092.因子-Factor-
1991年6月9日(日)PM:21:47 中央区特殊能力研究所五階

 三枚の資料に共通している、ある二つの名前。
 科学解析では検出されず、魔法解析だけでしか検出する事は出来ない。
 鎗水 流子(ヤリミズ ルコ)はそう言った。

 桐原 悠斗(キリハラ ユウト)以外の他の四名。
 それが何を指すのかを、理解しているらしい。
 険しい表情をしている。

 資料に書かれている様々な名称。
 その中、一番最後の二行。
 明らかに他の名前と比べると、異質な記載であった。

 最後の二つの行。
 書かれているのは白の子と黒の子。
 名前だけみると、何だかわからない名称だ。

「白の子と黒の子っていう名称は、流子が勝手につけた呼称か?」

「そうですよぅ、所長の言うとおり何ですぅ。だってぇ、その方が可愛いじゃないですかぁ」

「そこなのかよ」

 苦笑いの三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。

「あの、白の子と黒の子って何なんですか?」

 一人だけ何なのか理解してない悠斗。
 思わずそう質問してしまった。

「白の子とぅ、黒の子はぁとある因子なんですぅ。結果からの推測ではありますけどぅ。今の所の実験ではぁ、間違いないんじゃないかとぅ考えられてますぅ」

 そこで一度言葉を止めた流子。

「喉が渇いてきたのでぇ、お茶を入れてもいいですかぁ?」

「あぁ、そうだな。少し説明も長くなるしそうしようか」

 立ち上がった古川 美咲(フルカワ ミサキ)。
 先に歩く流子に続いて別の部屋に移動していく。

「義彦君、悠斗君に説明してあげてね」

「わかった」

 白紙 彩耶(シラカミ アヤ)も義彦の返事を聞くと流子、古川の後についていった。
 悠斗に顔を向けた義彦は説明を始める。

「このネーミングはどうかとは思うが。白の子は光白因子、黒の子は闇黒因子と言う名称で呼ばれている。このどちらかもしくは両方を持っている人間は、極稀にいるらしい。方向性は別にして、この因子を持つ人間は、強大な力を持つ事が多い。だが強大な力と言うのは制御する事が難しいんだ」

 そこで白紙 元魏(シラカミ モトギ)が、更に説明を付け加えた。

「補足するとね。光白因子は、光の属性や再生、復元に関する力をもたらす事が多いそうだ。逆に闇黒因子は、闇の属性や破壊、消滅に関する力をもたらす事が多いらしい。そうは言ったものの、この二つの因子も比較的最近検出されたから、詳しい事はまだわかっていないんだ」

 コップに冷えた緑茶をいれて、女性陣三人が戻って来た。
 全員喉が渇いていたのだろう。
 コップを配り終わり、席に女性陣が座る。
 すると、それぞれがそれぞれのペースでコップに口をつけた。
 一息ついた所で、流子が悠斗に顔を向ける。

「悠斗君、この二つについてはぁわかりましたかぁ?」

「はい、とりあえず」

「それじゃぁ説明を続けますねぇ。所長、悠斗君がここにいるってことはぁ、彼にも説明して言いって理解でぇいいですよねぇ?」

「あぁ、問題ない」

 古川の言葉を確認した流子。

「この二つの因子の存在もぅ、これから話す事もぅ、機密事項なのでぇ、悠斗君も他の皆も他言無用にお願いしますねぇ。うっかり誰かに話した事がばれちゃうとぅ、所長直々の、それはもう死にたくなるようなぁ、お仕置きが待ってると思いますよぅ」

「流子、くだらない事言ってないで説明を始めろ」

「もう今日の所長はいけずすぎなんですぅ」

「いいから本題に戻せ」

「はぁい。それじゃぁ続けますけどぅ。暴走をして事件を起した長谷部さん、羽場さんの血液からぁ闇黒因子が比較的微量なんですけどぅ、検出されたんですぅ。そればかりじゃなくてぇ、一年前のとある一連の事件の時にも暴走した方々もいましてぇ、確認出来た限りは、その時の加害者からもぅ、どちらかの因子が検出されていたんですよぅ」

