レンズ設計の大半は「収差補正」に時間を費やしますが、多くの時間がかかる理由は結像性能(解像度・周辺光量比)を上げるために、レンズ系を構成するパラメータ(曲率半径、レンズ間隔・肉厚、硝種、有効径、非球面係数)の数値を、試行錯誤で探しているからです。また試行錯誤する理由は、結像性能に影響する各収差がレンズパラメータに対して非線形であり、且つ結像性能が仕様を満足するためのパラメータの構成がひとつに決定できないからです。
パラメータを決める作業は最適化と呼ばれ、数学的には非線形連立方程式を解くことと同じになります。解を求めるにはまず方程式を作ることが最初の作業になりますが、各方程式は収差として定義され、現状値、目標値、ウエイトの設定が必要になります。また連立方程式の解の収束度はメリットファンクション(評価関数)で定義され、一般的には最小二乗法の原理が採用されており、この値が0に近づくほど方程式の解が収束していきます。
最適化計算方法の種類は大きく分けて2種類あり、ひとつはパラメータの広い範囲からメリットファンクションの極値を探すグローバル最適化であり、もうひとつは比較的狭い範囲から極値を探す最適化方法です。これらの方法はそれぞれ一長一短がありますので、初期段階はグローバル最適化、ある程度レンズ形状が決まってきたら局所的な最適化と、場合によって使い分けるほうが効率的です。
メリットファンクションを作成して、最適化計算方法を選択すれば、自動計算を開始することができます。自動計算を実行すると、メリットファンクションで設定された収差を自動で目標値に近づける作業を行います。この一連の作業が自動計算を使用した「収差補正」になります。また必要に応じて感度表を参考にしながら手動でレンズパラメータを修正することも「収差補正」に含まれます。
「収差補正」を行ったレンズデータについて「特性・性能の評価」を行います。通常評価基準値は要求仕様値が使用されますが、それに加えて単品レンズ外観形状等の部品加工・組立条件も考慮して評価されます。
「特性・性能の評価」において仕様達成度が評価されますが、達成度が基準を満足しなければ、「メリットファンクションの設定」に戻り、収差の指定や目標値・ウエイトの設定値を見直します。場合によっては「レンズデータの変数設定」まで遡って見直すこともあります。
「最適化計算」と「特性・性能の評価」を仕様を満足するまで繰り返し、仕様を満足すると判断した時点で「収差補正」は完了となります。
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