1-3. 事業指標となるエネルギー産出比




 オイルサンドという砂岩が、地球上には存在する。天然ビチューメンというタール状の物質がオイルサンドに10%含まれており、それを改質、精製し、従来の石油製品として利用する(参照1)。しかしオイルサンドは、ウラン生産と同じで大規模な環境破壊を伴う。気になるのは生産効率であるが、次の記述に注目する。

オイルサンド由来の石油をわずか3バレル生産するのに、石油1バレル相当のエネルギーが必要になる。
参照2)

 つまり、エネルギー産出比は3である。石油火力発電のエネルギー産出比が0.35程度であるから(参照3)、採掘から発電までのエネルギー産出比は、3×0.35=1.05となり、辛うじて1を上回る。しかし、大量の廃棄物を産むため、バックエンドで消費するエネルギーが非常に大きく、そこまで投入エネルギーを含めれば、エネルギー産出比は明らかに1を下回る。したがって、発電用の石油としては使いものにならない。オイルサンド由来の石油は、輸送用燃料や他の石油製品の原料の用途へと振り向けられることになるだろう(それにしても環境負荷が高すぎる)。

 バイオ燃料の世界でも、エネルギー産出比という指標は役に立っている。インドネシア、マレーシアは、パームオイルの生産で世界1、2位を争う。パームオイルはアブラヤシを原料とし、エネルギー産出比が高いとされる。

アメリカに拠点を置くNGOコンサベーション・インターナショナルの企業活動担当上級理事ジョン・ブキャナンによれば、「バイオ燃料としてのパームオイルのエネルギー効率は、投資家にとって非常に魅力的だ。この要素、つまりバイオ燃料作物の効率を判断する一般的な尺度の一つが、投入エネルギー単位とそこから産出エネルギー単位の比である」。これが重要なのは、トウモロコシやエタノールといったバイオ燃料作物の一部が、あまり効率的ではないからだ。エタノールは、化石燃料換算で約1単位の投入につき、わずか1.4単位しか産出されない。しかしパームオイルでは、およそ5.6〜9.6単位が生産される。したがって、パームオイルの貿易に特段の関税を課徴されなければ、アブラヤシはさらに収益性の高い作物になるだろう。
参照4)

 投資家や事業家にとって、エネルギー産出比の高いものほど、魅力的なのではある。このように、石油代替としてバイオ燃料は脚光を浴びているが、残念ながら、一方では環境破壊を引き起こしている。アブラヤシのプランテーションは、貴重な熱帯雨林を切り裂いてできたものである。
 事業家が、環境コストを投入エネルギーに計上するようになるのは、いつになるのであろう。近い将来であってほしいと願う。

 同じバイオ燃料でも、海藻から生産するバイオエタノールというのもあるようだ。これだと、環境破壊を起こさないで燃料を生産することができる。日本は海洋国家であるから生産環境には恵まれており、海藻由来のバイオ燃料は国産エネルギーとなる。この意義は非常に大きく、事業化に成功すれば、大きな国益となるであろう(参照5)。
 また、オイルを作る藻というのも世の中に存在する。それを利用した石油代替燃料の研究も進められている。(参照6)。
 これらのバイオ燃料は、まだ研究が始まった段階だ。ぜひ成功させ、エネルギー産出比をどんどん高めてほしい。




参照
 1. 「オイルサンド・ラッシュ―砂から石油を採るカナダの『汚れた秘密』」(「EarthPolicy/WorldWatch研究所の地球環境レポート」)
 2. 「World・Watch」日本語版2007年9/10月号」p29(これは参照1の原版)
 3. 「エネルギー供給技術の有効性の検討/石油代替エネルギー」(「環境問題を考える」)
 4. 「World・Watch」日本語版2007年7/8月号」p15
 5. 「海藻からバイオ燃料を生産―日本独自の技術で確立を―」(「OPRF 海洋政策研究財団」)
 6. 「オイルを作る藻が、日本を救う? 1/2」(←リンク切れ)(「WIRED VISION」)




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