228.相反-Antagonistic-
1991年7月13日(土)PM:16:22 南区特殊技術隊第四師団庁舎三階

 椅子に座っている形藁 伝二(ナリワラ デンジ)。
 一枚の紙に目を通していた。
 読み進めるうちに表情が変化。
 面白くなさそうな顔に変わって行く。
 最後には睨むような眼差しになっていた。

「恨みがましい相手を見るような眼差しでどうした?」

 聞こえて来たノックの音。
 扉を開けて入室したのは後藤 正嗣(ゴトウ マサツグ)。
 形藁も後藤も、第一種礼装に身を包んでいる。

「少々やっかいな報告が入りましてね。そちらにも届いてるはずですが?」

「私は少し前に部屋を出たのでな。FAXならば、おそらく部屋を出た後にきたのだろう。それでどんな内容なのだ?」

 椅子から立ち上がった形藁。
 手に持っている資料を見ながら答えた。

「第一師団からの報告で、一級危険種の【陵辱の五角鬼】が討伐されたのは知ってると思います」

 手元の資料から、後藤に視線を向けた形藁。

「もちろんだ。その報告は私も確認した。確か【黒王鬼】と呼ばれる人物が、【陵辱の五角鬼】の討伐により、ランキングが二十二位から九位になったそうだな」

「そうです。その【黒王鬼】ですが、討伐後第一師団からの依頼を断り、ここ札幌に向かったそうです」

「という事は、我々の計画の邪魔をする可能性もあるかもしれないか」

「その通り。直接面識があるわけではないので、どのような人物なのか知りませんが?」

 少し困ったような表情の形藁。
 後藤は入室した時のままの表情を崩さない。

「私も面識はないな。私怨で【陵辱の五角鬼】を追っていたという噂は聞いた事はあるが、噂は所詮噂だ。事実なのかどうかは本人に聞かねばわからぬ。ううむ。こっちに来るというならば、【四赤眼の黒狼】を狙っている可能性もあるな。先日白石に出没したようだが? その後留萌に現れた可能性があるそうだからな」

「はい。そうですね。そうかもしれません」

「第一師団と関わりがあったなら、我々と会う事も拒否はしないと思うが? 一度顔合わせをして見るのも一つの手かもしれんぞ」

「そうですね。そうかもしれません」

 後藤と会話している形藁。
 自身の指示が裏目裏目に出てる。
 その事に、悔しそうに歯噛みした。

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1991年7月13日(土)PM:18:11 中央区精霊学園札幌校北中通

 両手に野菜や卵、肉類。
 様々な食料品が入ってるビニール袋。
 二人の少女が持っている。

 竹原 茉祐子(タケハラ マユコ)とリアドライ・ヴォン・レーヴェンガルト。
 重そうな表情で歩いている。
 第一学生寮の前に到着した二人。
 一度両手のビニール袋を置いて一休みした。

「茉祐子ちゃん、これ買い過ぎだと思うのですが?」

「大丈夫だと思うよ。私達も一緒に食べるんだし」

「いえ、どう見ても一食分じゃないと思うのですが?」

「うん、どうせしばらくは大人しくしてるんだろうし。今日明日と作りにくるつもりだよ」

「え? あ、う? はい、そうですか。はい」

 予想外の答えに、唖然とした表情。
 しどろもどろのドライ。

「ドライちゃんは嫌だった?」

「そんな事はありません。私もお世話になりましたし」

「そっか。良かった!」

 満面の微笑みの茉祐子に釣られた。
 ドライも無意識に微笑んだ。

「茉祐子!? とツヴァイ!?」

 突然の声に、顔の向きを変えた茉祐子。
 第一学生寮の正面玄関。
 陸霊刀 黒恋(リクレイトウ コクレン)が立っている。
 少し驚いた顔だ。

「黒恋ちゃんだ。何処かおでかけ?」

「ご飯に行こうかと」

「茉祐子ちゃん、お友達です?」

「うん、同じクラスの黒恋ちゃん、彼女は寮の同室のドライちゃん」

「黒恋さん、リアドライ・ヴォン・レーヴェンガルトです。ツヴァイとはたぶん姉の事だと思います。よろしくです」

「陸霊刀 黒恋(リクレイトウ コクレン)。そう、なんだ? 姉なんだ」

「はい。何かかっこよさげな苗字ですね」

 嬉しそうに微笑むドライ。

「――ありがと」

 何と答えようか迷った挙句、黒恋は一言そう答えた。

「黒恋ちゃん、おにぃのところに食事作りに行くけど、一緒に来ないかな?」

 茉祐子の誘いに彼女は少し迷った。
 自分が邪魔していいものだろうかと考えたのだ。

「お邪魔していいの?」

「もちろんだよ。ご飯食べるなら人数多い方がおいしいもん」

「そうだね。黒恋さんも行こうよ」

 そこで二人の側のビニール袋に気付いた黒恋。

「それ持つ」

 二人が何か答える前に、茉祐子の袋を一つ、ドライの袋を一つ。
 合わせて二つを手に持った黒恋。
 茉祐子やドライとは違い、軽々と持ち上げた。

「黒恋さん、すごーいのです」

「体育の授業とかで思ってたけど、黒恋ちゃんって運動神経とかも凄いんだよね」

「――そんな事ない」

 賛美の眼差しで黒恋を見るドライ。
 褒め称える茉祐子に、彼女は少しだけ照れた。

「それじゃ行こうか」

 茉祐子を先頭に、寮の男子棟へ向かう三人。
 一階一○一号室の前で、茉祐子が止まった。

「おにぃってまさか?」

 自分が話しをしたくて、でも話しをしたくもない。
 相反する感情を抱かせている人物。
 彼の寮と同室の前に茉祐子が止まった。
 その事に、表面は取り繕っている。
 しかし、非常に動揺している黒恋。

