死ぬ前ってすべてがスローモーションで見えるっていうけどホントね。

倒れる自分を、まるで水中を漂っているようにゆったりと感じた。


サスケくん、ちゃんと逃げられたかな・・・?

崩れ落ちる岩のおとはもう私の耳には届かない。

眼も、かすんできた。



あ、わたし、死ぬのかな。





恐くはないよ。
たださびしい。
あなたをもう見られないことが。
あなたの声が聞けないことが。




























私が、重力に従って

倒れる衝撃に備えた瞬間

その痛みは不思議と感じず


ふわっと、何かにつつみこまれた。


















なんだか、なつかしい・・・におい・・・












私を抱えた腕は力強く、崩れ落ちる岩をすばやくよけて外へ飛び出した。ひんやりとした空気が心地よかった。

そして洞窟は轟音とともに崩れた。





















「・・・おい!」

「大丈夫か!!!」


私は薄く目を開けて、声の主を見つけた。


「サスケ、くん・・・」





思ったよりも声が出なくて、自分がもうボロボロだということに気づいた。
体中がきしんで、朱の服はもう、どす黒かった。

彼に抱きかかえられる格好で地面にからだを横たえた。血が脈打って私から流れ出し、土に染み込んだ。




「わたしのことなんて気にせず・・ちゃんと逃げてくれればよかったのに・・・」
笑ったつもりなのに、顔が動かなかった。


「・・・!おまえ・・・なにをしたんだ・・・?」

「んー・・・?・・・なんにも。約束したでしょ?あなたをちゃんと守るって。」
「・・・っ!」



「あ、サ、スケくん・・・。キズ・・・大丈夫・・・?」
「こんなの・・・!たいしたことない・・・!」


「ほんと・・・?よかった・・・。」






「心配だったんだ。サスケくんが死んだらどうしようって。」













「そんな顔しないで・・・?」
「私が勝手にあなたを守りたかったの。」











泣きたくなんかないのに
笑顔を覚えていてほしいのに





勝手に流れ落ちる雫が私の首を伝って彼のひざをぬらした。




 



初めて、血を、吐いた。




「ごめん・・・ね。」
「?」
「ずっとそばにいるっていってたのに・・・できそうにないや・・・」



「・・・おい・・・!しゃべるな!キズに響く・・・!」

「でも、ほんとは、・・・本当に、あなたと一緒にいつまでも・・・生きていたいと思ってたんだよ・・・?」
視界がゆがんで、

サスケくんの顔がぼやける。

それはきっと涙のせいだけではなく。






「エヘヘ・・・大スキだよ・・・サスケくん・・・」



ねえ、わたし、うまく笑えたかな・・・?



「・・・」


サスケくんが私を抱き寄せると、あたたかい水滴が私のほほに落ちた。

泣かないで、泣かないで。
ああ愛って美しいものなんかじゃない
あなたが悲しむこと私はきっとわかってた。

でも私はあなたを愛してしまったから
私にはこういう生き方しか出来ない。





「・・・私のこと、・・・忘れないで・・・ね・・・?」


ずっとそばにいられると思っていた。

一人ではあなたをすべて包めなくても、ふたりなら抱きしめあうことができるように

ふたりなら、歩いていくことができるでしょう?

いっしょなら、生きていくことができるでしょう?


でも
ゴメン、ね。




ずっとあのころのままでいたかったね

くだらないことで笑いあえた幼いあのころ。


















どんなに手をのばしても、



もう決して届かないけれど。

 

 








「サスケくん、・・・バイバイ・・・」


もう、サスケくんが見えないよ。












ぎゅっと抱きしめられて
あなたからポツリ、ポツリ、ふってくるコエとナミダ。

目を閉じた私を揺らす。存在を確かめるように。
でもごめんね、もう




・・・眠りたい

 



「・・・サ、クラ・・・?・・・サクラ・・・?」



あ・・・、なつかしい。



名前、呼んでくれたの、久しぶりだね。



・・・もう、二度と聞けないけれど

覚えておこう。
あなたの声。
あなたの顔。
あなたの体温。




私は、幸せでした。









「サクラ・・・!死ぬな!!」







「サクラァ・・・・・・っ!!」












私の顔に流れ落ちる
彼の涙は血の味がした。















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