| 108.激憤-Resentment- |
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1991年6月10日(月)PM:12:00 中央区西七丁目通 「今の感じは結界か? 何の為に?」 信号で停止している車。 三井 龍人(ミツイ タツヒト)は眉に皺をよせた。 違和感から十秒ほど経過。 更に別の違和感を彼は感じる。 それは、自分に向けられる敵意という名のプレッシャーだ。 「おいおい、殺気立ってる奴がいるな? あの女か?」 少し明るめの金髪の女性。 歩道から彼に殺意の視線を向けている。 彼女の服装は、膝丈のジーパン。 KILLとプリントされたティーシャツに、半袖のジージャン。 スタイルもよく、その胸にある双丘も小さくはない。 「何処かでみた事あるな? 何処だ・・・」 自らの記憶にある人物ファイル。 その中の一つを取り出した龍人。 「【獣乃牙(ビーストファング)】の副団長の一人、ファーミア・メルトクスル・・・。どう見ても視線が俺を見ているな。獣に刈られる兎は俺って事か? このまま逃げるか・・・。いや、そんな甘い相手じゃないか・・・」 青に変わった信号。 右折した龍人はハザードをつけた。 車を駐車し、外に出る。 角を曲がり歩いて来る先程の女性。 明らかに、龍人目掛けて歩いて来ている。 そして、指呼の距離になった二人。 「【獣乃牙(ビーストファング)】副団長、ファーミア・メルトクスルか。写真で見たのよりいい女じゃないか。その殺気がなければ口説いてみたい所だね」 微笑んでいる龍人。 怯える様子もなく、そう口にした。 ----------------------------------------- 1991年6月10日(月)PM:12:35 中央区大通公園一丁目 テレビ塔正面で、戦闘中の特殊技術隊第四師団。 第一小隊と第三小隊が戦線を維持し続けている。 彼等がいなれば、大惨事になっていただろう。 空から止め処なく降って来る妖魔達。 押し留めている間は、休憩すらままならない。 多勢に無勢過ぎるのだ。 総勢で八人だけでの戦い。 テレビ塔正面の戦線を維持し続ける。 直ぐに限界が訪れるのは、誰が見ても明らかだ。 第四小隊の隊長、色名 緋(シキナ アカ)。 隊員のうち二名を大通の東側に配置。 隊員の色名 鳶(シキナ トビ)を連れ、自分は大通の西側に陣取る。 テレビ塔を中心に、直線になるように配置をした。 一九八九年より、自衛隊に配備開始されたアサルトライフル。 89式5.56mm小銃。 それを魔術仕様に、試験的にカスタム化した銃。 89式5.56mm小銃WC。 各師団毎に四丁納入されている。 テスト途中のものだ。 それを使い、戦線の維持に一役かっていた。 弾そのものに魔力を込めている。 とはいえ、実弾には変わりない。 事前に相当数用意していた。 にも関わらず、既に予備のマガジンはストックがない。 予想以上の出現数だったのだ。 それでも、一体でも数を減らす為に撃ち続ける。 少し離れた場所にいる鳶。 おそらく、同じ事を考えているのだろう。 黒い球から、飛び出して来る妖魔達。 それは少し前から途絶えていた。 赤毛の少女は無表情のままだ。 ただ、心の中で、ミッションコンプリートも近い。 そう考えていた。 少女の隣にいる鳶。 向え側にいる二人の隊員、色名 砂(シキナ スナ)と色名 鶸(シキナ ヒワ)。 そして、最前線で戦っている、第一小隊と第三小隊。 彼等も同じ事を思っているだろう。 しかし、現実はそんなに甘くはなかった。 黒い球から再び出現し始めた妖魔。 蛇のような頭。 蝙蝠のような翼を持ち、鷲のような鉤爪の生物。 色は禍々しいまでの黒。 十年前の東京。 特殊技術隊第一師団を壊滅寸前まで追い詰めた。 そう言われている黒翼竜(ブラックワイバーン)。 今まで出現していた妖魔とは違う。 空を滑空する事も可能な、空想上の存在とされる生物。 緋は無表情のまま狙撃を開始。 しかし、空を移動する相手だ。 銃弾を当てるのは、中々に難しい。 その中の一匹が、緋に狙いをつけ、滑空してくる。 手元に置いておいた89式多用途銃剣。 咄嗟に構えて一撃目を防ぐ事は出来た。 緋を守ろうと走ってくる鳶。 迫る鉤爪、無慈悲にも降りかかってくる凶爪。 弾かれた、多用途銃剣。 再び、迫り来る禍々しい爪。 吹き飛ばされた緋。 ただ見ているだけしか出来ない。 同じように群がってくる黒翼竜(ブラックワイバーン)。 下のほうから飛んできた紫の雷。 迫っていた黒翼竜(ブラックワイバーン)を撃ち抜く。 その体を焼き焦がしていった。 周囲にいた他の個体も、同様に撃ち抜かれている。 緋達とは、テレビ塔を挟んでほぼ反対側にいた砂と鶸。 彼女達の視線にはいってきた光景。 黒翼竜(ブラックワイバーン)追跡するかのように、突き刺さった光。 