「・・・サスケくん!だめ!絶対ダメ!」
「・・・?・・・なんでだ?」
サスケが訝しげにサクラを見る。

「だって!共同生活でしょ?ご飯は、一緒に作ろう?家事、分担しようよ。何でサスケくんだけがやるの?」
「・・・」
サクラがそうしてくれてたから、とは言えない。

「・・・じゃあ、今日は一緒に作ろうよ。ね、決まり!サスケくんのお家行ってから、家事分担決めよ?」
サスケの様子を伺うように、サクラは問い掛けた。
「・・・俺のうちでいいのか?」
少し驚いてサスケは聞いた。

「んー・・・。ダメ?うち、二人じゃちょっと広くて寂しいかも。」
父親と母親のことは、覚えているらしい。いったいどこから、忘れてしまったのか。
「いや、サクラがいいなら・・・」
「・・・」
上目遣いにサクラが覗き込む。
「・・・変な女って、思ってる?」
「・・・?」
「・・・サスケくんのうち、行ってみたいの。」
サクラがサスケを見つめる。
サスケがサクラを見つめる。
吸い込まれそう。サクラは思った。どうして?それは、かの瞳の色のせいなのか、それとも。

サスケは思わずサクラのほほに手をのばす。少し指先が触れて、サクラのからだがピクッと反応する。
「っ・・・!悪い・・・」
はっと気づいて、サスケが手を引っ込めると
サクラは気まずそうにうつむいた。

お互いの鼓動が高鳴って、相手に聞こえてしまいそうなくらい。

サクラはどうしても静まってくれない心臓と赤くなる頬を押さえながら、「私、やっぱり変かも。」そう思った。

一瞬の沈黙は二人には長い長い時間のように思え
その静けさに堪えられなくなったかのようにサクラがおもむろに口を開いた。

「サスケくんのおうちの冷蔵庫、今何が入ってる?」
「・・・」
「なに、作れそう?」
そういえば、たいしたものは入ってない、とサスケは気づく。
サクラはにっこり笑って言った。
「スーパーよってこ?ね?」





かくして、ふたりぐらしが始まった。




最初の印象は、無口な人。
サクラはそう思う。
必要なこと以外は、しゃべらない。

その横顔だけ見ていれば、ともすると少しこわそうな
そんな雰囲気をただよわせる厳しい目元。
でも見つめるサクラに気づくと、サスケはなんだ?とたずねてくる
その瞳はとても優しかった。



「んー!!これ、このあんかけ、おいしい〜」
サクラは幸せそうに料理を口に運んでいく。おいしいものを食べるときってみなそんな顔。
「サスケくん・・・料理うまいんだね・・・」
・・・サクラはなんだか妬けてしまう。料理には結構自信があったのに。
「・・・別に・・・」
いままでこんな風に言われたことも、そもそも誰かのために料理を作ることもなかったから、サスケは照れて下を向いた。
「・・・この煮物も、うまい。」
こういう時どういえばいいかなんてわからなかったけれど、サクラがしてくれるように、自分もサクラに返せばいい。照れ隠しの仏頂面でサスケがそう一言ぽつりと言うと、
「ほんと?ほんと?!うれしい!」
サクラの花のような笑顔が返ってくるから
ほほをほんのり染めて目をそらした。
その料理の味が、前と全く変わっていないことが少し切なかった。

「サスケくん?」
むこうを向いてしまったサスケを不思議がって、サクラが声をかける。
「・・・サスケくん?」
もしかして、
サクラは思った。
照れてる?

・・・なんだか、サスケくん、

かわいい。

フフッ、と笑いがこみ上げてきて、

「なんだよ」
サスケに訝しがられた。
それもなんだか顔がすこし赤く染まっているように見えて、
また笑ってしまった。

その横顔をまじまじと見て
顔はすごくかっこいいわよね。
でも、かわいいなんて、おかしいなぁわたし。とサクラは思う。

「・・・サスケくんって、かっこいいよね」
いきなりの言葉にサスケは食べていたものをふき出しそうになった。
「・・・な、なに言ってんだよ。」
焦ったサスケは少しサクラをにらむ。
そんなのおかまいなしにサクラは微笑む。
「ウン、かっこいい。」
「・・・っ」
また、下を向いてしまうサスケ。
やっぱり、照れた!サクラはなんだか嬉しくなって、
「えへへ・・・」
笑いがとまらない。

新しいサスケくん、発見。



 

 

「・・・だめっ!!絶対ダメ!」
「・・・?なんでだ・・・?」
またか・・・?というようにあきれてサスケがパジャマ姿のサクラを見る。サクラの服は家から送られてきていた。

「もう、サスケくんのうちなのになんで私がベッドで寝るのよ!」
「おふとん、ないの?押し入れあけていい?」
ごそごそ押入れを探る。

「あ、あるじゃなーい。」
あ、それは。サスケはドキリとした。
サクラが持ち込んだ布団。
サクラが寝ていた、

・・・サクラの布団。

「さあて。これでよし、と。」
ベットの横にきっちりと布団を敷き終わるとサクラは満足そうに笑って、サスケに微笑みかけた。

「じゃ、おやすみなさい」
そういって布団に入ろうとするサクラの腕を、ぐいとサスケがつかんだ。

「?・・・サスケくん?」
「・・・おまえは、あっち。」
ベッドを顎で指す。
サクラは驚いて抵抗を試みた。
「・・・えー・・・だめだよっ!そんなの・・・!私がお布団で寝るから!」
「・・・いや、俺が。」

「・・・もう・・・!なんで・・・?だめだってば。・・・わたしがお布団で寝たいの!」
サクラはなかば怒っている様で、唇をとがらせる彼女におもわすサスケは笑いがこみ上げてくる。

「・・・どうしても。・・・おまえはべッド。」
サスケも譲らない。
サクラも負けない。
「・・・ダメダメダメ!ぜーったいダメ!サスケくんがベッドで寝るの!」

「・・・サクラ・・・」
おかしさに耐えきれなくてサスケは吹き出した。

「・・・もお・・・なにがおかしいのよ〜!」
こらえるように肩を震わせて笑っているサスケをサクラはぽかんと見つめて、また頬を膨らませた。
「いや、・・・頑固だな。おまえ。」

「そっ・・・それはサスケくんだって同じでしょ!」
サクラは顔を赤くしてサスケをにらみつける。

・・・ああ、・・・サクラだ。サスケは思った。


「なによ・・・」

笑いの止まらないサスケを見てサクラが唇をとがらせる。
「もう・・・サスケくんってばぁ・・・」
怒っているのになぜだかおかしくて、頑固さにあきれているのになぜだかそれがたのしくて、

こんなに笑うサスケを思いがけず見られたこともなんだか嬉しくて

「・・・もう・・・なによ・・・」
いつのまにか、サクラも一緒になって笑っていた

・・・ふたりで、笑っていた。


「・・・ねえ?一緒に寝よう?・・・ベッドで。」
そうしたらこんなことで喧嘩することもないでしょう?
クスクス笑うサクラはそう言ってサスケの顔を見た。

「ね?決まり!」
そしてにっこり微笑んだ。

 

 

 



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