3-2-1. 高速増殖炉の現実




 高速増殖炉とは、発電しながら核燃料を増殖する原子炉である。しかし、“高速”で増殖するわけではない。核分裂で発生する中性子を減速させず、高速のまま、ウラン238にぶつけてプルトニウム239に核変換させる。ゆえ、“高速”という名前が付く。
 原子炉は、冷却しなければ溶けてしまうので、一般の原子炉(軽水炉)では、冷却材として水を使う。水は、中性子の減速材も兼ねるので、高速の中性子は減速される(参照1)。高速増殖炉「もんじゅ」(参照2)は、中性子を減速させない性質を持つ冷却材ナトリウムを使うので、ナトリウム冷却炉とも言われる。
 軽水炉の核燃料となるウラン235は、自然界には、たったの0.7%しか存在しない。その他99%以上はほとんどウラン238であり、ウラン238を核燃料プルトニウム239に核変換し、エネルギー資源として利用することは非常に魅力的に映る(参照3)。しかし、現実は非常に厳しい。

 高速増殖炉の燃料はMOX燃料を利用するが、そのほか、炉心を覆うブランケット燃料(劣化ウラン、すなわちウラン238)を装荷する。MOX燃料とブランケット燃料の中のウラン238は、発電と同時に炉内で核変換され核燃料プルトニウム239となるが、その過程で消滅する核燃料と生成する核燃料の比を増殖比(転換比)という(参照4)。
 高速増殖炉の増殖比は1.2であり(参照5)、これは、1単位あった核燃料が発電後、1.2単位に増加するという意味である。とにかく増殖比が1を超えれば、その増殖炉自身が、次に発電できる核燃料を確保できることになる。しかし、別の原子炉の核燃料を確保するには、残り0.2単位分をコツコツ貯めなければならず、非常に長い時間を要する。その時間を「倍増時間」というが、それが何と!90年である(参照6)。
 正確には、ナトリウム冷却炉の増殖比は1.16であり、その倍増時間は46年である(参照7)。この46年という数字は、複合システムというものによるが、これは最初から複数の高速増殖炉が稼動することを前提としている(参照8)。

 それにしても、燃料増殖に46年もかかるとは驚きである。しかも、これは最短の数字であり、困難は、発電原子炉にだけあるのではなく、核燃料の再処理にもある。高速増殖炉から核燃料を取り出し、それをすぐに使えるわけではないのだ。だから、本当のところ、倍増時間はもっと大きい数字が予想され、原子炉の寿命を超えることになるかもしれない。残念ながら、“高速”増殖ではなく、“超低速”増殖だったのである。

 ある意味、“倍増時間=∞”とならないことを祈る。




参照
 1. 「高速増殖炉とはー2」(「文部科学省 『もんじゅ』がひらく未来」)
 2. 「もんじゅの紹介」(「高速増殖原型炉もんじゅへようこそ
 3. 「高速増殖炉とはー1」(「文部科学省 『もんじゅ』がひらく未来」)
 4. 「高速増殖炉」(「原子力百科事典ATOMICA」)
 5. 「表1 原子炉の比較」(「原子力百科事典ATOMICA」)
 6. 「日本の原子力推進策は破綻した」(「原子力安全研究グループ」)
 7. 第18回新計画策定会議「参考資料1 高速増殖炉サイクルの実現性について(改訂版)」p3ナトリウム炉(「原子力委員会」 「原子力政策大綱」)
 8. 第17回新計画策定会議「資料第4号  高速増殖炉サイクルの研究開発に関していただいたご質問について」別紙(「原子力委員会」 「原子力政策大綱」)




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