その剣状の光は、いくつもが周囲を飛び交っている。 制空権を主張している、他の黒翼竜(ブラックワイバーン)。 それらをも蹂躙し始めていた。 弓で応戦していた、野流間(ノルマ) ルシア。 鉤爪の一撃を喰らい、弾き飛ばされた。 彼女を助けようと、走り出した刀間 刃(トウマ ジン)。 自分を狙っている黒翼竜(ブラックワイバーン)を無視した。 ルシアに噛み付こうとしていた黒翼竜(ブラックワイバーン)。 他にも、低空飛行していた黒翼竜(ブラックワイバーン)達。 それらを全て、放たれた無数の刀閃が、一刀両断していく。 「彩耶、惠理香、ここはまかせた。私は黒球の元凶をとめてくる」 刀を持つ女性から放たれる刀閃。 比較的低空飛行の翼竜を、斬り裂く。 もう一人の、小柄な女性から放たれた剣状の光。 高空の翼竜を追尾貫通し、屠っていく。 また、二人が仕留め損ねて大地に墜落した奴ら。 その後に来た五人の新米っぽい者達。 彼等が、それぞれの武器を手に相手をしていた。 「自衛隊? いや第四師団ね。私達は特殊能力研究所よ。あなた達は一度撤退した方がいいと思うわ」 「な・何故? 第四師団だと?」 「略章を見ればわかるわ」 刃はそこでやっと、自分が間抜けな質問をしている事気付いた。 「彩耶、奥の方は?」 小柄な女性の質問。 簡潔に答える白紙 彩耶(シラカミ アヤ)。 「彼女達三人が」 「それじゃ、大丈夫そうね」 先程の彩耶の言葉。 唇を噛み締める第三小隊隊長の刃。 だが、彼女の言う事は正しい。 刃も頭では理解している。 だが、彼も一人の刀使い。 わかっていながら、心では受け入れられないのだ。 だが、仮にも隊長という立場である。 隊員達の命がかかっていた。 彼の内心を理解したのかはわからない。 先に命令を下したのは、第一小隊隊長の有賀 侑子(アリガ ユウコ)。 「第一小隊は、特殊能力研究所の協力に感謝し、一時撤退する」 そんな彼女の表情を見てしまった刃。 有賀の顔には、悔しさが滲み出ている。 だからこそ、刃も決断した。 「第三小隊も、第一小隊と協力し撤退する。傑は柚を、智樹は漣に手を貸してやれ。俺はルシアを連れて行く」 「「了解」」 重なった鎗座波 傑(ヤリザワ スグル)と丸沢 智樹(マルサワ トモキ)の声。 先程から狙撃の方も途絶えている。 第四小隊も撤退済みなのであろう。 刃は、目の前で繰り広げられている戦闘を見ている。 自分の能力を超えた戦いに、歯噛みするしかなかった。 ルシアに手を貸しながら、視線を上に向けた刃。 黒球はその場を動く事もない。 ただ妖魔を吐き出すために、その場に浮いている。 何か目的があるわけでもないのだろう。 意志も意思もないのだから当然の事だ。 黒球のその真下、テレビ塔。 眼下の光景を眺めていた赤紫の髪の女性。 彼女は既にいない。 誰かに気付かれる事もない。 いつの間にか、その場を立ち去っていた。 その更に真下、テレビ塔のエントランスコート。 南口から突入した古川 美咲(フルカワ ミサキ)。 血にまみれて転がる幾つかの死体。 そして予想外の妖魔がそこにいた。 過去の出来事が頭を過ぎる。 黒い体色に、一メートル程の大きさの蝿。 前肢が鎌のようになっている。 「まさかこんな所で闇鎌蝿(ダークサイスフライ)と再会するなんてな」 古川に気付き翅を広げたそれ。 前肢の鎌をもたげて襲い掛かってくる。 ≪斬≫ その一言で一刀両断される。 左と右に分断された闇鎌蝿(ダークサイスフライ)。 しかし、その音に気付いた闇鎌蝿(ダークサイスフライ)が二匹。 左右から突っ込んできた。 振り上げられた鎌。 挟み撃ちの状態だ。 古川は取り乱す事もない。 ≪連斬≫ あっさりと細切れにされた二匹の闇鎌蝿(ダークサイスフライ)。 その結果を見る事もなく、階段を駆け下りていく古川。 踊り場を過ぎ、視界にはいるテレ地下グルメコート。 血にまみれ、倒れている人間達、既に事切れているようだ。 人間達に群がり、食事をしている闇鎌蝿(ダークサイスフライ)が八匹。 その光景を見た古川。 彼女の脳裏に浮かんだのは、かつての記憶。 闇鎌蝿(ダークサイスフライ)の大群に襲われた村。 阿鼻叫喚と化したとある村の姿。 彼女の怒りは、冷静なまま、一瞬にして沸騰し沸点を超えた。 ≪連雷≫ ≪狙撃≫ 八つの雷が解き放たれた。 外れる事なく、八匹の闇鎌蝿(ダークサイスフライ)に直撃。 貫かれた闇鎌蝿(ダークサイスフライ)。 膨大な熱量により、瞬時に水分を水蒸気にされ破裂していた。 その膨大な熱量は、通過した床や天井を焦がしている。 通過した軌跡を色濃く残してた。 苦悶の表情のままの古川。 沈痛な面持ちで、中央まで歩いた。 「魔力の発生元は更にこのずっと下か。この感じだと少なくとも数百メートルは地下だな」 苦悶の表情の古川。 再び彼女は、階段を駆け上がっていった。 |