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染色体異常:産廃不法投棄現場のノネズミで発見

 青森、岩手両県にまたがる全国最大規模の産業廃棄物不法投棄現場に生息するノネズミに高い頻度の染色体異常があることが、弘前大学農学生命科学部の小原良孝教授(細胞遺伝学)と京谷恭弘研究員の調査で分かった。ロシアの化学薬品工場周辺のネズミで染色体異常が報告された例があるが、国内の野生生物でまとまった染色体異常が見つかったのは初めてという。小原教授は「直ちに人間に影響するとは言えないが、早急に他の野生生物を調査する必要がある」と話している。

 山や田畑に穴を掘ってすむノネズミの一種、ハタネズミを青森県田子町の投棄現場で30匹採取し、大たい骨の骨髄細胞の染色体を調べた。うち2匹は通常15対30本の染色体が31本あった。また、計1500細胞(1匹あたり50細胞)を調べたうち、染色体の切断や破損、別の染色体との交換などの異常が79件(1匹平均2.63件)もあった。

 比較のため現場から2キロ離れた場所の15匹を調べたが、染色体数異常のネズミは見つからず、染色体の切断や破損なども1匹平均0.8件にとどまっていた。

 地中で汚染物質を食べたり、体に直接接触したりした影響と考えられるという。現場ではダイオキシン類、ベンゼン、トリクロロエチレン、ジクロロエタン、フッ素などさまざまな化学物質が検出されている。今のところ原因物質は不明。

 小原教授は「青森県は10年がかりで撤去する方針だが、早急に撤去すべきだ。また、困難ではあると思うが、原因物質の特定もすべきだ」と話している。

 研究結果は10月に神奈川県厚木市で開かれる日本哺乳(ほにゅう)類学会で発表される。

 ◇青森県、公表せず

 染色体異常の研究結果は今年3月、青森県県境再生対策室に報告された。しかし、県は結果を公表しなかった。三浦康久室長は「染色体異常は重要な情報とは思ったが、県が責任を持って調査したものではないので公表しなかった。隠ぺいする意図はない。(不法投棄現場の)田子町民に知らせる必要はないと判断した」としている。

 【石川宏】

 ◇生態系の影響心配 北海道大学大学院の鈴木仁・助教授(生態遺伝学)の話 

 廃棄物に含まれるダイオキシンなどの有害化学物質に汚染された草を食べたのが原因だろう。ネズミを食べるキツネやイタチ、タカやフクロウなどでは生殖機能の低下などが起こる可能性もある。生態系全体への影響が心配で、食物連鎖を介した汚染物質の流れや生物への蓄積状況を早急に調べる必要がある。

2004年6月26日付「MSN毎日インタラクティブ」より

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