4. 核発電政策の欠陥




 核燃料リサイクルにより、MOX燃料が生産されるわけだが、もともとこの燃料は、高速増殖炉に用いるために開発されたものである(参照1)。しかし、現実には、プルサーマルと呼ばれる方式で、軽水炉の核燃料に用いられる予定である。すでに見てきたように、再処理、プルサーマルには、ベネフィットはほとんどない。

 高速増殖炉「もんじゅ」がナトリウム漏れ事故を起こしたのは、1995年(平成7年)12月8日である(参照2)。この瞬間、核燃料リサイクルの最大の魅力が失われた。高速増殖炉が成功していれば、日本の核発電エネルギーは、数百年保障されていたのである(参照3)。しかし、その後も、日本国政府は核燃料リサイクルを推進する。
 2004年1月、電気事業連合会は、資源エネルギー庁へ、ある資料を提出した(参照4)。それには、プルサーマル用核燃リサイクルのコストが非常に大きいと記されており、これは後に、原子力委員会新計画策定会議技術検討小委員会でまとめられ(参照5)、11月24日、原子力委員会第13回新計画策定会議で、正式な報告書が配布される(参照6)。

 本来なら、核燃料リサイクルの巨額コストがわかった時、そこで政策転換すればよかったのだ。仮に、再処理工場建設費用2兆円をドブに捨てたとしても、後のランニングコストや廃止費用のほとんどが節約できる。しかし、である。日本全国の核発電所では、使用済み核燃料冷却プールが満杯に近く、なおかつ、中間貯蔵施設はまだない。核発電を止めないためには、使用済み核燃料を再処理工場へ送り込み、切り刻んで溶かすしかなかった。

 「もんじゅ」が事故を起こしてから、8年以上の月日が流れている。なぜ、8年も経ってから、こんなコスト計算をしたのだろう。もし、「もんじゅ」事故後、2年か3年の間に、この報告書が出ていたならば、再処理工場よりも先に、使用済み核燃料中間貯蔵施設を作っていたはずである。普通の常識ある日本人ならば、高速増殖炉が挫折した時点で核燃料リサイクル計画をいったん中断し、中間貯蔵を考えるはずである。現在計画中の核燃料リサイクルを実現させたところで、どっちみち中間貯蔵施設は必要なのであるから。

 この8年以上もの間、資源エネルギー庁はいったい何を考えていたのか、ボクは不思議でならない。彼ら官僚の怠慢としか言いようがない。あるいは、技術発展を信じ込んだ余程無能な連中と言い換えてもいいかもしれない。ところが、・・・・。

 驚くことに、1994年2月、つまり、もんじゅ事故の前年には、「核燃料サイクルの経済性試算について」という資料が作成されていた(参照7)。その事実が、10年以上も経た2004年7月3日に明るみになる(参照8)。どうやら、都合の悪い資料は、判断材料として扱わず、隠すことにしたようだ。

 こんなことは、普通の人たちに知られることは、まずない。どうせ彼らも、国民に対し、政策策定ミスを謝罪する気もないだろう。
逆に、これらの顛末を覆い隠すため、「核燃料のリサイクル」という広告を各メディアで流してきた。そしてボクたちは、それを良いものと信じ込まされてきたのだ。

 腹の中が煮えくり返ってくるではないか!

 核燃料リサイクルに、国益など存在しない。




参照
 1. 「MOX燃料」(「原子力百科事典ATOMICA」)
 2. 「事故の概要と経過」(「高速増殖原型炉もんじゅへようこそ」 「.高速増殖原型炉もんじゅのナトリウム漏れ事故と原因究明のあらまし」)
 3. 第18回新計画策定会議「資料第2号 高速増殖炉サイクルの意義(改訂版)」p7(「原子力委員会 原子力政策大綱」)
 4. 「電気事業連合会から提出された資料」(「資源エネルギー庁 電気事業分科会」)
 5. 「バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等の分析・評価」(「資源エネルギー庁 電気事業分科会」)
 6. 第13回新計画策定会議「参考資料2 基本シナリオの核燃料サイクルコスト比較に関する報告書」(「原子力委員会 原子力政策大綱
 7. 「平成6年2月4日『核燃料サイクルの経済性試算について』資料について」別添1(「経済産業省」)
 8. 「原子力・核関連年表6B(2003年7月〜12月)」(「聚史苑」)




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4-1. 核発電組織の推進テクニック
 4-1-1. コスト比較資料は「ロッカー」へ隠せ!
 4-1-2. 原子力委員会は、核利用を推進するために存在する
4-2. 地層処分は簡単!
 4-2-1. 驚きの地質構造
 4-2-2. 地層処分の現実
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