| 226.紹介-Introduction- |
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1991年7月13日(土)AM:8:54 増毛郡増毛町阿分国道二三一号 国道二三一号、愛称も存在する。 日本海オロロンライン又はオロロンライン。 二車線の道路を南西に走る一台のトラック。 右側には日本海。 対向車線にはしばらく車は見えていない。 「予定よりかなり遅れているな」 運転席に座っているのは、藤風 夜(フジカゼ ヨル)。 黒髪黒眼のソフトモヒカン。 防衛庁特殊技術隊第四師団第十二小隊の一人だ。 「しょうがないさ。道に迷ったんだから。アラシレマも笑って許してくれたじゃないか」 助手席に座る小柄な男。 金髪金眼にベリーショートだ。 慰めるようにそう零した。 彼は藤金 天(フジカネ テン)。 第十二小隊の隊長だ。 第四師団最高戦力と言われている。 「でもさ。第四師団最高戦力と言われる天を率いる俺達が、ただのお使いって何かさ」 「暴れられる予定があるんだ。それまでは猫被って大人しくしてようじゃないか」 荷台の幌の中のベンチ。 アラシレマ・シスポルエナゼム他十一名。 それに巨漢が二人座っている。 巨漢二人は元から迷彩服だった。 だが、アラシレマ達も迷彩服に着替えている。 彼と綿烏 雅(ワタガラス ミヤビ)はスーツに制服。 アズキャルート・ヘブネン・タローマティはボンテージドレス。 他も囚人用の服か、目立つ格好だったからだ。 巨漢の二人のうち、青髪緑眼。 髪をコーンロウにしているのが藤水 叉(フジミズ マタ)。 藤形 刹(フジカタ セツ)は赤髪桃眼でブレイズだ。 二メートル程の身長の二人。 少し狭そうに座っている。 一番外側、左側に座る藤水と右側に座る藤形。 無言を通している。 ここまで一度もしゃべってはいない。 「あ、そー言えば紹介もしてなーいし、名前も確認してないやーね」 突然そう言ったアラシレマ。 手元の鞄から書類を出す。 「えっとねー。そっちの巨漢が藤水、もう一人の巨漢が藤形で、運転席に座ってたのが藤風、助手席が藤金で隊長。彼ら四人は防衛庁特殊技術隊第四師団第十二小隊のみなさーまねー」 今度は自分の隣に座っている少女に視線を向けた。 「彼女は雅ちゃん。あれ、苗字なんだっけ?」 突然振られきょとんとする雅。 「わ・綿烏です」 彼女は少し間を置いて答えた。 「ワータガラスだってー」 そう答えた後、彼は手元の資料に目を向けた。 「本来はあそこー出る前に確認すーるべきだったーんだろーけどねー。名前よーぶから、返事よろしーくねー。まーずは【石化殺しの冥姫】、坂巻 瞑(サカマキ メイ)ちゃん」 「わ・私です」 恐る恐る手を上げた少女。 ストレートの紫髪の彼女の両目。 黒地に紫文字のバンドの様な物で封じられていた。 「何で目みーえなくしーてるんだーろかと聞きたーいけど、後でーね。次は【狂い歪みの二十九】、ワラクキリ? 雅ちゃんこれ何て読むの?」 隣の雅に資料を見せるアラシレマ。 「閏、ジュンかニン、もしくはウルウだと思います」 「藁区切 閏(ワラクギリ ウルウ)」 少女の声の彼女。 紫の球体に生手足が生えてる姿。 目と口らしきものは存在している。 だが、普通はこれが人だとは思わない。 渡された迷彩服を、座布団代わりに座っている。 「なーんで球体なーのかね?」 「人見知り」 球体からは簡潔な一言が返ってきた。 「そうなーんだー。とーりあえずそーゆー事でー。【辻斬鬼】、千年蛾何とかさん」 「千年蛾 玖裳馳(センネンガ クモチ)だ。まぁ、普通読めないわな」 にやりと笑う赤紫髪黒眼の偉丈夫。 「依頼くれれば誰だろうとぶった切るぜ」 「そーだねー」 彼等の獲物は沖見海洋特殊研究所地下六階。 何故か厳重に保管されていた。 なので、アラシレマ達はありがたく頂戴してきている。 それらの獲物も、箱に入れた。 カモフラージュした上で積んである。 「つーぎねー。【血飢えの切り裂き魔】、サトゥルス・オルバン・赤慈(シャクジ)でいいのかなー?」 「俺だ。そこの怯えてる子猫ちゃん切り裂いちゃ駄目か?」 赤髪赤眼の優男は、拘束されている三人を見ている。 