040.加工-Processing-
1991年5月31日(金)PM:17:34 中央区特殊能力研究所付属病院三階七号室

「あ、おにぃだ。こんばんわー」

 病室に入ると抱きついて来たマユ。
 彼女は、珍しくツインテールにしている。
 今日も元気で何よりだ。
 正直そう思う。

「マユ、こんばんわ」

 どうやら、三人で遊んでいたらしい。
 伊麻奈ちゃんと優奈ちゃんも、マユのベッドの側にいた。
 マユの突然の行動に、二人は目をパチクリさせている。
 そりゃ、突然走り出して扉の方に突進すれば、驚くよな。

「伊麻奈ちゃん、優奈ちゃんこんばんわ」

 俺は、マユの頭を優しく撫でている。
 彼女はは、嬉しそうに微笑んでいた。
 そんなに嬉しいものなのかね?

「三井さん、こんばんわ」

 次に反応を返したのは、伊麻奈ちゃんだった。
 彼女は、今日はポニーテールにしている。
 ポニーテールも悪くないな。
 そんな事を思っていると、何故かマユに頬を突っつかれた。

「あ・・・あの、こ・こんばんわ」

 優菜ちゃんは、どもりも少なくなってきたな。
 ウェーブのかかった茶髪を、後ろでまとめている。
 直ぐに完全に回復するのは難しいのだろうな。

「おにぃ、包帯かなりとれたねー」

「あぁ、そうだな」

 俺の傷も、手足に数ヶ所残すだけ。
 背中の傷は、完全に塞がっている。
 エレメンターは、常人よりもはるかに回復力が高い。
 個人差はかなりあるらしいけど。

 なんで回復力が高いのかは、わからない。
 だけども、千切れかけた腕を回復させた。
 過去には、そんな例も、報告されてるそうだ。
 事実だったかどうかは、確認しようもない事だけどな。

「あ・・あの、三井さんも、明日は行くんですか?」

 まさか優菜ちゃんに最初に聞かれるとは思わなかった。

「あぁ、そのつもりだよ」

「わーい、おにぃといっぱい遊べるぅ!」

「マユちゃん、凄く嬉しそうだね」

「うん!!」

 伊麻奈ちゃんの問いに、満面の笑みのマユ。
 慕われて正直悪い気はしないけど。
 だけど、何故彼女がこんなに俺を慕うのかがわからない。

「ツインテールなんて珍しいよな?」

「えへへへ! どうかな?」

「かわいいと思うぞ」

 俺の言葉に、マユは満面の笑みを浮かべている。

「マユちゃん、凄い嬉しそうだね」

「凄い・・笑顔・・なの」

 伊麻奈ちゃんと優奈ちゃんも嬉しそうだ。

「さて、俺はちょっと用事があるから。また明日な」

「はい」

「ま・・またです」

「えー、もう行っちゃうのぅ!?」

 少しマユがぶーたれてた。
 不満げな表情で俺を見ている。
 彼女の頭を一撫でしてから、病室を後にした。

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1991年5月31日(金)PM:17:42 中央区特殊能力研究所五階

 僕は第四研究室という場所に向かっている。
 受付のお姉さんに、そう言われたのだ。
 お互いに顔はわかってる。
 けど、受付のお姉さんの名前誰一人覚えてないや。
 今度からは、名札の名前ちゃんと見てみる事にしようかな。

 まぁ、そんなこんなで辿り着いた第四研究室。
 テーブルを挿んで対面で座っているのは、黒髪を後ろでまとめてる白衣を着た青年。
 二十代後半だろうか?
 今日は、目の前の人物に呼び出されてここにいるようだ。

「桐原君、はじめまして、第四研究室主任の、桜田 俊充(サクラダ トシミツ)です」

「はじめまして、桐原 悠斗(キリハラ ユウト)です」

 僕に何の用なんだろうか?
 何か協力して欲しいとかなんだろうな。
 協力出来るような事があるのかは疑問だけど。

「桐原君、君のエレメンターとしての力は、聞いた限りだと、ちょっと特殊みたいでね。もしよければ、実際に見てみたいのだけども、構わないかな?」

 僕の目の前のテーブルに、何やら白銀色の金属の塊を置いた桜田さん。
 見る限りは、特に何の変哲もない、ただの金属の塊に見える。

「見せるのは構いませんけど、どうすれば?」

「とりあえず、この金属の塊を、変化させて見てくれるかな」

 古川所長との話しの時に、協力して欲しいというような事も言われてたしな。
 大人しく協力するか。
 本当は、余り人前で使いたくはないけど。

 僕は金属の塊を右手で握る。
 何をイメージするか。
 剣的なものでもいいのかな?