「うん? あ、そうか。誰か教えてなかったよね。おにぃは中等部二年一組、【黒風の野獣】こと三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)だよ」

 茉祐子の言葉を聞いた黒恋。
 その動揺を更に膨れ上がらせた。

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1991年7月13日(土)PM:18:13 中央区精霊学園札幌校第五研究所一階

「私も良かったのかな?」

「うん? いいんじゃないかな? 大丈夫って言ってたし」

「そうなんだ?」

 制服姿で歩きながら会話を交わしている。
 桐原 悠斗(キリハラ ユウト)と中里 愛菜(ナカサト マナ)。
 正面玄関を抜けたところで、前方を歩く四人に気付いた。

 四人はそのまま階段の方へ曲がっていった。
 悠斗と愛菜が、階段の前に辿り着く。
 そこで、階段の上の方に四人が見えた。

 白い肌でアクアブルーの髪のルラ。
 クナはピーコックブルーの髪で白い肌。
 黒い肌でバイオレットの髪の毛のラミラ。
 ラベンダーの髪のレミラは黒い肌。

 制服姿の彼女達四人。
 今日は髪の毛をサイドテールにしている。
 足音で気付いたようで、振り返った。

「あ、桐原さん」

「中里さんもいられます」

「ハローナノデス」

「コンバンワ」

 階段で器用に一回転した四人。
 それぞれの言葉で答えた。

「こんばんわ。今日も元気そうだね」

「ハイ」

「ガクエンタノシイノレス」

「そうですね」

「いろいろな知識も増えますし」

「クナとルラも日本語上達してるようだね」

「ハイ、キリハラサン、オボエルノハタノシイ。ダヨネ? ルラ」

「ウン、タノシイヨ」

 一階の開け放たれている窓。
 涼しい風が入って来ている。
 その場にいる六人を優しく撫でていた。

 撫でていた優しい風。
 まるでいたずら心でも起こしたかのようだ。
 突然、一際強く吹いた。

 スカートを押さえる愛菜。
 気にした様子もないルラ、クナ、ラミラ、ルラの四人。
 悠斗は彼女達の方を見ている。
 視界に入った光景に凍結していた。

 四人共スカートの中は何も穿いて無いないのだ。
 ルラ達を、下から上に見上げる形の悠斗。
 彼とて年頃の少年なわけで、少しは知識を得ている。
 それがまさか突然こんな形。
 目撃する事なるとは思わなかった。

 突如悠斗の視界を何かが覆う。
 状況に思考が追いつかない悠斗。
 何とも微妙な顔で赤面したままだ。

「ゆーと君、見たの? 見ちゃった?」

 愛菜に突然そう詰問された悠斗。

「え? あ、ん? っと、なんていうか。あ、あのね? み・見るなという方がね? あ、ね」

 しどろもどろの悠斗。
 自分でも何を言っているのかわからない。

「あー、いたですよー」

 突然響く能天気な声。
 悠斗は、愛菜に目を塞がれている。
 その為、聞き覚えのある声だとはわかった。
 誰の声なのか判断出来ない。
 現れたのはエルメントラウト・ブルーメンタール。

「桐原と中里もいるですね。なかなか来ないから迎えに来たのですよ」

「エルメさん、こんばんわ」

「エルメさんです」

「ヤホー」

「コンバンワ」

 突如塞がれた視界が回復した悠斗。
 愛菜が階段を駆け上がる。
 エルメに耳打ちし始めた。
 話しを聞いて、がっくりと肩を落とす。
 エルメは頭を抱えた。
 しかし、当の四人は首を傾げている。

「ねぇ、クナちゃ、ルラちゃん、ラミラちゃん、レミラちゃん、どうして下穿いてないのかな?」

 目線の高さを合わせた愛菜。
 優しく四人に問いかける。
 顔を見合わせた四人。
 代表してレミラが答えた。

「私達は穿く習慣がありません。だから、穿いてませんでした。穿くと落ち着かないのです」

 彼女の答えに一瞬フリーズする愛菜。
 しかし、即座に我に返る。
 羞恥心について説明しようとしてやめた。

 自分達も人を待たせているからだ。
 本日、夕食を一緒に食べる。
 その約束を取り付けた愛菜。
 ひとまずそこで退散。
 エルメが四人を連れていく。
 見えなくなるまで見送っていた。

「小さい頃は、私とゆーと君も一緒にお風呂はいったりしてたっけ」

 階段を下りながら、ぼそりと呟いた愛菜。

「え? 何か言った?」

「え? う・ううん。な・なんでもないよ」

 少し赤面しながら、しどろもどろに答える愛菜。
 悠斗は、少し気になった。
 朝霧 拓真(アサギリ タクマ)を待たせている。
 その事もあり、深く追求はせずに歩き出した。