魚菜王国いわて

「ヤクザ・リセッション」を読んで

ベンジャミン・フルフォード著「ヤクザ・リセッション」は、すらすら読める本です。
はっきり言えば、毎度読んでいる副島本と「噂の真相」を足して2で割ったようなものです。
しかし、この本には、構成上の一つ欠陥があって、それは第7章。
ただの日本社会の愚痴を書いていて、「それじゃどうすればいい?」と問われればベンジャミン自身、答えに窮すると思うからです。
例えば、次の文章を参照してください。

日本の高い技術力の源泉は、金型にあるとされる。大田区のこの一帯は、その金型を扱う中小企業の中心地であり、これまではどんな不況にも強かった。それは、不況時でも大企業が設備投資や新製品開発を積極的に行い、金型を作る優良企業を支えてきたからである。が、いまや大企業はほとんどが海外に出ていってしまい、いわゆる産業の空洞化がこの街の活気を奪ってしまった。
(「ヤクザ・リセッション」p225)

海外に出る企業というのは、安い労働市場を目的として出て行くのがほとんどでしょう。
そうやって中小企業経営者に同情しつつ、彼は同じ章のその後に「サラリーマンのボーナスが崩壊」「サラリーマン、ポイ捨て法の成立」と今度は企業側を攻撃するような文章を書いてます。
さらに雇用状態が良くないのに、今度は「日本は移民を受け入れるべきである」と書いているから、なんとお粗末。
移民を受け入れる理由は、その人口増で年金を補うというもの。
あきれてしまいます。
こんな論理のない文章なら(誰でも書けるよ!)、読む価値がないと思います(ホントこの7章は削除してもらいたい)。
まあ、一応内容を少し紹介します。

本来、金融業とはまともな借り手にお金を貸すものである。はなから非合法活動をしているヤクザに、お金を貸すのは、銀行自身もまともな資本主義をしていなかったことになる。ヤクザはアウトローであるから、お金が返ってくると考える方が間違いだ。ドロボーにお金を貸してはいけないことなど、子供だってわかるはずだ。日本では、借り手ばかり責任が問われるが、貸してはいけない相手に貸したほうが、もっと悪いに決まっている。
住友銀行会長の磯田一郎がこのことを思い知ったのは、バブルが弾けて、債権の回収を始めた矢先に起こったあまりにも日本的なある事件だった。もうほとんどの日本人が忘れてしまったかもしれないが、住友銀行東京本店に、ある日突然、糞尿がまかれたのである。
これが、闇世界からのメッセージでなくてなんであろう。
このときから、銀行はヤクザからの債権回収をあきらめ、一般の人間や中小企業からだけ回収するようになった。そして、ヤクザの背後にいる官僚や政治家に泣きつき、国民の税金、いわゆる公的資金を当てにしだしたのである。こうした闇の構造体が、最初に国民の金を巻き上げたのが、1995年の住専処理だった。
(前掲書p75)

このようなことが書かれた本で、先に取り上げた第7章を削除すれば、それなりに読んでもいい本なんですが。
さて、当方の掲示板で、姫様(エサにしてすみません)が「せめて小泉ちゃんを呼び捨てにしないでいられたらと願う娘でございます」との投稿をなされましたが、その「小泉ちゃん」を「小泉」と呼び捨ててもいいようなことが国会答弁でなされていた事実を、この本は書いていました。
引用します。

2003年2月20日、衆議院予算委員会で長妻(長妻昭、民主党:hajime注))が提起した疑惑は、小泉の私設秘書を努める実弟・小泉正也の個人会社(公設秘書の鍋倉正樹が取締役、首相秘書官の飯島勲が監査役の「コンステレーション」2001年7月解散)が、地元横須賀市の発注した「舟倉ポンプ場沈砂池機械設備工事」の受注企業に情報提供を行って、「成功報酬=リベート」を得ていたというものだった。小泉はこれに、「そういう(リベート)契約はない。一方的議論はやめていただきたい」と、気色ばんだ。
しかし、長妻は受注企業の日立金属の担当者から聞き取りしたデータを持っていた。それによると、日立金属側は、その契約が「一般的には手に入らないような情報に対して支払うものだった」と認めており、覚え書きも存在していたのである。
つまり、小泉は国会で偽証したことになるのだ。
長妻はさらに、小泉が支部長を務める自民党神奈川県第11選挙区支部が、2000年の衆議院解散の2日前に、国発注工事の受注企業である横浜市の工務店から50万円の献金を受けて、選挙公示日に選挙事務所の家賃を支出していることも取り上げた。
これは、公職選挙法に違反する行為だった。公職選挙法では、国との請負契約者が国政選挙に関して寄付(「特定寄付」)することを禁じているからである。しかし、小泉は「政党支部が選挙事務所の家賃を払ってなにがおかしい。なんらやましいことはない」と答えたのである。
3月3日、衆議院予算委員会で、再び長妻は質問にたった。
長妻 前回の審議で、首相は「契約はない」と明確に言っておりますが、訂正する気はないのか?
小泉 疑惑を持たれるような契約はない、と言っただけで、その必要はない。
長妻 いや、前回の質問に(疑惑というような)形容詞などなく、首相はただ「そういう契約はない」と、答弁した。実は契約はあるということなのか?
首相 特定の工事発注についての契約などない。
―こんなやりとりの後、なぜか小泉は、「特定の契約はないが、領収書はある」と言い出したので、議場は騒然としはじめた。
長妻 領収書があるということは、報酬の支払いがあったということだ。具体的にどういう性質の支払いなのか?額はいくらなのか?時期はいつなのか?この3点を明らかにしてほしい。
小泉 それは、普通の仕事上の話し合いで、特定の工事の話し合いではない。収入等の領収書はある。しかし、特定の工事の契約ではない。
長妻 領収書はあるが、それに基づく契約がないなど、あり得ないのではないか・・・?
―このあたりから、首相の話は、なぜか焦点が定まらなくなっていった。なにを言っているのか、議場もわからない。
小泉 弟は秘書であるが、一般の社会人であり、社会人同士のつき合いが・・・。
藤井孝男(予算委員会議長) 総理、領収書の中身というのは非常に単純な問題です。そこのところだけ・・・(はっきりと)。
小泉 再三答弁しておりますが、領収書のようなものはありません。
―ここにいたって、議場から失笑がもれた。先ほど、「領収書はある」と言ったその口で、今度は「ありません」と言う。小泉は、自分の言葉のもつ意味など、まったく理解していないのだろうか?
この質疑はテレビ中継もなければ、新聞もほとんどふれなかった。そして、すべては忘れられてしまったのである。
(前掲書p116)