 僕のイメージを、理解したかのような金属の塊。
 まるで、生き物のように形を変えて、蠢いて行く。
 蠢動金属、何故かそんなフレーズが頭に浮かんだ。

 その間、桜田さんは、じっと金属の塊を凝視している。
 金属の塊は、何の装飾もない、ただの片刃の剣になった。
 僕が手を離しても、剣になった金属の塊をじっと見ている。

「凄い。こんなのは見た事ない!!」

 彼の表情は、何か嬉しそうだ。

「この片刃の剣になった金属の塊は、もらってもいいかな?」

 こんなもの、何に使うのかわからない。
 けど、僕には必要ないしな。

「どうぞ、もともと僕のものじゃないですし」

「ありがとう! 見せてくれたお礼ってわけじゃないけど」

 突然席を立った桜田さん。
 戻ってきた彼の手には布袋。
 再び座ると、布袋から何かを取り出した。

 それはナックルダスターと、籠手が合体したようなものだ。
 何処かで見た事あるぞ。
 あれだ、久下 春眞(クゲ ハルマ)と戦った時に、僕が合成した奴にそっくりだ。

「これはもしかして?」

「そう、桐原君が久下達と戦った時のだね」

 そりゃ見た事あって当然だ。

「正確には、その時のをいつでも使えるようにした物、そう言った方が正しいか」

「これを僕に?」

「そうさ。折角だから使ってみてくれないかな?」

 無いよりはあった方がいいかもしれないか。
 出来るものと、出来ないものがあるみたいだし。
 研究所に関わってしまった。
 ならば今後また、誰かと戦わないと行けない可能性もあるしな。

 袋毎ありがたく頂いた僕。
 教室に向かう事にした。
 袋から出して良く見てみる。
 いくつか加工が施されているようだった。
 後でちゃんと、確認してみないとな。

「どうゆう事なんだろうか?」

 桜田さんは、今頃僕が変形させた剣を調べてるのかもしれない。

「・・・・・・見た限りの推測だと、一度分解した上で合成し直したのか?」

 剣を調べて何かがわかるのかは、僕には正直疑問だけど。

「・・・そんな事が可能なのか・・・しかし・・・・」

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1991年5月31日(金)PM:17:45 豊平区豊平退魔局五階

 ソファーに座っているのが四人。
 一人は、少し離れて立っている。
 彼はまるで仲間はずれのようだ。

 グレーの髪の、色白の青年。
 忌々しいものを見るかのような瞳。
 彼が最初に口を開いた。

「この写真の黒いのがアレだよ」

 狐の様な耳と、ふさふさの尻尾を持つ青年の方に、視線を向けて彼はそう言った。
 視線を向けられている青年は、じっと写真を見つめている。

「こんなものを、奴等は研究していたのか」

 彼の声には、軽蔑が感じられた。

「そうなのよ。コントロール出来るわけじゃない、みたいだけどね」

 黄緑色の髪の毛を、団子状にまとめている女の子が答える。
 彼女は写真を、忌々しいものでも見るかのように、眺めていた。

「正直こんなに大きいと、気持ち悪いですわね」

 狐の様な耳と、ふさふさの尻尾をもつ女の子が答えた。
 まるで怯えているかのように、狐耳がしおらしくなっている。

「その気持ちもわかるがな」

「ところで、仮面はもうやめたのかい?」

「あぁ、あっちは完全に、エルフィディキアが首謀者だと思っているからな。必要があれば、また使うかもしれないが」

「内部での情報操作が、成功したって事だね」

「そうなるな。鬼と瑠璃星のおかげだな」

 少し離れたところにたっている男。
 ぎょろりとした目の、黒髪の彼は会話に一切混じらない。
 彼は一言も言葉を発していない。
 ただただ遠めから、写真に写っている黒いアレを見ていた。