魚菜王国いわて

縄さやめ

縄さやめとは、漁で使用した延縄(はえなわ)を再度使えるように、縄を繰りなおす作業を言います。
縄には一定間隔で針付きテグスが付いていて、投縄時(縄を打つ時)に、餌の掛かった針がきれいに海中に入っていくようにするため、上手に繰りなおします。

今回は鮭の延縄。
海中から縄を揚げた状態では、縄は乱雑です。
縄揚げは、直接手で引っ張り揚げるか、あるいは、縄揚げ機械で巻き取ります。
私の船では手引っ張りですが、なぜ手引っ張りかといいますと、縄揚げ機械では、揚げた縄が、より乱雑になるからです。
これだと、縄さやめが、はかどらない。

手引っ張りである理由は、もう一つあります。
機械巻きの場合、かなりの数の魚を逃がすと思われるからです。
春鮭鱒をやっていたころは機械巻きでした。
何しろ、最低200枚の縄を手で引っ張ると、日が暮れてしまいますから。
で、鱒などは、大体0.6kgから2kgぐらいの重さなので、少々速く巻いても、魚が針からはずれたり、テグスが切れたりせずにタモでくめますが、シロザケ(トキシラズ)などは体重が重いので、そのまま機械で巻くと逃がすことがあります。
その時は機械を止めて、手で縄を引っ張り魚を引き寄せ、タモでくみます。
今、着業している秋鮭は、最低でも3kgぐらいありますから、機械巻きだと、簡単に逃がしてしまいます。

話が飛びましたが、揚げてきた縄をきれいに繰りなおします。
みなさん、けっこう器用なものです。
私も最初はできませんでしたが、何百枚とさやめているうちに、だんだん上達します。
これ、1枚さやめるのに、300円。
この作業を頼んでやってもらっているのですが、頑張る人で1日15枚が限度でしょうか。
平均的に10枚前後かなあ?
掛け算すると、・・・・。
安いですよね。
ですから、この縄さやめは、漁師を引退した方とか、昔からこの作業で手間取りをしている方とかじゃないと、やりません。
これでご飯は食えませんから(笑)。
当方でも、これ以上の高値で頼むとなると、やっていけなくなりますし、これぐらいがちょうどいいところだと・・・。
こればっかりは機械はできませんし、コンピュータがかなり進歩して、手先の器用な、かつ安価なロボットでもできない限り、やはり手作業に頼るしかないですね。
沖でも手引っ張り。
やはり人力が一番(笑)。

私は鮭の漁期になると、沖合いでの漁ばかりじゃなく、オカに来てからのこの縄仕事もジャンジャンやります(乗組員の当然の務め。しかし今はそうでもないようです)。
比較的若い私が頑張らないと、みんな覇気がなくなりますから、仕事場からみんなが帰るまで頑張ります。
今年は、まだ骨折患者なので、手加減していますが、ホント今の時期は、自分の家とは、風呂に入るところ、そして飯を食うところでしかなく、寝るところは船の硬いカーペットの上(家の布団はただの飾り?)。
そんなところです。

余談になりますが、この縄の載っている延縄ザルは、昔は竹でできていました。
それがプラスチック製品に変わり、最初の型は、竹製の頃の形をそのままデザインしたものが使われていました。
竹製の頃は、針がザルの下側に落ちてしまうようなデザインだったのです。
そこで、私の船では、特別に黒いプラスチック製の網みたなものを注文し、それを貼りました。
針が下に落ちないようにするためです。
そこで考案されたのが、針の落ちない細かい網の目の延縄ザル。
このアイデアを提供したのが、私の父です。
当時、台和漁具と取引していて、1500枚の延縄ザルも台和漁具から買っていまして、針の落ちないデザインの延縄ザルを作れ、と注文し、試作品第1号も倉庫に眠っています。
その試作品は材質が悪く、すぐに壊れました。
もちろん、ちゃんとした正規品もありますよ。

ザルの端にスゲという釣針を刺すところがあります。
これが消耗してボサボサになる(最終的には粉になる)と、釣針を刺しても外れてしまいます。
そうなると仕事になりませんから、スゲを交換することになります。
このスゲを生産しているのが、津軽石奥の根井沢というところの住んでいる人たち。
このスゲ巻きという作業も熟練が必要になります。

ちょっと面白くない話を少し。
延縄ザルのアイデアを提供してやった台和漁具は、何と他船よりも高く、イカ針を私の船に売りつけていたのです。
それが発覚し、以後いっさいの取引をやめました。
無償で製品開発に協力したにもかかわらず、このような仕打ちを受けたのですから。
今の針の落ちない延縄ザルは日本全国どこでも見ることができます。
私は台和漁具のような悪辣な会社を一生忘れることはないと思います。
(2004年12月16日)



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