二人は今度は、手をつないでゆっくりと歩いた。

 


木々が途切れると
まわりが急に明るくなって、
太陽の光がまぶしく二人を照らしていた。

あたりは一面の花畑。

あまりの美しさに大きく目を見開いて
サクラはその花々の絨毯にそっと足を踏み入れた。

「わぁ・・・きれい・・・」
視線を移していくと
絨毯の向こうには、ひときわ目立つ大きな木。

サクラは吸い寄せられるようにそこに向かって歩き出した。

今は葉が青々と繁っているが
まちがいなくそれは桜の木だった。

その幹に手をそえてその大きさを見上げる。

ここが思い出の場所だと、サクラは感じた。

「ねえ、教えて。」
桜の木に、問い掛けた。

たとえそれがつらい過去だったとしても
思い出すのは恐くない。

ただどうしてなのか、知りたいだけ。
私はどうしてここにいるのか。

本当はもう、答えは出ているような気がするけれど。

ねえ、さくら、教えて
あなたの見てきたことを



みんなのことを。

私のことを。

・・・彼のことを。







どこからともなく小鳥が一羽、サクラの肩に舞い降りた。

サクラは目を閉じた。

桜色の髪。まだ短い。
あのころはおでこが広いこと、すごくいやだった。
くすっと笑った。
あれは、わたしね。
まぶたの裏にわたしが、見えた。


『はい、今日のごはん・・・食べて・・・?』
『ケガは、もうよくなった?』

傷ついた小鳥を、こっそり世話していた。
家にもって帰ることも出来ず
このヒミツの場所で。

『もうすぐ、元気になるよね』

『もうすぐ、飛べるようになるよね』



サクラは木をぐるっとまわって、
ちょうどその影になる裏手のほうで立ち止まった。

ここから、六歩。

土が少し山のように盛り上がっていて、
サクラはしゃがみこんで地面をなでた。


あのときもこうして座り込んで、泣きながら土を掘った。




あの子のお墓。
肩の小鳥はいなくなった。





サクラはすこしだけ花を摘んで、そこにそなえた。
サスケは黙ってそれを見ていた。




「二つ・・・あったの。」
花が。
「あの時・・・」

「だれ・・・?」

毎日毎日お花を供えに行くのだけれど、
いつもいつも自分より先に誰かの花が添えられていた。


気になって、ある日かくれてみていた。

後姿が見える。
「だれ・・・?」

目を開けて、
サクラはまっすぐサスケを見た。




「うちは、サスケくん?」




 

頭が、割れる。








ねえねえみんな、聞いて!

わたし、好きな人が出来たの!

 

声が、する。



ヒトの、顔。

たくさん、たくさん・・・






ぎゅっと目を、閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの怪我をした小鳥は、一週間後に動かなくなった。

瞳が熱くなって、唇をかみ締めた。

かなしかったのか、寂しかったのかわからないけれど、私は大声で泣いた。

泣いて、泣いて、

手が汚れるのも構わずに土を掘った。
こうして埋めてあげれば、大地にかえることができると本で読んだ。
大地にかえるということがどういうことかはわからなかったけれど、
きっとそれが自然というものだということは、知っていた。

お墓を作って、お供えをするのだということも本で読んだ。
白い花を摘んで、その前にそっと置いた。


じっと、その土のふくらみをみつめた。
それは命の跡だった。


いつしか、私は眠っていた。
泣きつかれたのか。
小鳥の隣で、いっしょに眠っていた。

ただ違うのは私はもう一度起きて、
小鳥はもう鳴かないということ。







ああ、そうだ・・・
2つ、あった。

目がさめると、
お墓の前には花が2つ供えられていた。
ひとつはサクラの白い花

もうひとつは、サクラの1番好きな、ピンク色の花だった。

『だあれ・・・?』


目を開ければ、わかる。





「サクラ!!」




うっすらと目を開ける。
「大丈夫か?サクラ!?」

「サスケ、くん・・・」

それから1年くらい経ったころ
私はアカデミーに入学した。
そしてあの時見たあなたを、みつけた。
心臓がはねて、顔が熱くなる。
そばにいた友達に思わず尋ねた。
『あのこ・・・なんていうの?』
『え?・・・ああ!サスケくんのこと?』
『サスケ、くん・・・?』

じっと彼の後姿を見つめた。

 

 




『ねえ、みんな聞いて!

わたし、好きな人が出来たの!』

 

「好きな、ひと・・・」

サクラはまぶしさになれた瞳を大きく開けて、目の前のサスケを映した。


みんなは口々に言う。
『無口で目つきとか口調とかこわいけど、すっごくかっこいいのよねっ』
サクラもアイツかー。まあ、がんばりな!なんて。
男子の中でもサスケはそれなりに恐れられて、先生たちの間でも一目置かれた存在だった。



彼は確かにすごくすごくかっこよくて、それにいつも不機嫌そうな顔だったから、
本当にこの人があのお花を供えてくれたのかと疑うくらいぴりぴりとした雰囲気をただよわせていた。


ああ、でも

ずっとずっと見つめていたら、一瞬ふっと表情が緩んで、サスケは窓の外を見上げた。

その視線を追うようにサクラも外を見た。

鳥がさあっと窓に映って、小さく遠くに吸い込まれていった。

空は抜けるような青だった。



・・・お花、ありがとう。
サクラはこころのなかでつぶやいた。



ほんとうは、優しいんだね。

自然に笑みがこぼれた。










 

手をのばして、サスケの顔に触れる。
あの時ただ見つめるだけしか出来なかった彼の顔。
今はこんなにもそばにいる。

「お花・・・ありがとう・・・」

あの時いえなかった、言葉をゆっくりとつむいだ。




「サクラ・・・」
ぎゅっと抱きしめられて、
パズルのピースが少し、埋まっていった。



 

 

 

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