037.平凡-Common-
1991年5月30日(木)PM:22:12 中央区銀斉邸二階

 俺は、吹雪の部屋のベッドに寝かされている。
 具合悪くて、どんな部屋なのか見る余裕がない・・。
 眼鏡も、気付けば外されてるな。

 吹雪が泣き腫らした目で、俺を見てるっぽい。
 とりあえず、一応泣き止んだみたいで良かった。

「・・・三井兄様ごめんなさい・・・」

 俺は、何て言えばいいんだろうか・・。
 まさか、あんな凄い物が、出て来るなんて思わなかったしな・・。
 うん・・正直に言うか。

「・・・正直・・・凄く不味かった・・・」

「・・・はい・・・。自分でも、一口食べてみました・・・」

「出す前に、味見しなかったのか・・」

「・・・はい・・・」

 やばい、吹雪の目に、涙が溜まって来てるっぽい・・・。

「初めて料理したわけじゃないよな?」

「・・・自分だけで調理したのは・・・初めてです・・・」

 まじかよ・・・。

「まぁ、俺も初めて料理した時は、食い物にならなかったし・・そう落ち込むな」

 ごめん、嘘です。
 吹雪の頭に手を置いて、撫でてみる。
 これで少しは、涙が止まればいいんだが・・・。
 さすがに不味いって言われたら、傷ついたよな・・。

「吹雪、今までご飯とか、どうしてたんだ?」

「ご飯だけは、自分でも炊けるので、後はで・出来合いの・・・そ・惣菜です」

「・・・そうか」

「は・・はい」

「料理上達したいと思うか?」

「「えっ? も・もちろんです」

「頼んでみるか・・・」

「・・・は・はい! お願いします」

「悪いが、もうちょい寝かせてくれ。吹雪が寝る前にでも、起こしてくれれば」

「わ・わかりました。おやすみなさい」

「おやすみ」

 吹雪は俺をじっと見てる。
 俺はしばらくして、再び眠りに落ちた。

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1991年5月30日(木)PM:23:42 中央区桐原邸二階

 僕は一人、部屋で考え事をしていた。
 学園か。
 この能力を向上させるなら、行くべきなのかもしれない。
 でも、今までこの能力のせいで、過去に爪弾きにされたのも事実だ。

 こっちに引っ越してからは、極力隠すようにしていた。
 同じような能力を持つ人達に、出会う事になる。
 そんな事、考えてもいなかった。
 でも、今の平凡な日常でいいや、と思う自分もいる。

 いろいろ考えているうちに、眠りに落ちていた。
 何かが、もぞもぞ入ってきたような気もする。
 だけど、眠気に勝てなかったので、確認すらしなかった。

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1991年5月31日(金)AM:6:22 中央区銀斉邸二階

 何かを握っている気がする。
 何だろう?
 誰かの手のようだ。

 閉じていた瞼を開けた俺。
 横を見ると、吹雪の顔が瞳に飛び込んできた。

 あれ?
 何で吹雪が、隣で寝てるんだ?
 というか、今何時だ?

「・・・ふぁ、三井兄様おはよ」

「お・・おぅ、吹雪おはよう」

「具合どう?」

「あぁ、大分楽になったかな」

「良かった!」

「ところで、吹雪」

「なーに?」

「今何時だ?」

「六時二十二分だよ」

「あぁそ・・えっ!? 六時?」

「うん、六時、あ、二十三分になった」

「吹雪が寝る前に、起こしてくれれば良かったんだぞ」

「でも・・何か寝顔が可愛くて、一緒に寝ちゃった!」

 そんなに嬉しかったのか・・すごい笑顔だ。
 あまりの笑顔に、追及する事が出来なかった。

「――とりあえず、眼鏡とってくれないか?」

「はい、兄様」

 立ち上がった吹雪。
 机っぽいところから、手に眼鏡っぽいものを持って来た。
 上半身を起こした、俺の前に跨る。

「眼鏡かけてあげるね」

 両手に眼鏡のテンプルを持って、俺の顔に近づけてくる。
 徐々に近づいてくるレンズ。
 そのレンズから見える、吹雪の顔。
 日本では珍しい銀髪。

 何か守ってあげたいと、思わせるんだよな。
 正直かわいいし。
 やばい、柄にもなく、ドキドキしてきた。

 吹雪が俺の顔に、眼鏡を装着し終える。
 それまで、まるで石像の如く、身動きが出来なかった。
 眼鏡を装着し終えた後、怪訝そうな表情で吹雪が俺を見ている。

 吹雪に手を握られて、導かれるように俺は立ち上がった。
 内心の動揺を隠している。

「三井兄様、朝御飯どうしましょうか?」

「トーストとかで、いいんじゃないか?」

 俺と吹雪は、そんな会話をしながら移動している。
 彼女の部屋を出て、階段を下りた。
「はい、そうですね」

「台所借りていいなら、ちょっとしたものなら、出来るけど?」

「それじゃ、お願いします」

 昨日の事があるから、吹雪に何かやらせるのは危険極まりない。
 良く考えれば、よく火事とかにならなかったな・・・。

 人様の家で、料理するのは気が引けるが・・・。
 昨日のあれを、食べるよりはましだ。
 俺は、吹雪に案内されて、台所で朝御飯を何にするか考え始めた。
 ついでに吹雪に教えてみるか。

