265.指摘-Signalize-
1991年7月14日(日)PM:13:20 中央区精霊学園札幌校東通

「何者だったんでしょうか?」

 苦悶の表情のエレアノーラ・ティッタリントン。

「本当なんだったんでしょうね?」

 クラリッサ・ティッタリントンは首を傾げた。

「二人とも大丈夫かしら?」

 少し心配顔のアイラ・セシル・ブリザード。
 エレアノーラとクラリッサに交互に視線を向けた。

「申し訳ありません。肋骨が二本か三本折れてるかもしれません」

 そう言ったエレアノーラ。
 動こうとして顔を盛大に顰めた。

「エレアノーラ、あなたはそのまま休んでいなさいな。まともに動けそうなのは、私とクラリッサだけのようですし」

 本気で心配しているのだろう。
 アイラの瞳は少し翳っていた。

「結果的に退けたわけだけど。運が良かったというか何と言うか」

 結果的に最後の一押しをした桐原 悠斗(キリハラ ユウト)。
 しかし、どこかその顔は釈然としない表情だ。

「理由がどうであれ、ゆーと君と三井さんが動いたからだよ。よく動けたよねぇ」

 本心からの中里 愛菜(ナカサト マナ)の言葉。
 悠斗は少しだけ救われた気になる。

「黒恋さん、三井は霊力の使い過ぎなだけですから。二日三日休めば回復するとおもいますよ」

 一人どうしていいかわからず、おろおろしている。
 陸霊刀 黒恋(リクレイトウ コクレン)の余りの狼狽振り。
 見兼ねたクラリッサ。
 彼女は、若干呆れた表情だった。

「皆様、無駄話はおしまい。まずは負傷者の収容ですわ。今こっちに医療班が向かってます。動けない者はその場でお休み下さい。動ける者は医療班が到着後、収容のお手伝いです」

 アイラの言葉に一同は頷く。

「そうは言っても動けるのは私達だけでしたね」

「私もさぼりたいなぁ」

 しょうがないかという表情のアイラ。
 逆にクラリッサはさぼりたいとうオーラを振り撒いている。

「クラリッサは駄目です」

 アイラの容赦ない一刀両断。
 クラリッサは項垂れた。
 二人の遣り取りに、ぎこちないながらも皆が微笑んだ。

「黒、大丈夫?」

「花殿こそ・・・・」

「ウチは大丈夫だから」

 自責の念に駆られている二人。
 どちらも既に戦う意味も意義も残ってはいなかった。

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1991年7月14日(日)PM:13:22 中央区精霊学園札幌校西中通

 植物体の残骸の中。
 歩いているのはフードを被った男。
 心なしか嬉しそうな雰囲気だ。

「くくくははは!! これで手駒が一つ増えたわけだ。あの男が何を目的に接触してきたのかは知らないが、折角の貰い物だ。精々有効に活用させてもらおう!」

 笑みを浮かべる口元。
 下向きの二本の牙が見えている。
 その点を見れば、吸血鬼と思う人もいるだろう。

「まさか本当に襲撃者が現れるとはな? 半信半疑だったんだけど。こんなに大規模だとは正直思わなかった。だからこそ、何の障害もなくヴラドとか言う馬鹿に会う事が出来たわけだから、良かったって事か。これで園内で俺が手を下しても、二つの手駒のどちらかに罪を擦り付ければいい。美味しそうなのは見繕ってあるしな。眷属を増やしながら、じっくりと味わう事にしよう! 数は少ないようだが同族もいる事だしな」

 高笑いをあげながら、男は歩いて去っていった。

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1991年7月14日(日)PM:13:23 中央区三井探偵事務所一階

