| 249.罵倒-Revile- |
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1991年7月14日(日)PM:12:18 中央区精霊学園札幌校第一学生寮女子棟一階一○三号 突然の霊力の高まりに反応した二人。 椅子から立ち上がった三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)と稲済 禮愛(イナズミ レア)。 稲済 禮那(イナズミ レナ)とセセリア・ベナヒデス・アルカラ。 二人を椅子から立たせる。 背後に隠すように玄関を正面にした。 義彦は、鞘から刀を抜いて、構えている。 「侵入者の目的は俺達四人の誰かなのか?」 四人、八つの瞳が注がれている玄関。 有り得ない速度だ。 玄関の扉を含む壁が溶解している。 「魔力障壁すら溶かすとか」 視線を集中させている義彦。 禮愛は苦々しい表情だ。 禮那とセセリアも手を繋いた。 二人の背後で少し怯えている。 完全に壁が溶け落ちた。 そこに立っている人物。 驚きの表情の禮愛と禮那。 ただ一人、義彦だけは驚かない。 相手を睨んでいた。 「収監されているはずの人間が複数見つからないってのは、本当だったって事か。そうゆう事なんだろう? 藤村 間(フジムラ ケン)」 相手にそう呼びかけた義彦。 しかし、彼は何も言わない。 歪に微笑んでいるだけだった。 「まーさか、三井と稲済の母がいるなんてね。禮愛さん手足無事だったんだ? 残念だな。だから今度こそ完璧に溶かしてあげるよ。この間様が!」 言葉と同時に、間の眼前に形成された。 黒ずんだ色合いの液体。 「逃げるぞ。部屋の中じゃこっちが不利だ」 言うが早いか、流れるような動き。 禮那とセセリアの背後に移動した義彦。 刀に黒い炎を纏わせ、窓に片手平突きを放った。 魔力障壁を貫通し、大穴を開ける。 「逃がさないよ」 間の言葉と共に、触手のように伸びてくる黒い水。 振り向いた義彦が放った黒い炎の壁。 衝突し、間の視界が数瞬塞がれた。 「あれ? 逃げられた。でも逃がさないよ」 義彦が開けた穴にゆっくりと歩く間。 逃げる四人の後姿が見えた。 穴から外に出ようとする間。 まるで狙ったかのように、突如振り向いた義彦。 間は、黒い水の壁で自分を覆った。 彼に殺到する黒い炎。 しかし、義彦は結果を見る事もなく前を向いた。 「くそ、やっかいになりやがってる」 一人ぼやいた義彦。 彼は痛み出した傷口に舌打ちした。 次の瞬間、義彦率いる四人を囲むように、空から黒い水が現れる。 背後からは、間がゆっくりと歩いてきていた。 「逃がさないよー!」 半円のドームの形に形成された黒い水。 そこからまるで、生えてくるかのようだ。 伸ばされる手の形の水。 刀を両手で握り締めた義彦。 黒い炎を刀身に纏わせている。 薙ぎ払うように蒸発させていく。 しかし、彼の表情は少し苦しげだ。 若干動きに精彩も欠いていた。 「さて、いつまで持つのかな?」 歪に口角をゆがめている間。 「山本の野郎に聞いたけどさー、三井って何か呪いの傷みたいなの受けてるんだよねぇ?」 彼の言葉に答える事はない。 義彦は黙々と作業のように刀を振るう。 「徐々に傷口が痛くなってるんじゃないの? だから、少し苦しそうなんでしょ? それとも答える余裕もないのかな?」 「学園内にこっそり走っている水路が、あいつの能力と相性が良すぎるな。本来の目的は違うんだけど」 自嘲気味に呟いた義彦。 禮那とセセリア守るように立っていた禮愛。 彼女は苦悩の表情のままだ。 「ねー? 何か言った? それとももしかして?」 それでも、義彦は間に答える事はない。 突如黒い炎が無数に分裂。 流星のように間に降り注いだ。 「くそ・・これでどうだ?」 苦痛に顔を歪めている義彦。 しかし、彼の攻撃は間に届かない。 黒い水の壁に防がれた。 「そんなんじゃ、駄目だよ。ダメダメだよ! 本当はもう痛くて痛くて泣きたいんじゃないの? それとももしかして話す気力もないのかな?」 「いい加減黙りなさい。変態デブ」 苦悩の表情から一転、何か決意を決めたような禮愛。 普段口にしないような言葉で間を罵倒した。 唖然としているのは、間だけではない。 「禮愛さん?」 刀を振りながら驚きの表情の義彦。 「ママが怒っちゃった?」 禮那もびっくりしているようだ。 セセリアは、ポカンとしている。 「義彦君、娘とセセリアちゃんをお願いね」 優しい眼差しで義彦を見た禮愛。 彼女は義彦が反応する。 その前に、一直線に間に走り出した。 手の形の黒い水を防ぐのに手一杯の義彦。 止める術も余裕もないまま、見送るしかない。 「ママ?」 震える声の禮那のか細い声。 それだけが、義彦の耳を打った。 「デブっていったな? 予定変更だ、お前からどろどろにしてやる! まずは手足からだ!」 