すみません、姫様。
このように「ちゃん」は取って「小泉」と呼び捨てていいようです。

いろいろな方が指摘しているように、日本には敗者復活戦ができる環境が非常に少なく、ヤクザを生む温床は、私はここにあると思います。
一度失敗した人間は、どうやって立ち直るか、非常に難しい。
最低限のご飯を食うのすら難しい人もたくさんいる。
ところが、成功した人間は、一人で、何人分もの贅沢ができる。
個人差もあるでしょうが、キレて犯罪行為に走る人が出てくるのを、想像することは難しくありません。
不景気になれば犯罪が増える、ということは経験的真実であり、今の日本では、学校の時点でつまづけば、まず六本木ヒルズ(笑)に住むことは不可能なのです。

猪野健治著「やくざと日本人」では、権力が利用したやくざ、そして、差別社会に起因するやくざの社会主義的性質などの指摘はものすごく的を得ており、そこからマスコミを使って、その差別を逆利用するという手口に発展したりします。
大きな流れでみれば、あんな偽証国会答弁をするような一国のリーダーらが、差別され暴力的になった人間たちを利用して社会を動かす。
しかし、その構造をしっかり見てきた頭のいいやくざは、逆にこの国の中枢を脅し、そのツケをまともな一般国民にかつけた(強引に押し付ける。宮古弁だと思う)、と言えるのです。
どうしても能力に差が出てしまうのしかたがないことですが、これを素直に認めて、能力の劣る人の職場の確保、例えば、単純労働市場(表現上好ましくないかもしれませんが、他に思いつかないので)の確保に力を注ぐべきだと思うんですが。
しかし、それが日本の賃金制度(高賃金、企業内の経営側と労働側の利益分配の取り決め方、そしてその不透明さに原因があると思う)に欠陥があるから、単純労働市場は海外へと持っていかれた。
この辺をよく「先生」と呼ばれる方々はよく考えて、せめて「ちゃん」付けで呼ばれるようになってほしいと思います。

ちなみに、今年度版の「地球環境データブック」では、世界的に経営側の報酬と従業員との給与の差が非常に拡大している、と指摘しています。
アメリカの最高経営責任者(CEO)と従業員の給与の差は、1990年代で5倍以上であったらしく、それが2001年には、平均的な製造業生産労働者の350倍の収入をCEOは得ていたようです(ストックオプションのなせる業で、その弊害がこの結果となっている。しかし、その弊害は、それだけにとどまらず、粉飾決算の元凶にもなっている)。
これは世界的な現象です。
地球環境的にも、この賃金格差は深刻であり、「悪」と位置づけてもいいかもしれません。
それを示す文章を引用します。

その結果、2種類の環境破壊が起きている。すなわち、裕福な人々は物質中心の汚染を発生するライフスタイルを好んで、地球という惑星に大きなダメージを与えている。一方、貧しい人々はそれぞれの地域にあって最悪ともいえる環境に耐えながら、耕地、森林、水資源を限界近くまで利用しつくして、かろうじて生活をしている。
(「地球環境データブック2003?2004」p11)

これは世界的対比で書かれた文章ですが、しかし、どの社会にもあてはまることです。
なんだか、「ヤクザ・リセッション」の感想文がこんな形になって非常に不自然ですが、まあ、いろいろ関連付けて考察するということもいいのではないでしょうか(ということにしておきます)。
(2003年12月27日)

補足説明
文中の「姫様」とは、「そりゃいけ!栄進丸」の制作管理担当者のことで、その文意は、掲示板がまだあった頃「日本の総理大臣である人を呼び捨てず、せめて小泉ちゃんと呼びたい」という主旨の書き込みに対応したものです。
(2004年7月2日)



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