 話しの全部、もしくは一部ははじめて聞くのだろう。
 所長と流子を除く、悠斗以外の三人も少し驚いた表情をしている。
 そこで一度区切った流子は、緑茶を一口飲んでから続けた。

「詳細は省きますけどぅ、黒の子をお持ちのある方の協力を頂いてぇ、調べてみたんですぅ。そうするとどうやらぁ、力を持て余してぇ攻撃的になってしまうようなんですぅ。ちなみに人体実験はしてませんよぅ。残念ながら白の子の方は、いろんな事情がありましてぇ、実験は出来てないんですけどねぇ。過去の事件の結果とかも含めて考えるとぅ、この因子のどちらか、もしくは両方を持っているとぅ、暴走する可能性が高いようなんですぅ」

 その話しに表情が強張り、驚愕している悠斗。
 他の面子はある程度予測していたのか、そこまで驚いてはいないようだ。

「調べ始めたばかりなのでぇ、断言は出来ないんですけど、錠剤から検出された白の子も黒の子もぅ、劣化しているようなんですよねぇ。その原因は錠剤の精製方法にあるのかぁ? それともまた別の理由なのかはわかりませんけどぅ。だからたぶんなんですけどぅ、錠剤の持ち主の三人の血液を調べると、劣化した白の子か黒の子が検出されると思うんですぅ。とりあえずぅ、今の所の報告は以上になるんですぅ」

 流子は古川に視線を送った。

「流子、報告お疲れ様。今の話しはさっきも流子が言ったが、機密事項なので他言無用だ。この因子を知っているのも、私を含めここにいる六人と、極一部の人間に限られるからな。悠斗君も他言無用でお願いする」

「・・・わかりました。でも何で僕をこの場に?」

 予想もしていなかった話しの内容。
 内容を飲み下して理解するのが追いついていない。
 しかし彼は、疑問に思った事を聞く事にした。

「そうだな。悠斗君には知っておいて欲しかったからだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「それは僕にも、そのどちらかの因子があるかもしれないって事ですか?」

「そこはどうだろうな? もし不安ならば、流子に調べてもらえばいい。少なくとも現時点では、悠斗君が因子持ちかどうかは私にはわからないな」

「・・・そうですか」

「悠斗君、調べますかぁ?」

 あいかわらず眠そうな流子。

「・・・どうしても気になったらお願いします」

「わかりましたぁ」

 そこで一同を見渡した古川。

「何か意見、疑問はあるか?」

 そこで義彦が手を上げてから口を開いた。

「流子はあえて伏せたのだろうが、闇黒因子の協力者ってのは俺の事だ」

 その言葉に仰天したのは悠斗ばかりでは無い。
 元魏も彩耶も、驚いた理由が同じかはわからないが、唖然としている。
 言い出した当の本人。
 別段何を思うこともないのか、いつもの表情のままであった。

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1991年6月9日(日)PM:21:59 中央区環状通

 黒い振袖を着た三人。
 白髪の少女が歩いている。
 六つに分けられた長い髪。
 その先についている髪留めは黒紫。
 ただし、三人でそれぞれ形状が異なっていた。

 振袖の柄も似ているようで、違っている。
 真ん中の少女は黒百合。
 黒蝋梅の柄は左を歩く少女。
 右を歩く少女が黒風露だ。

「報告は私だけで行きましょう。二人はしばらく見学してるといいと思います」

 三人共レ文字を、逆さまにした、黒いケースを持っている。
 形だけを見ると、大鎌に見えるだろう。
 振袖に謎のケースと少しミスマッチだ。

「わーい。散歩歓迎! あんまりゆっくり見る時間なかったもんねー!」

「了解しました。子守はお任せ下さいませ」

「子守ってなんだー!? 子供じゃな、あ、子供だった」

 冷静沈着な少女と、天真爛漫な少女の遣り取り。
 真ん中の少女は少しだけ微笑んでいる。

「古川さんはいろいろと大変のようです」

「うん、わかってるー。だから私達が来たんだよね」

「予定外の仕事により、遅くなってしまいましたが」

「そうですね。古川さんも、到着したばかりの私達に頼むのが非常に申し訳なさそうでした。私のこれは預けますね」