音楽現代2020年6月号

準推薦 他者の曲を他の楽器編成に置き換える作業を、バッハもよくおこなった。たとえばヴィヴァルディの協奏曲をオルガン1台で弾けるようにする際は、内声を補って上声部との音形のやりとりの密度を高めたり、そういった手さばきの点で、メンデルスゾーンとシューマンのコントラストは明確だ。前者はバッハの骨格を示すため、難解なところを単純化したり、そこに分かりやすい注釈を入れたりする。後者はバッハの細やかさを表すために、微に入り細を穿つ情緒作りに精を出す。両者に共通するのは一見、二律背反にも思える姿勢だ。バッハの書いた部分を尊重しそのまま残す一方、両者の思い定める作品の芯を表現するためには、深く手を入れるのを厭わない。興味深い音盤テーマに感心。 ☆澤谷夏樹

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