魚菜王国いわて

底曳網の漁具改良

石川県の輪島市には、輪島市漁協があり、漁協所属の小型底曳網漁業者で構成されている底曳網組合では、網の改良に取り組んでいます。
暇を持て余したため、漁協の支所で、久しぶりに毎月出版されている「漁村」という漁業雑誌パラパラを読みまして、その中に、この網の改良に関する記事がありました。
この記事は、毎号掲載される「全国青年・女性漁業者交流大会(活動実績発表)」の一部です。
これらは、発表者の所属する漁協の概要から紹介されるため、その海域の操業形態が、何となくですが、つかめるようになっています。

最初に「活動の動機」を引用します。
重要なので。

石川県では、第1種小型底曳網漁業の操業期間は9月〜翌年6月の10ヵ月間で、その内ズワイガニ漁は、11月6日〜3月20日までとなっている。従って、当地区では、ズワイガニ漁期以外の沖合では、主にアカガレイを漁獲している。
しかし、アカガレイを狙って操業してもズワイガニが混穫されることから、ズワイガニは再放流している。
しかし、入網時に挟まれることで脚が欠落したり活力が低下する個体が目立ち、再放流しても殆どが死亡するのではないか?と懸念されていた。また、これに加え、商品価値の低い小型カレイ類も混穫される等、不合理な操業となっていた。
底曳網漁業を永続的に維持発展させるためには、これらの問題点を少なくする必要があり、その対策を私たちは模索していた。
丁度その頃、福井県の越前町で、ズワイガニ漁期以外のズワイガニ混穫を防止する網が開発されたことを聞き、当底曳網組合でもこれを取り入れることができないかと思い、平成13年より、ズワイガニ漁期以外のズワイガニと小型カレイ類を保護する底曳網漁具の改良に取り組むことになった。
(「漁村」2004年3月号p24)

非常に良い取り組みですよね。
試験改良網は3種類用いて、計13回試験操業が行われ、ズワイガニの混穫が防止される効果がわかりました。
さらに小型カレイ類やヒトデ類等が抜けることも確認されました。
隣接する珠洲市漁協底曳網船団でも、輪島型試験網で試験操業し、ズワイガニを7割以上保護しつつ、カレイ類の9割を漁獲できたそうです。
水揚げ金額に及ぼす影響も考慮されており、仮に現在の85%に水揚げが減少しても、単価の低い小型のカレイが入らない分、そして水揚量の減少から、平均単価は3〜10%上昇することが見込まれます。
そのため、水揚金額は、従来の87%〜93%に止まるとされ、長期的には、資源の増大により、経営の安定・向上が期待される、としています。
その結果、平成15年8月中旬、全船がこの改良網を購入し、アカガレイを狙って操業する船は、全船この改良網を使用することが決定し、実際に現在使用されているようです。
これは隣接する各地に波及し、平成16年からは珠洲地区、富来地区で、平成17年度からは、金沢地区に導入する計画が進んでいます。
更に、です。
あの、にっくき沖合底曳網(岩手ではないですよ。当地での話)でも、改良網の検討が始まった、とされています。

以上は、細道龍一さんの研究発表「底曳網の漁具改良による資源管理に取り組んで」という論文からでした。
「漁村」には、網の設計図やデータなどが掲載されていますから、詳しく知りたい方は、漁協に出向いて読んでください。
実はこれより先の平成11年4月号に、同じ「漁村」で、鈴木宏康さんが「魚に優しい底曳網と資源管理」という研究論文を発表しています。
この方は、千葉県の銚子市漁協で、小型底曳網漁船を営んでいます。
平成10年度からその地区で、一斉に改良した網で操業し、その当時の9〜10月期の水揚量で対前年比70%の水揚にかかわらず、金額では119%となったことを報告していました。
さらに、平成10年度から、新たな禁漁区を設定した、とあります。
「新たな」ということは、以前からの別の禁漁区があるということで、この辺からも、千葉県漁業者の意識の高さがうかがえます(この細道さんの論文は、スキャナーで撮っておいたもの。現在のものは私の怠慢から撮ってない。だから、この取り組みはもっとあると思いますし、発表されてなくとも、実行している漁業者はたくさんいると思います)。

岩手の沖合底曳網漁船は、小さい魚も1匹残らず獲ってきますから、話になりません。
ほとんどの漁業者に嫌われるのを知っていながら、あんなことをするんですからねえ。
せっかく紹介したんですから(見ていないとは思うけど)、しっかり努力して、資源管理してほしいものです。
今年の岩手の沖底船は、スケソウダラの記録的な大漁でかなり潤ったはずです。
網の改良をするには、良い機会です。
このような試験的設備投資は、余裕がある時にできるものです。
将来も沖合底曳網漁業をやりたい、というのなら、ぜひとも取り組むべきものでしょう。
(2004年7月2日)



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