魚菜王国いわて

WTO(世界貿易機関)は世界の農業の敵

中国の2025年予測での不足水量は、5,500万トン分の穀物栽培に必要な分量になる、と言われています。
インドでは、4,500万トン分の穀物が現在、過剰地下水くみ上げによって、栽培されています。
両者は、現在、食糧自給国ですが、2025年予測では、上記の水不足要因により、合わせて1億トンの穀物を輸入せざるを得ない状況になります。
この1億トンは、現在アメリカが世界市場に供給している穀物の総量をも上回り、人口増加という要因を加味しなくても、水不足によって、食糧は不足することになります。
で、さらに悪いことに、アメリカの灌漑農地の1/5を支えるオガララ帯水層が、揚水によって、年間約120億立方メートルずつ急激な減少を続けており、いずれ灌漑農業は縮小することとなります。
このように、地球上では、将来の水不足が懸念されています。

ここまでは農業だけの水利用だけをみていますが、今度は他産業との関係をみてみます。
農業分野は、他の産業に比べて、水の単位あたりの生産額において非常に不利な状況にあり、単なる利益追求だけの目的ならば、歴史の示すとおり、農業用水は工業用水へと、農地は工業用地へと転換されていきます。
もし、世界中の今後の食糧不足を考えないで、このような産業間の水の奪い合いを、各政府が見過ごすならば、さらに食糧事情は悪化します。
経済がものすごい勢いで発展している中国では、産業間の人口移動が起き、農村は老齢化して、農業生産力はますます落ち込みます。
中国に限らず、これはどこの国でも起こりうることです。
若者ほど都会に夢をみるものですから。

皆さんは、世界の穀物は増えている、と思っているでしょうが、実は、1997年を最高にして、その後は増えていません。
人口はどんどん増えているというのに。

世界的暴力国家アメリカは、さまざまな国に農業分野の完全自由化を迫っています。
これは、食糧の分野でも、世界支配しようとしているのかもしれません。
上手なもので、WTOという世界貿易機関を利用して。
日本、EU連合に対するアメリカの攻撃は、WTOが土台にあります。

現在、日本よりも穀物を自給できない国はたくさんあります。
輸入依存度100%が、クウェート、オマーン、アラブ首長国連邦。
70%以上の依存国が、レバノン、イスラエル、ヨルダン、リビア、イエメン、アルジェリア、サウジアラビア、韓国。
ここに出した国は、水不足状況にある国だけです。
わが日本は水不足ではなくても、主食用穀物自給率は60%前後です。
つまり、依存度は40%。
「なんだ、そんなものか」と思う方は、次の記述でがっかりです。
飼料穀物も合わせると、自給率は30%前後まで下がります。
つまり、ブタ、牛、鶏に食べさせる飼料のことですが、これを計上すると、輸入依存度は、70%まで跳ね上がります。

さて、食糧輸出国は、世界全体で食糧が足りなくなった場合、どこの国に食糧を輸出するのでしょう?
当然、アメリカの言いなりの国(その中でも、特にカネのある国。良い例が日本)、そして、石油のある国です。
あっ、順番が逆でした。

WTOが農業分野の完全自由化を達成すれば、その役割上、農業も効率至上主義となります。
このことを、ワールドウォッチ日本代表の織田創樹さんは、次のように記述しています。

生産コスト削減を大前提としない農法はWTO体制の下では、いずれ敗れ去り、在来品種とともに在来農法も消えてしまう。
(「地球環境データブック2002?03」p272)

ということは、岩手、あるいは、全国で推進されている有機農法も、敗れ去る可能性を秘めています。
結果として、種に多様性がなくなくなれば、気候変動を迎える中で、食糧生産に危機の訪れる確率が、ますます高まることになり、困難な病気が栽培植物に発生した時、対応できにくくなります。
世界のリーダーたち、すなわち、各国首脳は、この辺をよ〜く考えて、WTOの農業分野の除外条項を設けるべきでしょう。
消費者側としては、やはり、遺伝子組み換えや、アメリカ農産物、その関連製品の不買運動でもしないといけませんね。
個人レベルからも頑張りましょう。

ちょっと余談。
「WORLD・WATCH」2003年1/2月号によると、中央アジアのアラル海が無秩序に灌漑を行った結果、1960年の4分の1になったらしいです。
生態系は破壊され、数百種の生物が姿を消し、さらに、砂漠化、土壌塩化、砂嵐、気候変化をもたらしました。
皮肉にも、農業用水確保が、アラル海の漁業を奪い、広大な荒地には、廃船の群れが取り残されているとのことです。

淡水養殖の盛んな地域で、水を農業用水や工業用水に回されることになると、養殖産業を脅かすことにもなります(特に中国)。
ちなみに、この淡水養殖産業は、全養殖産業の56%を占めるくらい大きな規模になっています。
このように、世界の食糧生産バランスは、水不足という問題の出現で大きく崩れますね。
それにしても、やっぱり漁業はダメなんですかね。

もう一つ。
アメリカの表土の3分の1が侵食され流失するのにかかった年月は、たったの40年。
しかし、厚さ、たったの約2.54cmの土ができるのに要する年月は、1000年だそうです。
表土を守るために、やはり、木は大事です。
森や林を大切にしましょう。
(2003年5月4日)



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