魚菜王国いわて

漁業無線が危ない

漁業無線は、主に短波帯を利用しており、特に27MHz帯は、基本的な周波数帯です。
その短波帯に、「何でもIT主義」から脅威が差し迫っています。
電灯線インターネット、という言葉を耳にしたことがあるかと思いますが、電灯線の短波帯周波数利用により、その漏洩電波が、通常の短波利用に影響を及ぼすというものです。
短波帯は、漁業無線のほかに、短波ラジオなどたくさん利用されています。
漁業無線については、船間でのやりとりでは問題ないと思います(海上の船まで届くような漏洩電波ならば、はっきり言って使い物にならない)が、陸上局との通信で、もし多大な影響が出るならば、それは大変な問題です。
緊急時の連絡などに支障をきたすからです。
この問題を指摘した北川勝浩大阪大学大学院教授の文章を転載します。

問題が再燃した発端の「e-Japan戦略?」
内閣の「IT戦略本部」は、我が国が2005年に世界最先端のIT国家となることを目指して、2001年に「e-Japan戦略」を策定した。この中で、電力線を利用したブロードバンド並のインターネット接続、いわゆるPLC(Power Line Communication)の導入について触れられていたのだが、これが短波帯に悪影響を及ぼすのでは、と大きな波紋を呼んだ。各方面から反対の声が上がったため、このまま下火になるものと思われた。
が、第2弾として2003年7月に策定された「e-Japan戦略?」に「高速電灯線通信の推進」が盛り込まれたため、PLCを巡る動きが再び活発化している。「e-Japan重点計画2003」では、「無線通信や放送等への影響について実用上の問題の有無をできるだけ早期に検証するため、2003年度中に無線通信に影響を与えない方法で、漏洩電波低減技術に関する実験を実施できるよう措置する」とされ、法令改正案とそれに対するパブリックコメント(以下、パブコメ)の結果が公表された。
確かに高速電力線通信を使えば、電源コンセントがすべて情報コンセントとなって家庭内の情報ネットワークが簡単に接続でき、家電製品やパソコンのインターネットへの接続も容易になるだろう。しかし、電力線に数十Mbpsもの高速の信号を通すと、電力線から短波帯の電波が漏れ出して、短波放送や通信に混信を与えてしまう危険が高い。このため、短波利用者は問題に無関心ではいられない。高速電力線通信を巡るここ1?2年の動きを、短波受信者からの観点でまとめてみよう。
ブロードバンドを狙う新たな電力線通信
既設の電力用配線を使った低速PLCは昔から存在しており、放送や通信に妨害を与えないように、450KHz以下に制限されている。今、問題になっているのは、これをADSL並に高速化してインターネット接続に利用する高速PLCである。2?30MHzを使って数Mbps?数十Mbpsの通信を行うシステムが開発されており、新たな配線をすることなしに家庭まで一気にブロードバンド化するというのが、謳い文句である。
しかし、電力線はADSLの電話線よりも伝送路として劣悪であるし、ましてやシールド効果はない。そこで問題になるのが、電力線からの漏れ電波である。
電波は人類共通の貴重な資源であり、混信を避けて有効に利用するために、その使い方やルール(無線通信規則)が国際連合の専門機関である国際電気通信連合(ITU)によって定められている。そして短波帯はITUによって放送や無線通信に割り当てられ、ほぼ隙間なく使用されている。短波利用者が強い懸念を持って反対しているのは、高速PLCそのものではなく、高速PLCからの漏洩電波による妨害なのである。
妨害電波への措置は国際的な義務である
しかし、電力線の高周波特性は個別の設置状況に大きく依存するし、どんな状況でも絶対に妨害を与えない高速PLCというのはあり得ない。たとえ妨害を与える確率が低くなったとしても、本質的な問題は残る。このような免許を要しない高周波設備からの妨害は、被害者側からその原因・加害者を特定する手段が全くなく、事実上、回復不可能(泣き寝入り)となってしまう。また仮に原因が特定されても、加害者の責任の自覚がなければ、解決は著しく困難である。
多数のPLCの漏洩電波の総体による妨害の場合、事態はさらに深刻だ。このような危険性をはらむ製品を広く一般家庭に普及させれば、短波帯がなし崩し的に使用不能となることは想像に難しくない。漏洩電波の問題を解決しない限り、高速PLCに未来はないだろう。
ITUの無線通信規則では第15条で混信について定めているが、その第12項は主管庁に、電力線や通信線を含むいかなる電気設備も無線通信に有害な干渉を与えないことを保障するため、必要な措置を取ることを義務付けている。無中継で国際通信が可能な唯一の周波数資源であり、大災害や武力紛争など危機的状況において最後の命綱となり得る短波帯を、PLCの漏洩電波で使用不能にして良いはずがない。(以下省略)
(「ラジオライフ」2004年2月号p34)