 スーツ姿に黒髪角刈りの男が立っている。
 彼は笠柿 大二郎(カサガキ ダイジロウ)。
 渋い顔をしていた。

「今日もいないってか? あいつが約束をすっぽかすってのは考えにくいんだよな。どうなってんだ? しばらく何処かに行くなんて話しは聞いてないが」

 顎に手をやる笠柿。
 思案するように眉根を寄せた。

「やはり、一度義彦か柚香ちゃんに確認してみるべきか。くそ、こんな事なら学園の番号を聞いておくべきだった。住所を知ってそうな奴誰かいたか?」

 思案する笠柿だが、思い当たる人物が浮かばない。
 笠柿はそのまま、しばらく唸っていた。
 そして突如、ある人物が閃く。

「あ、そうか。古川さんはいなくても、白紙さんに聞けばいいのか」

 解決方法に思い至った彼。
 車に戻るとキーを回し、アクセルを踏み込んだ。

「しかし、西田の奴、何処行くかも言わないで、朝から何処にいってんだ? 全く何の為に、ペアになってると思ってやがるんだ」

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1991年7月14日(日)PM:13:30 中央区精霊学園札幌校東通

「しかし、ここでまさか再び遭遇する事になるとは思いませんでしたわ」

 一人動かなくなった植物の残骸を見つめるアイラ。
 その表情は非常に険しい。

「もっとも個体能力はあの時と全く比脚になりませんでしたが。あれ? 比曲? 比菊?」

「比較って言いたいんですかね?」

 背後からの思わぬ突込み。
 羞恥に顔を赤らめたアイラ。

「クラリッサ? もう、態々突っ込まなくていいのですわよ?」

「私達は日本語完全に覚えきれてませんからねぇ」

 彼女はアイラの隣に並んだ。
 その上で彼女に顔を向けると意地悪な表情をする。

「クラリッサ? 意地悪い顔してますわよ?」

「そうですか? アイラの気のせいですよ。そうそう、気のせいです。それにしても、凄い有様ですね」

「意図的に話しを逸らされた気もしますが。まぁいいでしょう。確かに毒々しいと言いますか? まごまごしいと言いますか?」

「まごまごしいですか? 禍々しいとか言いたかったんですかね?」

 再びの突っ込みに、アイラは顔を伏せた。
 指摘されて恥ずかしいのだ。

「そ・・そうですよ。禍々しいですわ」

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1991年7月14日(日)PM:13:31 中央区精霊学園札幌校時計塔地下三階

「生徒に負傷者は出てしまったけど、重傷者や死亡者は報告されてないのは救いかな?」

 後処理に忙殺されていたファビオ・ベナビデス・クルス。
 一息ついた所で、そう溢した。

「東通の負傷者搬入完了したみたいー」

 背後から聞こえて来た少女の声。
 ファビオはいくつかボタンを操作した。
 東通の映像がクローズアップされる。

「これはまた。後片付けが大変そうだな?」

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1991年7月14日(日)PM:16:42 中央区道道八十二号線

 灰色と赤の着物に黒の帯姿。
 一人の女性が歩いている。
 ぱっと見ると三十歳前後に見える彼女。
 妖艶であり淫猥な雰囲気を醸し出している。
 それでいて無垢さを感じさせる不思議な顔立ち。

「こんな綺麗な柔肌に、容赦なく刃を突き刺してくれたものじゃな」

 金色の髪の毛が一房、パラリと目にかかった。
 彼女は無造作に、髪の毛を掻き上げる。
 その後で空を眺めた。

「どうしようかのぅ? この時代をしばらく楽しんでみるのも一興かもしれぬか」

 一台の軽トラックが通り過ぎた。

「あれは車とか言う奴じゃったかな? 運転するのは楽しいのじゃろうか? まぁ、どうするにせよ。まずは寝床を確保する必要があるのぅ」

 突如彼女の周囲の空気が渦巻く。
 刹那、爆音と共に彼女の体は空に放たれた。
 衝撃波を喰らった周囲が激しく破壊される。

 通り過ぎて少し離れていた軽トラック。
 激しく車体を揺さぶられた。
 蛇行しながらも、何とか停止する。

「しまったのじゃ。久しぶりに使ったものじゃから、力を込めすぎてしまったようじゃな。まぁ、瑣末事よな」

 彼女はぐんぐん空を上昇していく。

「ふむ。町はあっちで山はあっちのようじゃ。どっちに行って見る事にしようかの? そうじゃな。まずは町の中にどのような輩が徘徊しておるのか見てみるとしようぞ」