221.寝衣-Nightwear-
1991年6月23日(日)AM:0:12 中央区精霊学園札幌校第二学生寮男子棟四階四○四号

 ベッドで眠っている少年。
 スポーツ刈りに、浅黒い肌。
 静かな寝息を立てて、眠っている。

 隣のもう一つのベッド。
 少女が一人、寂しそうな瞳。
 眠っている少年を見ていた。
 まるで親に捨てられた仔猫のようだ。

 おもむろに立ち上がった少女。
 向日葵色のストレートの髪。
 立ち上がった勢いにつられて、サラサラと揺れる。

 彼女のパジャマは前開きのボタンで留めるタイプ。
 上着だけ羽織っていた。
 サイズが大きいようだ。
 太腿の半分ぐらいまで丈がある。

 黄色の花柄のパジャマ。
 前開きのボタンは一つも留めていない。
 白い肌の彼女は、パジャマの上着だけ。
 下着を一切纏っていなかった。

 ふとテーブルの上に視線を向ける彼女。
 そこには、小さいヘアピンが二つと眼鏡が一つ。
 ヘアピンには何か文字が描かれているようだ。
 だが、角度の関係で内容は読み取れなかった。

 少女は静かに少年に近づいていく。
 少年の眠っているベッド。
 の側で屈んで、彼の顔をじっと見つめ始めた。

 そんな事も知らずに、眠っている少年。
 彼、三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。
 顔を真っ直ぐ天井に向けて眠っている。
 時折微かに震える瞼。
 何か夢を見ているのかもしれない。

「ずっと独り占めしてたんだ。ずるいな」

 彼女は囁くように呟いた。
 静かにタオルケットを掴む。
 そっと潜り込んでいく少女。
 義彦の隣に寄り添うようだ。
 にぴったりとくっ付いた。

 彼女の体温を感じた義彦。
 少し震える。
 たが、目覚める事はなかった。

 しばらくして、義彦の隣の少女。
 微かな寝息を立て始めている。
 安堵したような表情で、義彦に寄り添う少女。

 義彦の手を彼女の太腿が挟む形になっている。
 時折、もぞもぞと動く義彦の手。
 知らず知らずに仄かな吐息を漏らすことになるのだった。

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1991年6月23日(日)AM:0:19 中央区桐原邸二階

 パジャマ姿の桐原 悠斗(キリハラ ユウト)。
 ベッドの上で考え事をしていた。
 静かにすやすやと寝息を立てている。
 眠ってしまっていたのだ。

 電気は消されている。
 微かな月明かりに照らされている室内。
 彼の隣で寝転がっている中里 愛菜(ナカサト マナ)。
 悠斗の寝顔を見つめていた。
 赤みがかった黒髪をおろしている。
 幽かに風呂上りの薫りを漂わせていた。

 ベッドの隣に敷かれている布団。
 濃い桃色の髪のミオ・ステシャン=ペワク。
 濃い水色の髪のマテア・パルニャン=オクオ。
 二人が眠っている。

 ミオは時折、小刻みに猫耳を震わせていた。
 マテアはパタンパタンとさせている。
 猫耳を開いたり閉じたりしていた。
 楽しい夢でも見ているのだろう。
 二人は眠りながら微笑んでいる。

