3. 核燃料リサイクルの評価




 核燃料リサイクルとは、非常に聞こえのいい言葉である。しかしその現実は、言葉と大きく乖離している。核燃料リサイクルとは、既存の軽水炉核発電(ウラン燃料使用)で使い終わった核燃料から、利用可能なプルトニウムなどを取り出し、それを再び燃料加工して、プルサーマルという発電方式で使用されることを言う。一応、リサイクルではある。しかし、このリサイクルは、ものすごいエネルギーを消費してしまうのだ。

 日本中の核発電所の核燃プールに冷却保存されている使用済み核燃料は、六ヶ所村の再処理工場へ運ばれる。工場内では、使用済み核燃料を溶かし、ウランプルトニウム酸化物とウラン酸化物を作る。ウランプルトニウム酸化物は、プルサーマル用のMOX燃料へと加工される。
 この核燃料リサイクルによるウラン資源節約効果は、せいぜい1割から2割程度であり(参照1)、これは、もしウラン資源が100年分あるとすれば、たったの10年か20年しか核燃料利用期間が延びない、ということだ。大したリサイクル効果はない。

 再処理工場は建設されるまで、すでに2兆円以上を費やしているが、廃止費用まで含めて、11兆円以上の費用のかかるものすごい工場なのである。廃止費用は1兆6000億円であるから、40年間操業のランニングコストは、総額から建設費用、廃止費用を引いて、7兆円以上となる。MOX燃料加工工場はまだなく、これも事業総額1兆円を超える(参照2)。
 MOX燃料を使用するプルサーマル軽水炉からも、当然のごとく使用済み核燃料が出る。これは使用済みMOX燃料と呼び、従来の使用済み核燃料とは区別しなければならない。放射能が強く、発熱量も大きい。したがって、仮にこれを地層処分する場合、従来の使用済み核燃料の、10倍の地上冷却期間を必要とする。使用済み核燃料を直接処分する場合、普通、30年から50年地上冷却するが、その10倍となると、300年から500年ということになる(参照3)。人間の寿命をはるかに上回る管理が必要となるが、まだ、このゴミをどうするか決定されていない(参照4)。

 この莫大な費用の裏側には、当然、使用されるエネルギーが付きまとう。費用がかかるということは、エネルギーを費やすということである。再処理工場などは、ランニングコストだけでも、相当のエネルギーを消費する。核燃料をリサイクルするということは、莫大なエネルギーを消費してしまうのだ。それに対し、ウラン資源節約効果は、たったの1割から2割。さらに、六ヶ所再処理工場ですべてをリサイクルするわけではない。これでは、エネルギー産出比は、限りなく1に近いか、あるいは、1より小さくなるのではないか。本来、核燃料リサイクルは、エネルギー産むべきシステムではあるはずではあるが、いかんせん、投入エネルギーが大きすぎる。したがって、核燃料リサイクルのベネフィットはほとんど存在しない、と断定していいだろう。

 一方、再処理工場のリスクは、核発電所のリスクに比べ、格段に大きい。
 まずは、再処理工場の火災事故、爆発事故が心配される。1993年に起きたトムスク事故は、六ヶ所と同じ再処理方式で起きたものであり、化学薬品の急激な反応によるとされている(参照5)。また、1957年に起きたキシュテム事故は、史上最悪の再処理施設での事故であり、冷却系統の故障によるとされている(参照6)。再処理工場は化学工場であるから、常に、火災、爆発の危険が伴っている。何重にも安全装置があるといわれているが、キシュテム事故のような冷却装置の故障は、命取りとなる。
 核発電所の非科学的な立地選定は、特に有名ではあるが、六ヶ所再処理工場も負けてはいない。敷地内を2本の断層が走っており、近くには活断層もある(参照7)。地震と同時に、さまざまな工程は自動的に止まるだろうが、破壊された場所は自動的に修復するわけではない。これは、人間が的確に対応しなければ、重大な事故につながることを意味する。再処理工場の人たちが優秀であることを願うのみである。
 自然界への放射性物質の投棄も心配の種である。国や日本原燃の説明では、低線量の内部被ばくを甘くみている節がある。確かに健康被害に遭う確率は低いかもしれないが、それでも運悪くガンなどに罹った人にとっては、不運で片付けられる問題ではない。

 核発電の最終的な問題は、使用済み核燃料の放射毒性にある。原子力政策大綱を立案した新計画策定会議の場では、直接処分、中間貯蔵、核燃料リサイクルなどを検討し、コスト比較を行っている。すなわち、選択肢としては、直接、地層処分をするシナリオもあったし、当面中間貯蔵するシナリオもあった。しかし、結果は核燃料リサイクルを行うことを決めたのだ。すでに指摘したように、核燃料リサイクルには、ベネフィットがほとんど存在しない。リスクばかりどんどん大きくなるなら、直接処分のほうが、まだマシである。

 これが、国のやろうとしている核燃料リサイクルの正体なのである。




参照
 1. 「原子力政策大綱」p36、第13回新計画策定会議「参考資料1 核燃料サイクル政策についての中間とりまとめ」p3(「原子力委員会 原子力政策大綱」)
 2. 第4回コスト等検討委員会「資料3 原子燃料サイクルバックエンド事業費の見積もりについて」(「資源エネルギー庁 電気事業分科会」)
 3. 「プルサーマルは、使用済MOX燃料が最大のネック(2)人類にとって未経験、『発熱し続ける核燃料』」(「日本インターネット新聞JanJan」←閉鎖につきリンク切れ)
 4. 「原子力政策大綱」 p38(「原子力委員会」) 「原子力政策大綱」)
 5. 「トムスク事故」(「原子力百科事典ATOMICA」)
 6. 「旧ソ連における南ウラル核兵器工場の放射線事故(キシュテム事故など)」(「原子力百科事典ATOMICA」)
 7. 「2本の断層が六ヶ所再処理工場の敷地を縦断」(「美浜の会」)、「『核施設を考える会』六ケ所で断層観察」(「Web東奥」)




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