| 225.料理-Food- |
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1991年6月23日(日)AM:11:03 中央区精霊学園札幌校第二学生寮男子棟四階四○四号 眠っている三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。 重い瞼を中々開ける事出来ない。 それでも抵抗して何とか抉じ開けた。 寝る前よりは幾分ましな体。 上半身を起こして右手の感覚を確かめる。 空腹を訴えるお腹に苦笑した。 ゆっくりと立ち上がった義彦。 コーヒーでも飲もうと考える。 テーブルの近くを通りかかった。 そこにはメモが一枚。 昨夜はお疲れ様でした。 お疲れだと思いましたので、朝ご飯は私達で準備いたしました。 見た目があまりよろしくなく、おいしいかどうかはわかりません。 冷蔵庫に入れてあります。 パンはトースターで焼いて下さい。 お目覚めになられましたらお召し上がり下さい。 「鬼那の字か。でも、最後の部分は違うな」 その一番最後。 調理者それぞれの感謝の言葉。 一言ずつ書かれていた。 「あいつ等も料理出来るのか」 冷蔵庫を開けようとした義彦。 方向を変えて、電話の受話器を取る。 コール後直ぐに相手が出た。 「おはよう。鬼那。朝食ありがとう」 微笑んでいる義彦。 受話器越しの相手に話しかけた。 「うん。わかった。食べた後、所長に報告してからそっちに行くわ。後で」 静かに受話器を置くと、体の方向を変える。 メモを手に取り、それぞれの一言に微笑した。 冷蔵庫を開けた義彦は、いくつかの皿を見つける。 料理が盛り付けられている皿。 一つ一つ順番に取り出していった。 三つとも黄身が潰れたベーコンエッグ。 塩が振りかけられているように見える野菜サラダ。 チーズやウインナーが所狭しと並んでいる食パン。 ストロベリージャムと蜂蜜、ラムレーズン。 それらが投入されているヨーグルト。 ベーコンにウインナー、コーンが混ざっているスクランブルエッグ。 全五皿に思わず微笑んだ義彦。 順番にレンジで温め、食パンをトースターで焼く。 義彦が教えたわけではない。 見よう見まねで調理したのかもしれない。 それとももともと知っていたのか。 実際のところは義彦にはわからなかった。 そんな事を思いながら、彼はコーヒーも入れる。 コーヒーを一口飲んだ義彦。 ありがたく計五皿の朝食を食べ始めた。 「さすがにまだ少しねみい」 独り言を呟きながら、空腹のお腹を満たしていく。 そして、全てを平らげた義彦。 眠気を振り払いながら電話を掛けた。 古川 美咲(フルカワ ミサキ)に昨日の出来事を伝える為だ。 報告を終えた後、義彦は傷口の状態を確かめる。 とりあえず問題なさそうなのを確認。 ジーパンと半袖の薄手のシャツに着替える。 準備完了後、昨日の被害状況。 その確認しているはずの土御門 鬼那(ツチミカド キナ)。 彼女に合流する為に、制御室に向かった。 ----------------------------------------- 1991年6月23日(土)PM:12:29 中央区精霊学園札幌校時計塔地下三階 「それで、状況はどんなもんだ?」 左手に炎纏五号丸(ホノオマトイゴゴウマル)を持っている義彦。 鬼那は、右手で持っていない事に少し違和感を覚えた。 「バリア展開は当分不可能。残量魔力では施設の現在稼動中の機能を維持するのは不可能。未使用施設は電力カット。警戒システムの精度32%減」 「中々に酷い有様だな。しかし、バリアを使ってなければ高等部はぺしゃんこだったかもしれないし。微妙か」 「はい。そうかもしれません」 「施設外の破損した道路については、所長が修理業者を手配してくれるそうだ。ただ、山本が置いてった置き土産の樹木だけは排除しないとならない。わるいが鬼那に頼めるか?」 「畏まりました。ところで義彦様。右手の怪我は深いのですか?」 そこで長袖を着てくるべきだった。 今更ながらの事を思う義彦。 己の迂闊さに、若干後悔した。 「なんで? そう思う?」 