| 263.自害-Suicide- |
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1991年7月14日(日)PM:13:08 中央区精霊学園札幌校東通 痺れて動かない体の白紙 沙耶(シラカミ サヤ)。 それでも、何かを言おうとしている。 しかし、既に唇さえもまともに動かせない。 そのまま、彼女はうつ伏せに倒れた。 じっと見ていた白紙 伽耶(シラカミ カヤ)。 彼女は、沙耶の言いたかった言葉を理解した。 毒々しい花を、炎の斬撃で一気に薙ぎ払う。 「くそ、まだ足がうまく動かないな。再生にはもう少し時間がかかるか」 赤いオーラを纏ったままの伽耶。 山本 雄也(ヤマモト ユウヤ)に向かって駆け出した。 走りながら、伽耶が三人に分裂していく。 「なんだと?」 余裕を取り戻していた山本だった。 だが、伽耶が分裂した事に驚きを隠せない。 「な? 馬鹿な? いや、落ち着け俺。きっと幻術か何かのはず。本体はどれか一つだけだ」 三人の伽耶を見比べる山本。 だが、目視ではどれが本物か判断出来ない。 冷静さを再び手離しはじめる。 「そうか。同時に攻撃すれば。本物以外は燃えないはず」 彼の足元を砕いて現れた蔓。 三本一組となり計十二本。 伽耶を貫通しようと突き進む。 だが、彼の攻撃は直線的過ぎた。 いくら速度が速くても、軌道がまるわかりだ。 三人の伽耶にあっさりと躱される。 「な? 躱しただと? 馬鹿な!?」 何とか顔を横に向けて、二人の戦いを見守っている沙耶。 彼女の体は地面から、五センチ程浮き上がっている。 体は痺れて動かないが、霊力の使用が封じられたわけではない。 海の色のようなオーラはそのままだ。 水で出来た手で、自分の体を持ち上げている状態。 沙耶は動かない体で考える。 麻痺して動けない自分に何もしてこない。 それは、先に伽耶の動きを封じる為だ。 動けないから抵抗出来ないと考えてる。 沙耶が見守る中、二人の戦いは進んでいく。 三人の伽耶に攻撃を宛てられない山本。 蔓の数を、六本一組の二十四本に増やす。 六方向から同時攻撃を敢行した。 逃げ場のない三人の伽耶。 二十四本の蔓が通り抜け、お互いを貫いた。 「な!? 何が起きている? そんな馬鹿な?」 次の瞬間、目の前に人の気配を感じる山本。 同時に、山本の左脇腹から右肩にかけて炎が走った。 三人の伽耶が消失。 彼の目の前に、刀を振り切った伽耶が現れる。 斬撃と天に昇るような炎に巻き上げられた山本。 「はぁはぁはぁ、やっぱ最大出力で維持は疲れる・・」 肩で息をし、片膝をつく伽耶。 刀を地面に突き刺す。 支えにして何とか倒れるのを防いだ。 炎が燃え盛っている。 その中心で全身焼け爛れ倒れている山本。 彼はそれでも立ち上がった。 「この・・糞女・・・許さねぇ! ただでは殺さない殺させるか殺さない殺せるものか!! 死にたくなるような地獄をくれてやる。人としての尊厳なんぞ粉々にうち砕いてやるぅぅ!!」 疲労の極みにある伽耶。 山本が歩いてくるのを理解している。 しかし、消耗が激しく動けない。 彼女は、一度だけ沙耶に視線を向けただけだ。 伽耶の目の前に辿り着いた山本。 忌々しげな眼差しで見下ろす。 剣状の植物を右手に巻きつけ、大上段に構えた。 「まずはその顔に醜い傷をつけてやる。二目と見れない面になった時、どんな絶望を感じるかな? ひひふふふひゃひゃひゃひゃ・・?」 右腕から力が抜けるのを感じる山本。 上腕に視線を向けた。 綺麗な切れ込みが入っている。 切断される寸前だ。 重力と衝撃により背中側に折れていく。 「ひぎゃぁぅ」 彼は声にもならない叫び声を上げた。 彼の叫び声の直後、再び何かが通過していく。 脛に入る切れ込み。 流れ出る血。 衝撃と重力に従い、背中側に折れていく体。 何とか制御し、水の刃を放った沙耶。 切断寸前の切れ込みを入れたのだ。 ここまで綺麗に切断出来るとは思っていない。 沙耶の表情は驚愕に満ち満ちている。 常時最大出力で展開していた状態。 更に攻撃の為に水の刃を二度放った沙耶。 彼女も限界を向かえる。 自身を支える水を固定する事すら出来ない。 軽い衝撃を感じて地面に落下。 いまだに沙耶の体は痺れたままだった。 ----------------------------------------- 1991年7月14日(日)PM:13:10 中央区精霊学園札幌校東通 何故襲ってこない? あの植物男、確か山本とか言う奴の戦い。 そんなに気になるって事よね。 かと言って、私から先制攻撃をしても無駄。 勝てる気がしない。 『東西南北四箇所の植物体の発生の原因を排除に成功。園内にいる植物体の殲滅を引き続きお願いしたい。東通にいる生徒達は、無茶しないように』 ファビオ先生? さっぱり状況がわからない。 