「サクラ・・・」











だあれ・・・?私を呼ぶのは?

・・・ここはどこ・・・?

ゆっくりと目を開けると、周りにはただ真っ黒な世界があって。

ゆらゆらと私は漂っている。
・・・?・・・水の中みたい・・・

あたたかくて、・・・気持ちいい


だんだんと目を上にやると、
まわりの黒が深いブルーに変わって、

天井には水面で光がキラキラと反射しているのが見えた。




その輝きを放つ淡いブルーの色をした天井は
とてもきれいだと思ったけれど、
それはとてもとても遠くにあったので、
きっと届かないと感じた。







眠りたい・・・
このまま眠れたら気持ちいいだろうなあ

からだはどんどん沈んでいく。

深く、深く。







どこかで読んだ本の、中身をふと思い出す。

木の葉が緑に見えるのは、それが緑色の光を反射するから。
相容れない色の光にそのものが象徴されるなんて皮肉だわ。なんて思いながら。

じゃあ海は、青い色を反射するから青く見えるのね。

そうして海に吸収されるその他の色たちのなかで、
深海まで、耐えて残る光は赤。

ああ、ここが深海なら、

私は赤く見えるのかしら。




・・・血の色ね。


あなたとおそろい。


私は笑った。




そして考えた。

・・・だれと?





だれと?













ああ、思い出せない。

けれど、とてもとても大切な・・・。








「サ、クラ・・・」

・・・だあれ?
だあれ?私を呼ぶのは。



上のほうから?
だめよ。・・・あんな遠くまでいけない。


だめよ・・・もう、眠りたい・・・







「サクラ・・・」







「・・・だれ?」

いいかげんうるさくて、声に出して聞いた。




「愛してる・・・」








「・・・っ・・・だあれ?!・・・」


降ってきた言葉におどろいて、目を大きく見開いて
その言葉を繰り返してみた。

「あい、してる・・・?」
なつかしい。なんだろう。なんだろう?



「・・・ねえ・・・誰?あなた・・・誰・・・?」



上を見上げた。




あいかわらずキラキラと輝く水面は綺麗で、
そこまではとてもとても遠いとおもったけど、




あなたは誰?

それが気になるから、



腕にそっと力をいれて、

その輝きに向けて、手をのばしてみた。



どんなに手をのばしても、
届かないような気がしていたけれど、



あなたが気になったから、
私は思い切り、手をのばした。




重い手足をばたつかせて、
上へ、上へ。



お手伝いしましょうか?

気がつくと隣に、少年がいた。女の子みたいに綺麗な子だったけれど、私は彼が少年だと知っていた。
にっこりと、わらいかけてその少年が私の手を取る。

ありがとう。

わたしもにっこりわらって、ふたりで水の中を泳いだ。

とてもとても綺麗な子だった。
年のころは12、3歳・・・?
この子もなつかしい感じがする。
私、この子を知ってる。
そういうと、彼はふふ、とわらってその綺麗な目で私を見た。

「彼に、よろしく伝えておいてくださいね。」
「あの時僕が、わざわざこっちに来させないようにしたのに、どうして今度はあなたが来てしまうんです?」
さもおかしいというように彼は笑った。

「あなたたちは、似ていますね。」

大切な人を誰よりも強く想っているだけなのに。
どうしてふたりともこんなところに来たがるのですか。

否、誰よりも強く想っているからこそ?



願いはただあなたと愛し愛されること。
それだけかなえば、あとはなにもいらないのに。

大切なものが、いつ失われるとも知れない世界で生きるのはなぜ?
ただ一緒にいたいと思うだけなのに、かなわないことがあるのはなぜ?

それは忍びの世界だから?
戦いの世界だから?

ならそんなところ、いなきゃいいのに。



それでも、選んだのはどうして?







ああ、どうしてわたしは、ここにいるの?











「僕がいけるのは、ここまでです。」
「では、サクラさん、お元気で。」

さよならをいうために言おうとしたその子の名前が思い出せなくて、それでも彼が私と一緒には行けないことを私は知っていた。
「うん。あなたもね。」
また笑って、彼は消えた。
またいつか、会えるよね。




私は上を向いた。

ああ、不思議な感じ。


あの輝きがもうすぐそこに。









「サクラ・・・」







ああ、またあの声。










手をのばしたら、届くかしら?





お願い。私が手をのばしたら、その手を取って。















水面を破って、手をのばした。



輝きはそのぶんゆらりとゆれ、そこからでた手首は空気にさらされてひんやりと感じた。


そのとたん、手首の周りの空気がさえぎられ、何か暖かいものにそれは包まれた。






ああ、あなたに、届いた。










けして届かないと思っていたのに
手をのばせば、届くものもあるのね。



わたしはそれにひっぱられて、水からするりと抜け出して輝きの中にとびこんだ。

まぶしくて、目を閉じた。















 

 




おそるおそるうすく目を開けると光が直接差し込んできて、またまぶしくて目を細めた。

あの輝きの代わりにそこにみえたのは真っ白い天井。





「サクラ・・・!!」




あの声が聞こえる。





「サクラ・・・!大丈夫か?」

その声の主は私の肩をつかんで、その顔は私の目の前にあった。



私は目を開けて、その人の顔を見た。整った顔立ち。黒い瞳に黒い髪。ああ黒は、すべての光を吸収するからそうみえるのだと。
すいこまれてしまいそうな美しい人。
上手く声が出なかったけれど、その人の目を見て、ゆっくりと尋ねてみた。


ずっと気になってたの。



私を呼ぶあの声の主。













「あなた、だあれ・・・?」













NEXT

戻る