魚菜王国いわて

2003年度の「地球白書」

所長が代わってからの2冊目の「地球白書」ですが、今年の目玉はありません。
強いて言えば、エネルギー問題と宗教に触れている点です。
また、おもしろい読み物として読むならば、第1章の「石器革命から環境革命へ、人類の進化を果たす」が面白いと思います。
が、「買い」ではありません。

まず第2章で「自然と人間とを結びつける鳥類を守る」のなかで、携帯電話などが鳥類の敵となっている次の記述があります。
野鳥の会が主張したがるような文章ですが、その後段にはしっかりと提言があります。
このような提言を、野鳥の会はしない。
前進的な提言こそ、現実的な主張といえるでしょう。
それでは一部引用します。

超高層ビルやテレビ、ラジオ、携帯電話の電波塔のために、毎年、夜間に飛行する数百万羽の渡り鳥が死んでいる。特に曇ったり霧の深い夜に死ぬ鳥は、アメリカだけで年間最大4,000万羽に達するだろう。建造物に点滅する赤い光が鳥類を迷わせるのだが、光は渡りの合図の一つなのである。多くの鳥がその光の周りを旋回しているうちに、タワー本体や支えのワイヤーに衝突する。
(中略)
アメリカには約61メートル以上のタワーが4万基以上あるが、今後10年間でその数は2倍になるかもしれない。携帯電話とデジタルテレビのためにタワーの増設が必要だからである。問題は天候だけではない。タワーの位置も重要である。渡り鳥の移動路や丘の頂上にタワーが建つと、鳥への危険が増す。しかし、増大するこの問題に取り組んでいる会社や政府はほとんどない。光やタワー、支えのワイヤー、それに高層ビルの影響を最小限度に抑える方法として何がもっとも効果的かを判断するためには、さらに調査が必要である。現在までに提案された代替案のなかには、点滅する赤い光を渡り鳥が混乱しにくい白色の電子フラッシュに替えたり、鳥がぶつかると命を落とす支えワイヤーを必要としない背の低いタワーを建てる、といったことがある。
(「地球白書2003-04」p55)

関連して「第5章 政治の意思として新エネルギー革命を支援する」で、反風力発電(特に野鳥の会)に対する反論も、次のようにしています。

すべてのエネルギー技術と同様に、風力発電に関連する不利益もある。もっとも議論と懸念を引き起こしてきた環境的要因として、鳥類の犠牲が挙げられる。しかしながら、これは特定のサイトの問題で、陸海空の輸送機関やビルおよび携帯電話の中継塔など、鳥にとっての他の脅威と比べると比較的小さな問題である。さらに、そのような問題はブレードの色彩を鮮やかなものにすること、あるいは回転速度を遅くすること、タービン塔を角のない管状にすること、そしてサイトの選定に際して鳥類へ十分に配慮することによって、近年緩和されてきている。
(前掲書p168)

太陽は、人類が現在使っているエネルギーの1万倍のエネルギーを常に供給しており、風力発電、太陽光発電、その他の太陽の影響で起こる自然現象を利用する発電だけで、今日の発電量の1,000倍以上を賄えると言われています。
この第5章では、政治の力で、化石エネルギーからの転換をすべきだとしており、これこそ、市場原理にまかせずに、強制的に転換すべきものでしょう。
技術的に全部解決できれば、の話ですが。

さて、次は、「第6章 環境の21世紀、錬金術は金属リサイクル」からです。
これは抜粋引用だけにします。
ずばりそのまま都合のいいように引用し、あとは、オランダでの取り組みも紹介します。

アルミニウムは、ボーキサイトから生産するよりも、再生材を使ったほうが、95%もエネルギーを節約できる。銅の再利用も、鉱物から加工する場合に比べ、エネルギー使用量が5分の1から7分の1で済み、粗鋼も同じく3分の1から半分のエネルギーで再生産できる。
(以上、前掲書p227)
世界で使用されている銅を見ると、リサイクル資源から生産されているのはわずか13%にすぎない。
金属は際立って再生が可能な物質であり、リサイクル率は大いに改善させるべきである。使用済みの銅やアルミニウムは、新しい金属をほとんど加えなくても、再生前とほぼ同量の金属になる。飲用容器から再生されるアルミニウムは、リサイクル用の回収箱に入れられてから数週間後には、溶解され、再加工されて、新しい缶の製造に利用できるようになる。アメリカ人が1990年から2000年にかけて捨てた700万トンの缶がリサイクルされていれば、ボーイング737型機の31万6,000機に相当するアルミニウムが生産されていたはずだ。これは、世界の全民間航空機の25倍に相当する数である。
これほど有益な金属が町や埋立地に放置されているのに、なざ新たな地下鉱脈の発見に大量のエネルギーを使うのだろうか。国によっては、地上の在庫のリサイクルよりも新たな鉱脈の採取のほうが安く上がるよう、採掘に補助金を出しており、鉱業会社は、この現状の維持に躍起になっている。アメリカの鉱業界は、1872年の鉱業法のいかなる変更にも強固に反対し、この補助制度を守るために多額の資金を投じてきた。1997年半ばから2000年半ばにかけては、政治キャンペーンに約2100万ドルを提供した。
現在の原料システムは、採掘業者を優遇し、リサイクル業者を不利な立場に置く、不公平なものになっている。
(以上、前掲書p228)
くず鉄の価値を評価したオランダの自動車リサイクル業者は、重量換算では廃車の約86%をリサイクルしている。ここでは、大半の車が解体され、タイヤのホイールキャップやバッテリーをはじめとする車の部品が再生されていく。新車の購入者が負担する130ドルの解体費用が、これに充てられる。
(以上、前掲書p230)
二次的な供給源から物質を生産することは、エネルギー使用量や有害廃棄物、職業上の健康被害といった観点から見て、新たに採掘した自然資源を使う場合より著しく影響が少ないが、完全に回避できるわけではない。持続可能な原料システムでは、修理、再利用、再生が第一の選択肢である。オランダ政府はこうした認識に立脚して、再使用可能なガラスビンを選び、アルミニウム缶を禁止した。同国では、ほぼ100%のビンが回収され再使用されている。
(以上、前掲書p231)

「第8章 大きなチャレンジ〜宗教界と環境団体との協働」には、あまり感心しませんでした。
つまり、環境主義者は宗教を利用せよ、と示唆する内容です。
いろいろな宗教の自然に対する解釈とか書いてあって、そういう部分はおもしろいかったのですが、第8章の意味を考えると、宗教を頼らなければならないくらい、政府や個人が頼りないということでしょうか。
(2003年7月5日)



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