 色違いのお揃いのネグリジェを着ている三人。
 愛菜は赤、ミオは青、マテアは橙。
 半袖スカートタイプの一体型。
 ところどころ苺の模様だ。

 悠斗の寝顔を見つめている愛菜。
 嬉しそうで、愛おしそうだ。
 寝返りを打った悠斗の手。
 彼女の体に被さる。

 悠斗の手が辿り着いたのは愛菜の胸。
 柔らかい感触。
 時折、優しく揉む様に動く悠斗の指。
 無意識の悠斗。
 残念ながら揉んでいる自覚はない。

 ミオとマテアが隣で眠っている。
 その為、一人悶えている愛菜。
 声も出せずに耐えていた。
 彼女の顔は恥ずかしさで、赧(アカ)らんでいる。

 時折、微かに零れる吐息。
 徐々に覚醒し始めた悠斗。
 彼が気付くまで、そのまま愛菜は耐えていた。

「あ ?ん? ま・・な? あれ? なん・・だろ? 柔らかい・・? 柔らかい?」

 指を動かして、再び感触を確かめた悠斗。
 すぐ横で羞恥の顔で、悠斗を見つめる愛菜。
 少し恨みがましい眼差しだ。
 しかし、直ぐに状況を飲み込めない悠斗。

「ゆ・ゆーと君、おはよ。あ・あのね。あ・あの・・・」

 羞恥一杯の顔で悠斗を見つめる愛菜。
 もう一度柔らかい感触を楽しんだ。
 そこで、やっと状況を把握した悠斗。

 薄手のパジャマの愛菜。
 ブラジャーを着けていない。
 ほぼダイレクトに悠斗に感触が伝わるのだ。
 悠斗は慌てて手を引っ込めた。
 彼の顔も程よく赤面している。

「ご・ごめん。愛菜、ほ・ほんとごめん」

「う・ううん。眠っていたんだしね。しょ・しょうがないと思うよ。な・何度も揉まれるとは思わなかったけど・・」

 後半は羞恥の為か、尻すぼみの声になった。

「え? ほんとう、うわ?ごめん、ほんとごめんなさい。怒ってる? そりゃ、怒ってるよね」

 赤面しながら、何度も謝る悠斗。

 それでもマテアとミオを起こさないように注意。
 二人は小声で囁くような会話だった。

「それで。あの・・どうだったかな?」

「え? ど・どうって? 感触!? こ・小振りだけど凄い柔らかかったよ」

「そ・それならよ・良かった」

「え? 良かった?」

「な・なんでもないよ。ゆーと君、ちゃ・ちゃんとベッドに入らないと風邪引くよ」

「あ、え? あ、はい。うん、そうだね。あ・ありがと」

 赤面している悠斗。
 もぞもぞとタオルケットを被る。
 潜り込んだ後、愛菜にもタオルケットを半分掛けた。

「ゆ・ゆーと君、ありがと」

 恥ずかしそうな声の愛菜。
 お互いに、ドキドキしていた。
 心臓が高鳴っているのを自覚している。

 直前の出来事の影響。
 二人は赤面したままだ。
 すぐに眠りに入る事が出来なかった。

 布団で眠っているはずの、ミオとマテア。
 二人の耳がぴーんと立っている。
 悠斗と愛菜は、その事実に気付く事はなかった。

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1991年6月23日(日)AM:0:32 中央区精霊学園札幌校第二学生寮男子棟四階四○四号

 腕に触れるほんのり柔らかい感触。
 耳元に聞こえる声。
 重い瞼を抉じ開けた義彦。
 隣で吐息を漏らしている少女の存在に気付いた。

 ほんのり柔らかい感触。
 彼女の小さな胸だという事を理解する。
 少しだけ顔を赤らめる義彦。
 しかし、無碍に振り解く事も出来ない。
 かといって再び夢の世界に旅立つ事も出来なかった。

 そのまま十分程経過。
 突然少女が、上半身を勢いよく起こした。
 肌蹴ているのを気に掛ける様子もない。
 彼女の突然の行動に、義彦は素で驚く。
 彼は赤と黒のストライプのパジャマを着ていた。

「Bad!! Come something?」

「何か? って意味でいいのか? で何かって何だ?」

「Sorry! 正面ForestからComeなの。Giganticナノ!!」

「何か? 確かに微かに霊力を感じる」

 扉を開けて入室してきた土御門 鬼那(ツチミカド キナ)。
 薄いピンクのパジャマ。
 梓弓型二級妖装器、緑嵐牙(リョクランガ)を握っている。
 頭にはヘッドセットを装着していた。

「義彦様」

「鬼那も気付いたか」

「はい」

「学園のSite到達Timeは、推定About eleven minutes!?」

 動揺している少女。
 日本語と英語が入り混じっていた。
 素の言葉になっている。
 一応普通の日本語はある程度習熟していた。
 義彦や鬼那もいろいろと教えてるところなのだ。

「巨大な何かが向かっていて、学園の敷地への到達時間は大体五分後ぐらいって事であってるか?」

 義彦の言葉に、何度も頷く少女。

「俺は正面入口に向かう。鬼那、時計塔地下の制御室に向かえ。何が来てるのかわからんが、最悪篭城も出来るだろう」

「畏まりました」

「着いたら解析させて、連絡くれ」

 義彦は、テーブルの側まで歩く。
 ヘッドセットと自分の眼鏡を手に取った。
 眼鏡を即座にかける。
 立て掛けてある炎纏五号丸(ホノオマトイゴゴウマル)を手に取った。

 ヘッドセットは左手。
 右手には炎纏五号丸(ホノオマトイゴゴウマル)。
 ベッドの上の少女の側に歩いた。
 屈んで目線を合わせた義彦。
 優しい声で語りかけるように囁く。

「怖いかもしれないが、皆で明日も一緒に朝ご飯食う為に力を貸してくれ」

 少女がゆっくりと頷いたのを確認した義彦。

「鬼那、後は頼んだ」

 パジャマのまま、義彦は廊下に駆け出しす。
 風の霊力で加速して階段を上に向かった。
 第二学生寮の屋上に出る。
 そこから第一学生寮の方へ、風の力で空を飛ぶ。

 風をうまく操作している義彦。
 第一学生寮の屋上に着地。
 彼の瞳は薄っすらと赤黒く輝いている。

 屋上を走り、更に飛翔した義彦。
 晴れた夜空、月明かりだけの暗闇。
 その中、ほんの微かに遠くで蠢く何かが視認出来た。