんな凶悪な微笑を浮かべる雅。
 彼女に見られている。
 彼は躊躇する事なくその作業を続けた。

 こんな手の込んだ食事。
 アラシレマにとっても、は数えるぐらいしかない。
 腹を満たす為にする食事。
 手間をかけるのはナンセンスだからだ。

 それでも彼はまるで雅の仇を取るかのようだ。
 長く苦しませる事を念頭にその行為を行った。
 彼自信何故そんな事をしたのかはわかっていない。
 しかし、楽しかったから彼は深く考える事はなかった。

「やっぱーり人はおいしーな。でもやっぱーり十代の少女のほーが僕は好きなんだろーな」

「それでは次は私を犯しながら食べるんですね」

「んー? 雅ちゃんはたーべなーいしおかさーないよー。だってー泣き叫ばなそうなんだーもん。あーでもさすがに痛みで泣きさーけぶー? それよーりもそんなに楽しかったー? 嬉しかったー? 笑ってーるね」

「えっ?」

 アラシレマに言われて気付いた雅。
 自分の顔が笑っている。

「どーおー? 少しはにーくしーみはーらせーたー?」

「わかりません。わかりませんけど、たぶん楽しかったんだと思います。嬉しかったんだと思います」

「そっかー。あ、でも眼鏡してなかったーし、細かいとーころまでは見えてなーいのかーな?」

「いえ。伊達眼鏡です。視力は悪くありません」

 彼女の言葉に、唖然としたアラシレマ。

「あーはははーはははー!! やっぱ雅ちゃん面白いかーも」

 血に濡れているアラシレマ。
 自然と彼の側に近づいて見ていた雅。
 彼女も血に濡れている。

 スカート一枚で血に塗れた雅。
 アラシレマは何故かかわいいと思い始めていた。
 何故そんな気持ちになっているのかは彼自信わからない。
 それでもそう思っている。
 なら、受け入れようと考えるアラシレマだった。

「雅ちゃん、シャワー借ーりていーいかなー?」

「え? あ? はい。どうぞ」

「それじゃー、一緒にはいろーか。雅ちゃんも血塗れだーしね」

「え?」

 そこで自分の格好を思い出した雅。
 あれだけ無表情だった。
 にも関わらず、彼の言葉に一気に顔を赤らめる。

 しかし、そんな事もお構いなしだ。
 人の姿に戻ったアラシレマ。
 抵抗出来ない雅の手を引いていく。
 血の足跡を廊下につけながら歩き出した。