魚菜王国いわて

人口問題に無関心なブッシュ、キリスト教右派

最初に予備知識。

キリスト教には、代表的なカトリックとプロテスタント(プロテスタントにもたくさんある)があり、その他にもいろいろあるようです。
ローマ・カトリックの教義の一つに、避妊や中絶の禁止があり、教義に忠実なカトリックの信者は子だくさん。
一方、プロテスタントは、そんな子だくさんのカトリック信者をあまり良くは言わないようですが、カトリックの牧師は一生禁欲ですから、プロテスタントからもカトリックの牧師だけは尊敬されています。
世界中が急進的なカトリックで占められたら恐ろしいですね。
もし、今の中国がカトリックの国だったら?
もうすでに、地球の人口は100億を超えていたかもしれません。
あー、恐ろしい!

人権思想の台頭で、女性の権利がどんどん主張されている現在、出産は女性にとって命懸けであることから、子どもを産むか産まないかの選択の自由は、ごく普通の女性の権利となっています。
ところが、キリスト教右派(厳格にローマ・カトリックの教義に従う。狂信的な、と言っていいかもしれません)の票目当てに、ブッシュ大統領は、人工中絶反対を強調しています。
今月送られてきた「WORLD・WATCH」3/4月号によると、アメリカでは、そのキリスト教右派が、人口問題や女性の権利を扱う組織に対して、さまざまな反対キャンペーンを行っているようです。
困ったことに、そのキャンペーンの内容が、ほとんどデマに近く、裏付けられる証拠もないのだそうです。
たとえば、PRI(Population Research Institute)がC-FAM(Catholic Family and Human Rights Institute)経由で、以下のFAXを各所に送信しています。
このPRIやC-FAMはどちらもキリスト教右派なのでしょう。

フジモリ政権下のベルーで貧しい先住民の女性たちに行われた強制避妊手術に、UNFPAが加担していた、というのである。
(「WORLD・WATCH」2004年3/4月号p22)

これはUNFPA(国連人口基金)の広報局長によると、「完全な作り話」で、国連、特にUNFPAの権威を失墜させるためである、としています。
そして、同じカトリック団体からは、C-FAMに対し、次のような非難があります。

C-FAMは、人口政策やリプロダクティブ・ヘルスの分野における国連の活動の監視を目的に設立されたことになっているが、「自由な選択を求めるカトリック教徒たち」などの団体が行った調査によれば、C-FAMが行っているのは、国連組織に関する誤った情報による組織的なキャンペーンと、会議の妨害と、発展途上国のリプロダクティブ・ヘルスや家族計画の推進に携わるすべての専門機関やNGOに「反家族主義(auti-family)」のレッテルを貼ることである。
(前掲書p23)

リプロダクティブ・ヘルスとは、「性と生殖に関する健康」のことで、詳しくは「Women's Online Media Project」のサイト(←リンク切れ)を見てください(私は詳しくは見てません。笑)。

C-FAMは、どういうわけかユダヤ系アメリカ人にも矛先を向けており、アメリカ国内の中絶、避妊に対する賛否両論は、単純な議論ではないようです。
先ほどのPRIは、UNFPAの資金が中国で強制的な中絶と避妊手術のために使われている、という報告書を発表し、ブッシュはそれを信じました。
そこで、すでに議会で決定していた2002年のUNFPAへの3,400万ドル拠出を取りやめました。
これに対し、中国でのUNFPAの行動調査が行われ、PRI指摘の事実がどこにもなかったことが報告されています。
それも複数の国の複数の報告、しかも、その調査団の中には、保守的なカトリック信者も含まれています。
キリスト教右派は、海外にもデマを流し続けています。
面倒なので引用します。

事実、PRIやキリスト教原理主義に関わる団体は発展途上国に人員を直接派遣し、CIAが他国の政府への信頼を損なうために利用するのと同じ手法で、誤った情報を流布させようとしている。3年前にPRIはオースティン・ルースをコソボのブリシュティナに派遣し、UNFPAはセルビア人勢力と結託しており、家族計画のサービスは一種の「民族浄化」という情報を流した。幸い、UNFPAとその支援団体の迅速な対応によって、最悪の状況は免れた。
(前掲書p29)

情報というのは、ホント恐ろしいですね。
入ってきた情報が正しいのか、デマなのか、しかも、宗教がからむとなると、ますます恐ろしい。
宗教の教義も大切なのでしょうが、厳格すぎると、このように悲劇を生みます。
自分には厳しくとも、他者には寛容であってほしいものです。
そうすれば、教義の違いによる同じ宗教同士の争いとかは、なくなると思うんですけど。
以上の問題は、Googleで「人工中絶 ブッシュ」で検索すれば、ぞろぞろ出てきます。

それにしても、この人口問題となると、アメリカはまったくダメですね。
先進国の中で、どんどん人口が増えているのはアメリカだけで、将来、アメリカ一国だけで、地球上の資源を消費してしまうかもしれません。
一般のテレビ番組でも、アメリカ社会の肥満問題は報道されますし、その元凶としてファーストフード企業もヤリ玉に挙げられています。
自国の資源だけでブクブク太るのは勝手ですが、アメリカの浪費主義は他国資源まで犠牲にしていますから、手に負えません。
「WORLD・WATCH」2004年1/2月号掲載「消費に獲り憑かれたアメリカ人」の「UPDATE」(UPDATEという記事は毎号あります)から引用します。

消費に取り憑かれたアメリカ文化を論じるなかで、トム・ブルーはこう皮肉った。「アメリカよ、太った体で、よたよたと進もうじゃないか」と。我々アメリカ人は太った体を持て余しながら、なおも消費の習慣をやめられないでいるようだ。報道によると、昨年11月、フロリダ州オレンジシティのウォルマートで、発売されたばかりのDVDプレーヤーに買い物客が殺到し、行列の先頭にいた女性を踏み倒して気絶させてしまった。女性はDVDプレーヤーの上で倒れているところを発見されたが、駆けつけた救急医療士の話では、周囲の買い物客は「彼女のことなど、気づいていないようだった」そうだ。
(前掲書p17)

アメリカでは、浪費主義が変に進化し、もう他人を思いやる心がなくなったようです。
それは、アメリカ合衆国政府が他国を思いやらない、ということが、ついに一般の個人にまで伝染し、浸透してしまった、と言える現象かもしれません。
私は今、松葉杖を使用して歩いていますが、たいていの人は道を譲ってくれますし、ドアも開けてくれたりします。
日本では、このような善意の行動が、消費主義に席巻されないことを祈ります(主題からかなりはずれてしまいました!)。
(2004年5月14日)



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