一応引用はここまで。
記事によると、このPLC短波帯利用に反対する人たちは、ハム、BCL、電波天文学者、警察庁、防衛庁、海上保安庁、国土交通省などです。
で、パブリックコメントのことが引用中にありましたが、そのコメント総数676件のうち556件が反対で、82%にも及びます。
それにもかかわらず「e-Japan」の修正は、全くなされなかった模様です。
実は、ここにも、開発者と企業の思惑があるんじゃないかなあ、と思うような記事が載っています。転載します。

2003年7月25日の日刊工業新聞によると、電力会社や経済産業省、慶応義塾大学の村井純教授と武藤佳恭教授の働きかけによるものという。
そういえば、東洋通信機が慶応義塾大学と共同で光の2倍の200Mbpsの高速PLCを開発したというニュースで、東洋通信機の株価がストップ高したことがあった。そして前述の武藤教授は『週刊新潮』でPLCの放送への影響を、「電波漏洩の問題が万一起きても、原因の電波だけ止められるのです。電力線搬送が無線やテレビに影響を与えるとは全く思えませんが」と否定している。
(前掲書p36)

漏洩電波を止めることによって、この200Mbpsの速度は本当にでるのだろうか?と筆者(北川教授)は疑問を呈しています。
さらに、セキュリティの問題や家庭電化製品遠隔制御の安全性に対する問題も指摘されています。
確かに家庭電化製品を電灯線インターネット、あるいはLANで遠隔制御できるのは便利なんですが、その誤動作が怖い。
ただの作業でもハングアップ(フリーズ)してしまうマイクロソフトのOSでは、他の機器を信頼して制御するには不安過ぎます。
たとえ、Linuxでもそうです。
実は、今のLinuxも、多機能になりすぎ、やはり機能不全に陥ります。
OSが落ちる、ということはありませんが、各ソフトを動かしていると、どうしてもソフトが動かなくなることがあるのです。
Linuxの場合、UNIXの知識の豊富な人は対応できますが、私の場合はそれなりのバカなので、できません。
独力でソフトの動作不安定に対応できない、ということは、WindowsでもLinuxでも同じであり、そのような理由から私の場合、使い慣れたWindowsを使っているわけです。
Windowsは、ソースコードを明らかにしてませんから、本当はLinuxを勉強すればいいんでしょうが、そこまで普通の人は暇じゃないでしょうし、私のようなバカもたくさんいると思います。
そんな人間が全面的にパソコンを信用するということは、極めて危険なわけで、便利さの追求のあまり、事故が起きたら取り返しのつかないことになります。
結論は、PLCはそれほど必要性はない、ということ。
さて、先ほどの記事が掲載されていたラジオライフに、海外のPLCのことも書いています。

日本で高速PLCが使えないのは、規制緩和が遅れているから、という論調がある。しかし、問題は規制の有無ではなく、妨害の有無である。欧米各国では既に商用化が始まったという報道もあるが、実態は限られた地域での試行サービスであったり、既に撤退したケースも多い。イギリスでは、BBC、軍を含むすべての短波利用者が反対しているし、一部でサービスが行われたドイツでは、雑音が大きいとして反対が起こっている。アメリカでは、FCCがPLCに対する規制緩和を臭わせたところ、ARRL(日本におけるJARL)、放送事業者、SWL(短波受信愛好家)などから反対を受け、撤回した。PLCのお膝元であるイスラエルでも、無線関係者は反対している。
(前掲書p37)

記事中のFCCは米国連邦通信委員会、JARLは日本アマチュア無線連盟のことで、海外でもPLCは不評のようです。
漏洩電波の計測も、このあとの記事に紹介されていて、やはり影響はかなりあるようです。
なお、これらを極めたい人はこちらのサイトをご覧ください。
HF-PLC Watching Site
(2004年1月6日)



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