「普段なら右手で持つ刀を、左手で持ってます」 意識していたわけではない。 だが、言われてみればそうだと気付いた。 「あぁ、まぁ、念の為かな?」 「そう・・ですか。わかりました。樹木ですか? その排除に行って参ります」 「あぁ、頼んだ。風の矢で掘り起こすのが難しそうなら、ぶった切って構わないそうだ」 「畏まりました」 ----------------------------------------- 1991年7月13日(土)AM:6:19 中央区精霊学園札幌校時計塔五階 カタカタと音を立てて紙を吐き出すFAX。 音にうんざりしている古川。 苛立ちに悩まされながら、ベッドで寝返りを打った。 一時間程前に、最初にFAXが唸り出した。 そこから数えてこれで四度目だ。 眠りに陥りそうになる頃。 狙ったかのように、彼女は四度この音で起こされていた。 「あぁ、もう。これじゃ眠る事も出来やしない」 煩いFAXに、眠る事を諦めた古川。 ベッドから彼女は立ち上がった。 ティーシャツにパンティー姿。 右脇腹に左太腿、それ以外にも大小の傷跡が体に残っている。 うんざりした顔の古川。 FAXから吐き出された紙の一枚目から目を通し始めた。 FAXの第一報は、異能者専用刑務所の所在地の記載。 何度問い合わせしても、回答の貰えなかった場所だ。 異能者専用刑務所が存在する沖見海洋特殊研究所。 そこが何者かに襲撃された旨が記載されている。 更に収監されていた囚人が、逃亡している事が書かれていた。 続く第二報に追記されていたのは、襲撃者についてだ。 一級危険種の【四赤眼の黒狼】の可能性。 更には制服姿の少女を人質にしているかもしれない事。 現在、自衛隊による封鎖が行われいている旨の記載だった。 読み進めるうちに、真剣な顔になり眠気が吹っ飛んだ古川。 「第三報か。十三日六時より脱獄囚捕縛開始。やっかいな事になるかもな」 第三報には脱獄囚の捕縛。 その協力者の姓名と通名が記載されてあった。 いくつか彼女が見た事のある名前もある。 真田 由加里(サナダ ユカリ)。 通称【ブラッドカーリー】もその中の一つだった。 「留萌駐屯地や防衛庁、法務省は大混乱なんだろうな」 そんな事を呟きながら、第四報に目を通し始めた古川。 驚きの表情が苦々しい表情へと変化していく。 そして、記載されてある一文に絶句した。 坂巻 瞑(サカマキ メイ)、女、紫髪灰眼、十一歳。 藁区切 閏(ワラクギリ ウルウ)、女、灰髪左目黒眼右目赤眼、七歳。 千年蛾 玖裳馳(センネンガ クモチ)、男、赤紫髪黒眼、二十九歳。 サトゥルス・オルバン・赤慈(シャクジ)、男、赤髪赤眼、三十六歳。 戦慄鬼 豪(ワナナキ ゴウ)、男、黒髪白眼、四十六歳。 龍牙堂 宗鳴(リュウガドウ ムネナリ)、男、白髪黒眼、九十一歳。 瑠死腐 悪流(ルシフ オル)、男、青髪青眼、六十二歳。 倭呂納 莉夢(ワロナ リム)、女、赤紫髪青紫眼、十歳。 和口 八兵衛(ワグチ ハチベエ)、男、黒髪青眼、三十五歳。 以上の九名を一級危険種扱いとし、最優先殲滅対象とする。 アズキャルート・ヘブネン・タローマティ、女、橙髪赤眼、容姿年齢八歳。 以上の一名を一級保護種扱いとし、最優先保護対象とする。 最優先保護対象。 八歳の女児が指定されるのはわかる。 古川が絶句したのは、七歳と十歳に十一歳の女児三人の扱い。 最優先殲滅対象とされたからだ。 更に制服姿の少女について、続報が一切記載されていない。 その事も、彼女は疑問に思った。 更に紙を捲った古川。 最優先殲滅対象の一人目。 坂巻に関する詳細な情報が記載されている。 種族、性別や身長体重、生年月日等。 基本的な情報はもちろん、容姿や通名、来歴。 但し、戦闘能力に関する情報はなかった。 一人一人情報を確認していく古川。 全てを確認した後、古川は深く溜息を吐いた。 「【四赤眼の黒狼】、北郷に表れたと思ったら今度は留萌市か。神出鬼没過ぎるな。ただ混乱を作り出して楽しんでいるだけか? しかし、鳥澤の名前が無いな。護送される場所は別なのか? 調べる必要がありそうだな。鳥澤に着いて行った柚華と柚季は何処でどうしてるんだろうか? 彩耶に聞いてみるかな」 |