102.鑑定-Estimation-
1991年6月10日(月)PM:12:12 中央区大通公園一丁目

「これまた面白いもんがいるじゃねぇか? でけぇ蜘蛛に蜥蜴人間か? 有賀に村越、波野、倉方の四人は鰐の方か」

 俺は刀間 刃(トウマ ジン)。
 こんなんでも、防衛省特殊技術隊第四師団第三小隊隊長。
 正直闘えれば、何でもいいのだけどな。

 後藤さんや形藁の野望だか野心だか。
 そんなものはどうでもいいんだ。
 戦闘狂って奴なんだろうな。

「ルシアありゃなんだ?」

「蜘蛛は巨大凶蜘蛛(ジャイアントイビルスパイダー)、蜥蜴人間は闇鰐人(ダーククロコダイルマン)です。どちらも武闘派で弱点はありますけど、私達ではどうしようもない弱点なんで無視です」

 こいつは野流間(ノルマ) ルシア。
 俺の小隊の一人で、情報収集係であり後衛。
 両目とも魔眼で、左の黄色の瞳の方が鑑定眼。
 右目は秘密らしく、知らん。

 どうゆう風に見えてるのか。
 何度か説明を受けたが、よくわからん。
 どうも、対象の名前や特性とかがわかるらしい。

「刃、蜘蛛に行くんだろ? 左から行くぜ」

 今の男は、鎗座波 傑(ヤリザワ スグル)。
 彼も俺の小隊で、前衛の一人。

「それじゃあ、おいらは右からだな」

 今しゃべったのも前衛の一人。
 丸沢 智樹(マルサワ トモキ)という名前だ。

 俺達第三小隊の前衛は、全員が刀使い。
 後衛のルシアのみが弓。
 全員が戦闘狂だ。
 だから、今までのほとんど戦いのない生活。
 正直かなりうんざりしてた。

 同じ戦闘狂でも、それぞれ方向性が異なっている。
 俺は純粋に強い奴と戦う事が好きだ。
 勝敗はどうでもいい。

 ルシアは命をかけて闘うぎりぎりの死線。
 その快楽の中で勝つのが好きらしい。
 傑は刀で戦い、斬るのが楽しいとの事だ。
 智樹は戦いで、血を見るのが好物だそう。

 だから、今回のでかい蜘蛛退治。
 心底楽しんでるのは俺だけかもしれない。
 それでも、三人とも文句一つ言わなかった。
 俺に付き合ってくれてる。
 ありがたい仲間達だ。

 そんな俺達の獲物。
 巨大凶蜘蛛(ジャイアントイビルスパイダー)は三メートル位はありそうだ。
 丸太のようにぶっとい歩脚を繰り出してくる。
 その一撃は、容易にコンクリートの地面を穿ち、砕いていく。

 黒い八つの目のうち、二つだけが大きい。
 禍々しい程の、艶の無い黒い体色。
 歩脚の先や体の一部に、紫や金が混じっている。

 巨体のなせる業なのだろうな。
 尋常じゃない硬さで、動きもその体の割りにすばしっこい。

 毒持ちなのだろう。
 こいつに齧られたとおぼしき死体。
 その一部が、おかしな色に変色してやがる。

 それにしても、こんなでか蜘蛛は見た事ないぞ。
 この蜘蛛、でかいくせに動きもはやい。
 それにやっぱり結構かてえな。
 でもこうゆうのを待っていた。
 こりゃ久々に超楽しいぜ。

 振り下ろされた蜘蛛の右の第一脚。
 紙一重でかわして、縦一文字に切り上げた。
 そこに、ルシアの弓から放たれた、風の力が込められた矢。
 数発突き刺さった。

 右の第一脚を失った奴。
 痛みを感じているかのように後ずさった。
 その間に背後に回った智樹。
 右の第四脚を切り落としていた。
 更に左側に回りこんでいる傑。
 左の第一脚を根元から断ち切る。

 少し動きの鈍ってきた蜘蛛野郎。
 火を纏った矢が本体の顔目掛けて殺到し、突き刺さった。
 いくつかの矢が、その巨大な目を潰しただろう。

「一気に片付けるぞ」

 俺の言葉に、前衛の二人は少し距離を取る。
 刀を脇構えの位置に置いているはずだ。
 俺も同様に脇構えの位置に刀を構える。

 力を溜め終わった刀を斬り上げた。
 刃から放たれた力が、蜘蛛野郎に突き刺さる。
 紙でも斬り裂くように減り込んでいく。
 奴の体のかなり奧まで、その力で斬り裂いた。
 体液が傷口から零れる。

