4-2-2. 地層処分の現実




 高レベル放射性廃棄物は、地層処分されることになっている。「原子力発電環境整備機構」が、日本全国の市町村に対し、処分地の公募をしているが、それに応えた自治体は、現在のところ、皆無である。正しくは、「最終処分施設の設置可能性を調査する区域」の公募であり(参照1)、その調査に応じるだけで、カネをもらうことができるらしい。

 地層処分の法整備も行われ、2000年5月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に制定される。これにより「原子力発電環境整備機構」が、2000年10月に設立された。法整備の前には、当然、地層処分の技術検討が行われ、1999年11月、「核燃料サイクル開発機構」(現在の「日本原子力研究開発機構」)から原子力委員会へと報告されている(参照2)。その報告の中でも、地層処分の多重バリアに関する議論が特に白熱している。「地層処分問題研究グループ(高木学校+原子力資料情報室)」は「‘高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性’批判」をまとめ、それに対し、「核燃料サイクル開発機構」側も反論をしている(参照3)。

 ボクは、多重バリアについての安全性について、どちらの言い分が正しいのか、はっきり分からない。というより、ほとんどわからない。大多数の人がわからない、というのが真実ではないだろうか。

 地層処分は、300mより深い地下に穴を掘り、そこへ高レベル放射性廃棄物を埋める。したがって、ボクとしては、その処分行程を円滑にできるかどうかの方を、まず最初に考える。
 「第2次取りまとめ」によると、実際に廃棄物が「定置」される処分坑道(つまり300m以深の地下坑道)までの地下へ潜る坑道をアクセス坑道というが、そこでは、立坑あるいは斜坑を掘り、斜坑の場合はエレベーターによる運搬が、そして、斜坑の場合は車両による運搬が行われる。処分坑道では、台車に乗せられ、所定の位置まで搬送される(参照4)。
 この運搬行程について、廃棄物の放射性毒性の強さから、次のように記されている。

放射線源となるガラス固化体および廃棄体のハンドリングでは,作業員による直接作業が不可能であるため,放射線の遮へい,あるいは作業の遠隔自動化が要求される。また,施設の放射性物質による汚染防止の観点から,ガラス固化体および廃棄体に対して然るべき検査を実施することが重要であり,さらに落下などの事故に対する安全上の配慮も必要となる。
参照4)

 ところが、この自動遠隔化などの技術開発は現在進行形であり(参照5)、核燃料サイクル開発機構は、「検討している」との表現にとどまっている(参照6)。つまり、今、「地層処分をやれ!」と言われてもできないのである。また、あらゆる行程には、トラブルは付き物である。例えば、立坑エレベータの落下や斜坑搬送車両の制御喪失時などの対策についても検討中である(参照7)。操業中、搬送行程でトラブルがあり、それを復旧するために長期にわたり操業がストップすることもあるだろう。万が一、落下などにより、オーバーパックが壊れ、ガラス固化体が露出し、そこへ湧水が流入したとしたら、復旧は困難を極める。操業中の地震が起きることもあるだろうから、決してあり得ない事ではない。地震による亀裂から生じる湧水を止めることができないとなると、最悪の場合、その処分地は放棄せざるを得なくなるかもしれない。
 トラブルに対する人間の高い対応能力を、強い放射線が妨げてしまうことは、事業を進める上で、非常に大きな足かせとなるのである。地層処分の操業期間は50年であり(参照8)、その間に起こりうるトラブルや災害を考えただけでも難問山積みである。

 このような状態で本当に地層処分できるのだろうか。現時点では、“可能性がある”という程度にしか感じない。
 もし、地層処分ができない、となると、高レベル放射性廃棄物は地上管理するしかない。これでは、半永久的にエネルギーを消費してしまうことになり、核発電というエネルギーシステム自体、意味のないものとなるのである。




参照
 1. 「公募について」(「原子力発電環境整備機構」)
 2. 「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性-地層処分研究開発第2次取りまとめ-」(「日本原子力研究開発機構」)
 3. 「『高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性』批判に対する見解」(「日本原子力研究開発機構」)
 4. 「分冊2 地層処分の工学技術」5.2.1 人工バリアの定置(「日本原子力研究開発機構」)
 5. 「高レベル放射性廃棄物の地層処分はできるか II」処分場の建設・操業・閉鎖の問題(「高レベル放射性廃棄物地層処分の批判的検討」)、
 6. 「『高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性』批判に対する見解」p24(「日本原子力研究開発機構」)
 7. 「分冊2 地層処分の工学技術」5.2.1.5 人工バリア定置技術の確認の必要性について(「日本原子力研究開発機構」)
 8. 「分冊2 地層処分の工学技術」7.2 基本スケジュールの設定(「日本原子力研究開発機構」)




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