「吹雪、冷蔵庫の中、見てもいいか?」

「うん、いいですよ」

 卵とベーコンはあるな。
 昨日ほぼ手付かずのマカロニサラダ。
 ちゃんと、冷蔵庫に入れたんだな。
 一応、味見してみる。
 問題なさそうだ。

 昨日のあれは、フライパンに少し残っていた。
 吹雪には悪いが、片づけよう。
 これ以上、犠牲者を増やしたくはない。

 食パンもあるな。
 冷蔵庫に、ジャムもあった。

「三井兄様、片づけまでしてもらって、申し訳ありません」

 申し訳なさそうな顔で、こっちを見ている吹雪。

「いいよ。気にするな」

 しかし普段、誰がやってるんだろうな?
 ううむ、フライパンで、シチューを調理したのか?
 どうやら、鍋を使った形跡は、なさそうだ。
 また泣かれても嫌なので、追及はしないどこう。

 昨日使った皿と、フライパンを綺麗にし終わった。
 鍋じゃなくて、フライパンだったのが救いだったか。

「ベーコンエッグを教えるから、吹雪もこっち来い」

「はい」

 カリカリが、俺の好みではあるが、最初からは無理だろう。

「まずは、フライパンを熱して、充分熱くなったら、軽く油をひく事。そしてベーコンを投入、両面を軽く中火で、カリカリなら、弱火でじっくり焼く」

「はい」

 真面目な顔で、吹雪は俺の説明を聞いている。

「そんで、ベーコンが好みの焼き具合になったら、中火にして生卵投入、半熟にしたいなら、水を少し投入の上で蓋をして蒸し焼きにする。二分位蒸し焼きにして、時間が足りなければ、火を止めて余熱で好みの状態にするって手もあるな。好みの状態になったら、皿に盛り付ける。塩胡椒を振るのもいいぞ」

 説明している間、真剣な顔で、俺の動作を見ていた。
 ベーコンエッグを更に盛り付けた。
 吹雪がトースターに、食パンを入れて焼いてる。
 その間に、マカロニサラダも取り出した。

「三井兄様、何でベーコンエッグは、一つだけなんです?」

「・・・まだちょっと、具合悪いからな」

「ご・・ごめんなさい」

「無理に、食べようとしたのは俺だから、自業自得だ、気にするな」

 吹雪の頭を軽く撫でてから、テーブルに運ぶ。
 食べ終わった後、後片付けも俺が行う。
 念の為、吹雪に教えつつ、少し手伝ってもらった。

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1991年5月31日(金)AM:6:34 中央区桐原邸二階

 ん?
 何だろう?
 何か柔らかい物が、腕に当たってる気がする。
 横を向くと、愛菜の寝顔があった。

 もしかして、この柔らかい物ってあれですか・・。
 どうやら愛菜が、俺の左手に抱きついてる模様。
 よく横向きで寝れるな・・・。
 やばい、落ち着け落ち着け。

 違う事を考えろ。
 考えろって、何を考えよう?
 ・・・うん、とりあえず、ゆっくり手を抜こう。
 ふぅ、いろんな意味で緊張した。

「うぅーん、おはおー、ゆーと君」

「おはようっていうか、何故ここに、いる?」

「えーだって、ゆーと君、一人で先に寝てるんだもん」

 昨日、そういえば、もぞもぞしたような記憶があるな?
 あれは、愛菜だったって事か。

「いや、でもさ。さすがに幼馴染というか、兄妹というかだけどさ」

 愛菜は、きょとんとしてる。

「ゆーと君の事、信じてるもん」

「そ・・そう」

「ゆーと君は嫌?」

 そんな、上目使いで見るなよ・・・。

「い・嫌じゃないけどさ・・・」

「良かった!」

 そんな、嬉しそうな顔するなよ。
 勘違い、しちゃいそうじゃないか。

「今日は、お父さんもお母さんもいるから、うちで朝ご飯食べよ」

「・・お?おう!」

「それじゃ、先行ってるから、準備したらうちに来てね」

「お・・おうわかった」

 どうゆう事?
 おじさんとおばさんは、知ってるって事か?
 知ってて、愛菜を止めてないって事なのかな?

 そう考えると、隣に行くのがちょっと怖い・・・。
 思いながらも、行かざるを得ないな。
 諦めた僕は、学校へ行く準備を始めた。