「こーこではやーめてねー。到着したーらちゃーんと獲物はあーるからねー」 拘束されて転がっている三人の女性を見たアラシレマ。 彼女達は怯えた眼差しで震えていた。 「ちっ。しゃーねぇ。我慢するさ」 「そんじゃ【戦慄きの鬼殺し】、センリツキ ゴウ?」 「戦慄鬼 豪(ワナナキ ゴウ)だ」 答えたのは黒髪白眼の偉丈夫。 「覚えとけ。ワナナキだからな」 じろりとアラシレマを睨む。 「ごーめんー。わーかったよー」 しかし、何処吹く風の彼は軽い口調だった。 「【牙持ち老害】の龍牙堂 宗鳴(リュウガドウ ムネナリ)ってだーれー?」 「儂じゃな」 白髪黒眼で値踏みするように、アラシレマを見る。 時折揺れる荷台の中、視線を受けてもアラシレマは微笑んでいた。 「【四赤眼の黒狼】は狼の魔物かと思っておったが、狼化族(ロウカゾク)だったとはのぅ」 「まー、あまーりこの姿でーあばれなーいからねー」 「そうじゃったか」 「それじゃー【人喰い鎧】、瑠死腐 悪流(ルシフ オル)? 何かすごーい名前」 黒の全身甲冑が手を上げた。 手を上げただけだ。 言葉を発する事はない。 「あれ? むくれちゃったーのかーな? まぁ、いいっかー。【紫水晶の魔羽】、倭呂納 莉夢(ワロナ リム)ちゃん」 「そいつならいないぜ」 答えたのは、和口 七兵衛(ワグチ シチベエ)にそっくりの男。 違いと言えば左目に傷がないぐらいだ。 「和口 七兵衛(ワグチ シチベエ)にそっくーりだとは思ってたーけどー。誰? ほーんにんはぼーくが殺してさしあーげたはずだーし」 「俺は和口 八兵衛(ワグチ ハチベエ)だ。七兵衛の双子の弟だな」 「あれ? 収監されてーるのってー、八人じゃなーいのー?」 「いや俺を入れて九人だ。俺は元々警備する側だったんだけどな。反抗する囚人を殺しすぎてな。たぶんだが、身内の恥って事で報告出来なかったんじゃないか?」 「そーなんだー」 「しかし、あの兄貴がね。笑えてくるぜ」 「なんかーよーくわかんなーいけど」 「まぁ、兄と弟ってのはいろいろあるんだよ。俺はあの男が嫌いだった。だから死体を見た時、心の底から嬉しかったんだぜ」 残忍な微笑を浮かべる八兵衛。 「そ−れで、莉夢ちゃんがいないーってのは?」 「あぁ、一部又聞きだけどよ。そいつが収監されたのが去年の六月前半。看守部長の一人が惚れたのか? 偉く御執心だったんだが、所長も黙認していた。そんで七月前半に忽然と消えたんだよな。監視カメラも確認したらしいが、七階から逃亡した痕跡は見つけられなかったらしい。看守部長が他の看守達に根回しして、強姦しようとしたらしいが、そこの黒鎧に邪魔されたそうだ。そして翌日に行方不明って感じさ」 「八兵衛、看守部長惨殺。感嘆」 「確かにあいつはむかつく看守だったからな」 閏の言葉を切っ掛けに弾む会話。 他の面子も看守部長への負の感情を暴露し出した。 「よっぽーど、糞だったーんだーねー。僕が言うのもなーんだけどさー」 「まぁ、あくまでも一部は又聞きなんだぜ」 「八兵衛、話確認。激憤」 人見知りと言う割には会話に参加する閏。 「実の兄を惨殺。元看守様はよほど腹に据え兼ねたんだろうさ」 「豪よ。煽てても何もでないぞ」 「敬愛」 「閏よ。愛して欲しいなら、もう少し欲情する体になりやがれ」 「不服侮蔑不許可」 「不許可って何だよ?」 「球体にどーすれーば欲情すーるんだーろ? でーもなんだーか、なかよーしだーねー」 「八兵衛は、いい看守だったからな。収監されたのも、兄貴を殺したのが止めみたいなもんだったし。反抗する囚人を何人も殺したのは事実だが。俺達から見れば正当性はあったんだよな」 赤紫髪の千年蛾の言葉。 黒の全身甲冑の瑠死腐もぎこちなく頷く。 「いろいろ制限はあったが、お互い自由に話す時間は結構あったしな。たぶん監視はされてたんだろうけど」 豪は、過ぎ去った日を思い出すかのようだ。 静かに目を少し瞑った。 「妾も、あんな球の中に閉じ込められるぐらいなら、御主達と交流を深めてみたかった」 悲しい瞳で、そう零したアズキャルート。 隣の雅は優しく抱きしめた。 会話を続けてる間も、トラックは先を急ぐ。 札幌目指して、オロロンラインを進んでいくのだった。 |