 三人に斬られちぎれたらしい。
 でか蜘蛛の前の部分だけが近づいて来た。
 しかし、それもしばらくじたばたした後に、動きをとめる。

 鰐野郎六匹に向っていった第一小隊の面々。
 ふとそちらの方を見ると、既に全滅させていた。

 今一度上に視線を向ける。
 誰がが呼び出したのか知らん。
 だが黒い球から、再び何かが落ちてくる模様。

 闇鰐人(ダーククロコダイルマン)がざっと二十匹位。
 空から降って来るな。
 降って来るなんて事態。
 それそのものが、そもそもおかしいっちゃおかしいけどな。

 出現位置が悪かったのだろうな。
 テレビ塔にぶつかって転がり落ちてやがる。
 そのまま絶命してるのもいるようだな。

 テレビ塔って150メートルぐらいか?
 そう考えると、最低でも四十階はある高さから落下してるわけか。
 人間なら間違いなくグチャグチャだな。

 比較的近くに転がっている闇鰐人(ダーククロコダイルマン)。
 その足を見ると、所々腫上がっている。
 骨折でもしてるんだろうかね。

 でか蜘蛛もこの鰐顔も、実際は手負いだったのかもしれねぇな。
 再び黒い球を見ると、更に追加で降ってきてるようだ。

 俺達第三小隊と、有賀率いる第一小隊。
 再び異形の群れとの戦闘を開始する事になる。
 しかし、落下した体勢が悪いのもいるようだ。
 そのまま絶命したり、もがき苦しんでいるのもいた。

 奴らにも痛みなんてものがあるんだな。
 そう思うと、なんか憐れに思えてくる。

 ここにいる面子で唯一、遠距離攻撃可能なルシア。
 矢を番えて狙撃している。
 だけど、どんどん降って来るから焼け石に水だな。

 ルシアに近づいてきた鰐野郎。
 斬り伏せながら、俺はそんな事を思った。
 まさに終わり無き戦いだよな。
 あの黒い球が消失でもしない限り、エンドレスか。

 また一匹首を刎ね飛ばした。
 ふと降って来るあいつらを見る。
 すると、破裂している奴や消滅してる奴がいた。

 第四小隊が狙撃しているっぽいな。
 方角から考えて、二箇所に別れているんじゃないか。
 俺はまた一匹、袈裟懸けに斬り裂いた。

 周囲を見渡してみる。
 ざっと三十匹はいるだろうか?
 第一小隊と、俺達の方が個々の戦闘力は現段階では上。
 なんだが、こんな消耗戦だといつまで持つやら。

 迫ってきた一匹を、縦一文字に斬り裂く。
 離れた所で着地した奴を見ると、突然拉げて潰れた。
 他にも、干からびてる奴もいるな。
 第三小隊も、さすがに四人全員で狙撃してるのか。

 それを見たルシア。
 俺達を援護する形で、矢の標的を変更して射始めた。

 これなら何とかなるんじゃないか?
 俺自身は楽しいからいいんだけどよ。
 あいつらに先に死なれるのだけは勘弁して欲しい。
 だから、第四小隊の援護は正直ありがたいぜ。

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1991年6月10日(月)PM:12:28 中央区南一条通

 私は、南一条通りを北に向かっている。
 時間が経過しているからだろう。
 乗り捨てられた車が、ちらほら見える。
 しかし、思った程、混乱には陥ってなかった。

 イシュテバンを倒した。
 その後、 私は対面した先生に状況を説明。
 説明が終わってから、茉祐子と顔を会わせた。

 負傷した事について、小言を言われるとは思わなかったけども。
 それだけ心配してくれたという事だろう。

 血が繋がらないとはいえ妹なのだ。
 心配掛けないようにしないとな。

 先生方も、テレビのニュースで大通の状況は理解していた。
 しかし、子供達を帰宅させるべきか。
 事件が終息し、安全になるまで、学校で待機するべきか。
 どうやら判断に迷っていたようだ。

 関係各所に電話をしても繋がらない。
 そのままでは、情報収集すら難しかったそうだ。

 とりあえずの妥協案として、一番頑丈に見える体育館。
 そこで篭城してみる事を提案してみた。

 保険医に傷の手当てをしてもらった。
 その後に私は、茉祐子に、全て終わったら迎えに来る事を伝えた。
 学校を後にした為、その後の先生方の判断はわからない。

 ちなみに、イシュテバンは、近くに交番があった。
 なので、制服警官に掻い摘んで説明。
 手錠をかけてもらい、預かってもらっている。

 あのダメージならば、いくら狼化族といえども数日は動けまい。
 交番の警察も確認しようとした。
 しかし、電話が通じない為、確認する事も出来ないようだ。
 念の為、私が戻るまでは、近づかないように念押しをしておいた。

 それでも、狼化したイシュテバンという実物がいる。
 見れば信じるしかないだろう。
 一度狼化した場合は、例え死んだとしても戻らないのは知っていた。

 気絶しても戻らないのは知らなかったな。
 一体どんな原理で、狼化したり人に戻ったりしているだろう。
 正直謎だな。

 目的地の近くに着いた私。
 その有様に絶句した。

 眼前に、死屍累々と広がる、異形の姿の二足歩行の死体。
 そして、その中で戦い続けている、血にまみれた人間達。
 頭が真っ白なまま、何がどうなってるのか。
 即座に考える事は出来なかった。