けど、最悪ってのは間違いないか。 無茶しないようにって言われてもね。 それこそ無茶な要求だよ。 仮に援軍がそのうち来るとして、それまで無事でいられるの?? 私も含めて、消耗の極みで、動くのもままならないのに。 正直、こうやって相対しているだけでもきつい。 もう一時間以上このままな気がする。 でも、絶対気のせい。 たぶん、数分ってところなんだろう。 「折角わらわが暴走を抑えて上げてたのに、負けちゃうなんてね」 え? 何だろう? さっきと話し方も、声の質も違う気がする。 どこまでも甘美なのに、どこまでも淫猥な雰囲気を受けた。 けど、何なの? 「面白い駒だっけどもういいかのぅ」 少し遠くで苦痛に呻いている山本。 彼の体から黒い靄のようなものが抜け出す。 黒と紫と黄のエネルギーが、彼の体を駆け巡り始めた。 まるで針の刺された風船のようだ。 突然、破裂した。 彼に起きた光景を見ていた者達。 唯一人を除いて何が起きたのかさえ理解出来ない。 茫然とした表情の陸霊刀 黒恋(リクレイトウ コクレン)。 「何をしたの?」 目の前の男に問いかける。 予想に反して、彼は答える為に口を動かし始めた。 「何もしてない。暴走を抑えていた私の力を戻しただけだ」 「暴走? どうゆう事?」 「そこまで教えてやる程お人よしではないわよ」 「お父?」 黒恋の背後で寝かされていた闇 花(ヤミ ハナ)。 目覚めて発した第一声がそれだった。 「お父の姿だけど、お父じゃない。お父を返せ」 「花、何を言っている? 私は私だ」 「違う。うちのお父じゃない。お父をもう解放してよ!!」 状況が更に混迷していく。 黒恋は、二人の遣り取りから把握しようと努める。 だが、理解が追い付かない。 「しつこいぞ。そんな娘はいらん」 「お願い。お父を返して」 涙ながらに訴える花。 軍服の男が、刀を抜き放つ。 涙ながらに必死に呼びかける花。 彼女に振り降ろされた。 寸前の所で、介入した黒恋。 振り下ろされるよりも先に動く。 花を抱き締め、転がっていった。 無傷というわけにはいかない。 彼女は背中を斬り裂かれた。 致命傷まではいかない。 しかし、動くのも差し障る深い傷となった。 それでも、花を背後に隠し、彼女は刀を構える。 「わらわと戦うつもりかのう? その状態では、相手にさえならない事を理解しているはずじゃがな?」 「だからって見過ごすのも後味が悪いでしょう」 「愚かな奴だ」 睨み合う二人。 囁くように、後ろの花に問いかける黒恋。 「お父じゃないってどうゆう事?」 「え? えとー、お父の中に違うものが入ってて、操ってるのです。私を操っていたのの本体がお父の中にいるのです」 痛みに顔を歪めた黒恋。 それでも問い掛けを続けた。 「わかったようなわかんないような。それで、分離する方法はあるの?」 「ごめんなさい。ウチにはわかりません」 「そう・・まぁ、仮にあったとしてもあいつがやらせてはくれなそうだけど。とりあえず八方塞ね。私があいつの相手をする間に、周囲の皆を逃がしてくれないかな? もっともそんなに時間稼げるとも思わないけど・・」 花の反応を待つ事なく、走り出した黒恋。 自身が今出来る最短で最速の斬り上げを放つ。 本来なら動くのもままならない体。 やはり本来の実力を出す事は出来ない。 あっさりと刀を打ち合わされた。 更に、反応出来ない速度の回し蹴りを浴びる。 吹き飛ばされた黒恋。 しばらく地面を水平に飛んだ。 既に彼女の意識は途切れている。 「まだ生きてるか。後でゆっくりと味わいましょう。まずはお前」 花に近づいていく男。 そこに飛び込んできたエレアノーラ・ティッタリントン。 三合程打ち合うが、四合目で剣を弾かれた。 生じた隙に前蹴りを喰らい吹き飛ばされる。 「次から次へと、うっとしいわね。でも今度こそあなたの番よ」 刀を構え、相対する花。 「あら? 父に刃を向けるの?」 苦渋の表情で、見上げる花。 上がっていた切っ先が下がる。 「それでいいのよ」 刀を振り上げた男。 振り下ろそうとする腕が止まった。 「は・・な・・すま・・なかっ・・た・・・。こ・・んな・・手段・・しか・・とれな・・い・・父・・を・・許せ・・」 「え? お父?」 男は振り上げた刀を、徐々に自分の胸に向かわせる。 「ぐ・・たかが元人間の分際でわらわに逆らうだと?」 刃の切っ先が、胸に突き立てられる。 「やめよ? やめるのだ? そんな事をしても、わらわを殺す事は出来ないぞ?」 徐々に体内に侵入していく刀。 侵入速度が徐々に加速してゆく。 胸から斜め下に刀が突き抜けた。 「馬鹿・・な? 自分を犠牲にした? 愚か過ぎ・・る」 血を吹き出しながら、斜め前に倒れる男。 彼の体から、黒い靄が徐々に抜け出していく。 「ほん・・とう・・愚か・・なお・・とこ・・」 |