魚菜王国いわて

中国の漁業の脅威

まず最初に、古い資料を持ち出します。
「漁村」という漁業雑誌に、ES水産研究所の境一郎氏が連載している「沿岸漁業への夢を描いて」の第87回「日本の漁獲量の五倍となった中国のナゾ」からです。

以前は日本が漁獲量において世界一になった頃がありましたが、1988年以降は中国がずっと世界一の座についています。
日本の沿岸漁場整備開発事業が1974年に制定され、沿岸漁場の生産力増進を目的としました。
200海里の時の1976年から1996年の20年間に1兆600億円かけ、コンクリート、鉄材を中心とした人工漁礁を中心に事業展開してきましたが、沿岸漁業生産量は、この事業開始当初1976年の200万トンから1997年の178万トンへと落ち込みました。
これに対し、中国のそれは、1976年の460万トンから1996年の3,750万トンへと急増しました。
日本でコンクリートや鉄の塊を海に沈めている間に、中国は何をしたのか?
中国では国策として、戦前日本から移植したコンブ養殖による大規模藻場海中林を全国展開したようです。
筆者の境氏は中国最大のコンブ生産地である大連や山東省に行き、沿岸から沖合い15,000mまで広大に連なるコンブ養殖の規模と、日本最大の噴火湾養殖コンブの規模を比較して、そのスケールの大きさに驚いたといいます。
確かに15km沖合いまでとなると日本では考えられません。
山東省だけで日本の全コンブ生産量の12倍。
しかももともと海道産コンブを南でも養殖できるように品種改良も行い、福建省などの亜熱帯海域でも平気でコンブ養殖しています。
ちなみに福建省は夏は40℃、冬は12?13℃だそうです。
中国の海藻生産量は1988年の164万5,000トンから1996年の557万2000トンと3.4倍に増大しており、それに対し日本は80万トンから67万4,000トンと減少しています。
中国の漁獲量はこの同じ18年間で3.6倍に増加していて、コンブ増産の3.4倍とほぼ比例しています。
(「漁村」平成12年3月号)

どうしてコンブ養殖で漁獲量が増大したか?
コンブは炭素同化作用による酸素放出で海中の溶存酸素を増大させ、さらにアンモニア・リンなどの栄養塩類の分解による水質浄化をします。
コンブの成長は極めて早く、したがって、これらの作用が早く行われるわけです。
そのため、海中資源の育成、つまり稚魚、稚貝の育成に好条件となり、さらに、コンブ養殖の時期と小さな魚介類の育成時期とが、ちょうど重なります。
深い海に棲むタラ類、マグロ、イカなどの大量捕獲魚も、産卵は浅い沿岸域で行われます。
また、カキ、アサリ、ホタテなどの貝類も春先に産卵し、海藻類に付着して大きくなるそうです。
コンブは、種の多様性にも貢献し、ご存知のようにアワビやウニなどのエサにもなっています。
このように、コンブ養殖の利点を最大限に生かした中国の漁業政策と日本の政策との違いが、漁獲量にはっきり表れてしまいました。

地形的、気象的に考えて、中国とまったく同じにはできませんが、中国のコンブ海中林造成は、持続可能な生産体制であることは間違いありません。
この境氏はコンブ養殖の利点を「漁村」の連載でたくさん提言しています。
温暖化の原因とされる炭素の固定も、コンブが担えると主張しています。

次に、昨年度版の「地球白書」からです。
中国では内陸の500万ヘクタールほどの土地が、養殖のためだけに使われていて、170万ヘクタールの水田では、コメと魚が一緒に生産されているようです。
中国の水産養殖は、農業と結びついている場合が多いようです。
農業者は、ブタの排泄物のような農業残滓を、養殖池の栄養分に活用して、プランクトンの育成を促しているとのこと(これ、ほんとうかなあ?)。
また、土地や水が乏しくなるにつれ、養殖を手がける農民は、池の生産性を上げるために、穀物を原料とする濃厚飼料を増やすことで、増産に努めています。
養殖池1ヘクタール当たりの魚の年間生産量は、1990年から96年にかけて、2.4トンから4.1トンに増加したとのこと。

ここで、アメリカのことも少し。
アメリカの水産養殖のトップはナマズ。
ナマズは生体重を1キログラム増やすのに、わずか1.8キログラムの飼料しか必要としないらしく、非常に効率がよい養殖魚とのこと。

日本が学ばなければならない世界の漁業は、ほかにもたくさんあるはずです。
すでに宮古市近隣の漁協では、中国のワカメ養殖を視察に行ってきており、その規模の大きさに驚き、対抗するには高品質の製品しかない、と自覚しています。
世界に学んで戦略を立てるのは当然のことです。
驚いているだけでなく対抗、実践あるのみですね。
(2002年5月14日)



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