義彦に殺到している黒い水の群れ。 それとは別に、間の頭上に存在する黒い水。 鎗の穂先のような形状に変化。 禮愛に降り注ぎ始める。 彼女は神業のような動作だ。 全ての鎗の穂先を紙一重で躱していく。 驚きの表情の間の眼前まで迫った。 繰り出される徒手空拳。 義手義足にまだ完全に慣れていないとは思えない速度。 間が水の壁で防御しようとする。 すると、攻撃を止めて別の攻撃を繰り出す。 徐々に余裕を失う間。 少しずつ禮愛の動きに追いつけなくなっていった。 そして右足の蹴りが、彼の顔面にヒット。 吹き飛ばされた間。 歪んだ鼻の穴から、血を流していた。 手を緩める事なく、連続攻撃を繰り出す禮愛。 対処出来ない間は、何度も吹き飛ばされる。 普通の人間なら気絶してもおかしくない。 何度も何度も拳撃蹴撃を喰らっている間。 禮愛も彼のタフさに疑問を持ち始めていた。 見ている余裕があれば、義彦はその原因を理解出来たかもしれない。 「呆れる位に頑丈なのね?」 間の左頬を、禮愛の拳が打ち抜く。 振り上げた右手が、顎を下から掬い上げた。 間の体が持ち上がる。 彼女の回し蹴りが、間を吹き飛ばす。 吹き飛ぶ彼に追従して飛んだ禮愛。 空から急降下した彼女の両膝が、腹部を打つ。 九の字のまま大地に叩きつけられた間。 禮愛は回転しながら背後にに飛んだ。 顔には痣が出来ており、鼻は歪んでいる。 体のあちこちも、かなりのダメージを負っている。 それでも、彼はふらふらと立ち上がった。 痛みと怒りに歪む、間の顔。 「調子に乗りやがってぇ!? この、クソアマがぁ!? 絶対どろどろにしてやる」 怒りの声と共に、間の体に変化が起きた。 紫と黒、青のエネルギーに彩られていく。 そして、軽い衝撃波が周囲に放たれた。 吹き飛ばされる事はなかった。 しかし、禮愛は驚きの眼差しだ。 「まさか黒霊異人(ブラックソウルエビルドーラ)? そういえば、人が黒霊異人(ブラックソウルエビルドーラ)に変わった可能性があるなんて話しを聞いた事があったわね・・・」 間の瞳の白目の部分。 黒と紫のマーブル模様のように色づいている。 皮膚も光沢のない黒紫色。 ところどころに青い斑点が見えた。 ふと、義彦に視線を向けた禮愛。 彼は片膝をついていた。 黒い手の形状の水は見えない。 怒りで制御下を離れたようだ。 彼らから少し離れたところで、黒い水溜りが出来ている。 見る限り、地面を少し溶かしているようだ。 「義彦さん、大丈夫ですか?」 「禮那、あぁ大丈夫だ。ちょっと疲れただけだ」 「で・でも、傷がどうのってさっき?」 セセリナが取り出したハンカチ。 義彦の汗をで拭い始める。 心配そうに問い掛けた。 「掠り傷だ。お前達が心配する事はないさ」 義彦達の様子を見ていた禮愛。 即座に横に飛んだ。 「許さない!! 絶対溶かす!! 左手左足から絶対溶かしてやる。泣き叫んで許しを嘆願されても許さない。絶対許さない。その顔を苦痛と後悔に歪めてやる!!」 大地に落ちた手の形の黒い水。 黒い水が落ちた場所。 手の形に溶かしていた。 「溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす左手溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす左足溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす溶かす」 独り言のように呟く間。 彼の両隣に浮遊している五メートル程の二つの水の球。 そこから、突如無数の手の形をした黒い水が放たれた。 先程とは比較にならない速度。 禮愛は躱すだけで手一杯になる。 少し距離がある義彦達。 彼等のところまで放たれていた。 苦悶の表情になりながら立ち上がった義彦。 禮那とセセリナを守るように、黒い炎で蒸発させていく。 しかし、先程とは違い、数秒を要するようになっていた。 その光景を見た禮愛。 普段ならともかく、今の彼ではそう長くは持たないと判断。 「私は義彦君程、上手に使えるわけじゃないけど」 禮愛の両手に黒い霊力の風が纏わりつく。 横移動で回避に専念していた彼女。 突如真っ直ぐ直線に間に突っ込む。 対象が、横移動から突如縦移動に変化。 彼女の背後に殺到する黒い水の手。 いくつかが、掠るも彼女は足を止めなかった。 「最愛の人、夫を目の前で殺された怒りを喰らいなさい!」 彼女の渾身の拳の連撃。 間が形成した黒水の盾を吹き飛ばす。 そして、叩き込まれた。 右手左手右手左手右手左手右手。 その度に、左に右に、上に体をぶれさせる間。 禮愛の左の拳が、黒い風を纏い突き進む。 だが、彼女の左手は途中で停止した。 間が右手で彼女の左手を掴んだからだ。 「つ・・かま・・えた・・溶かす・・左手と左足・・」 |